第11話:夜闇の訪問者
凍結した管理ネットワークの光が完全に消え去り、王都の区画全体が重苦しい静寂に包まれていた。
カードの強制シャットダウンによって武装を奪われた特務騎士団の面々は、ただの丸腰の人間として冷たい床に膝をついている。その中心で、騎士団長バルドは歯を食いしばりながら、暗がりの入口を凝視していた。
「……増援か。いや、騎士団の暗号通信に反応はない。一体、何者の気配だ……」
バルドの呟きを遮るように、軽やかな足音が石畳を叩く。
それは、重装備をまとった騎士たちの足音でも、暴徒たちの足音でもない。音もなく夜の闇を滑るような、異質なまでに洗練されたステップだった。
闇の向こうから姿を現したのは、一人の少女だった。
深緑のフードを深く被り、その身体には一切のカードスロットを露出させていない。だが、彼女の周囲の空間だけは、奇妙なほどに周囲の魔力干渉を跳ね除けて歪んでいた。
「――やはり、ここか」
少女が口を開いた。その声には感情の起伏が乏しく、どこか機械的な冷たさと、底知れない知性が宿っている。
彼女は凍結したままの監視端末を一瞥すると、何の迷いもなく、佇むレイへと視線を向けた。
「あなたが、神殿の全ネットワークに逆流を引き起こした『例外因子』ですね」
レイは肩に担いだ【ただの木の棒】を下ろすことなく、冷徹な双眸で少女を見据えた。
システムが完全に停止しているこの状況下で、彼女が平然とここに現れ、自分を正確に指し示した事実。それが何を意味するかを、レイの頭脳は瞬時に分析していた。
「俺のこと知ってる風だな。少なくとも、あんたはこの街の管理システムに組み込まれた手先ではなさそうだ」
「当然です。私は、その腐敗したシステムそのものを外側から監視し、破壊するために動いている者ですから」
少女はフードを深く押し上げた。
その顔立ちは整っていたが、瞳の奥には光がなく、まるで情報の海を直接映し出しているかのような奇妙な輝きを帯びていた。彼女自身が、カードという理の枠外に存在する「何か」であることは明白だった。
バルドが恐怖に顔を引きつらせながら、震える声を絞り出す。
「まさか……お前は、神殿が極秘裏に存在を抹消したはずの、『未登録の異端者』……!」
「抹消されたのは、真実を隠蔽したいあいつらの方よ」
少女はバルドを一瞥すらせず、レイに向かって一歩踏み出した。その手には、カードではなく、古い金属製の奇妙なデバイスが握られている。
そこから発せられる微弱なノイズは、レイのポケットにある【白紙のエラーカード】の鼓動と完全に同調していた。
「私の名は――」
少女が名乗ろうとしたその瞬間、遠くの白亜の神殿から、大地を揺るがすような重苦しい鐘の音が響き渡った。
それは、王都の根幹を揺るがす重大な事態が発生したことを告げる、終わりの始まりの合図だった――。




