第103話:星の空と反逆の電波
軌道衛星が完全に砕け散った衝撃で、この星を数十年にわたって覆い続けていた灰色の分厚い雲が、巨大な円形に吹き飛んだ。
ぽっかりと空いた天の穴から剥き出しになったのは、王都の人間すら久しく見ていないであろう、宇宙空間の深い漆黒と、そこに瞬く無数の星々だった。
「……綺麗な星空。王都のドームがなくても、空ってあんなにキラキラしてるんですね」
ニアが装甲重機の窓に顔を押し当て、感嘆の息を漏らす。泥と排気ガスに塗れた灰色の世界しか知らない彼女にとって、それはシステムが作った偽物の光ではない、本物の宇宙の輝きだった。
「いつか、この星の雲を全部吹き飛ばしてやるさ。……今はまず、目の前の箱を開けるのが先だ」
レイの視線の先には、完全に沈黙し、一切の光を失った第三拡張都市の巨大なアンテナ群がそびえ立っていた。
第三都市――『情報と通信』を司る、星全土のネットワークの神経中枢。
軌道衛星からの絶対的な殲滅攻撃に都市の全リソースをバイパスし、さらに王都から強制的に回線を切断されたこの都市には、もはやレイたちを阻む防壁すら残されていなかった。沈黙した自動扉を【黒樹の邏卒】で物理的にこじ開け、四人は都市の最深部にある中枢コアへとあっけなく到達する。
「ここは私の独壇場ね。王都の目と耳を、全部私たちの『バグ』に染め替えてやるわ!」
エリスが不敵に笑い、無防備なサブフレーム・コアへ自身の端末を直接突き立てた。
凄まじい速度で赤黒いノイズがコアを侵食し、第三都市の機能が『REBELLION』のOSへと完全に上書きされていく。都市を埋め尽くす何千もの巨大アンテナが一斉に駆動音を立て、荒野へ向けて再起動を果たした。
レイは赤黒く脈打つコアに左手をかざし、三つ目の特権コードをインベントリへ抽出する。
【領域支配:サブフレーム・第参番】
・特性:惑星全域の通信網の掌握、および指定座標への環境データ強制上書き(ネットワーク・ジャック)。
「これで王都の連中は、外の世界の監視カメラ(目)も、通信傍受(耳)もすべて失った。完全な孤立状態よ」
エリスがコンソールを叩きながら歓喜の声を上げる。
「なら、引きこもってる連中に最高の『ノイズ』を届けてやろうぜ。星中のスピーカーを繋げ」
レイの言葉にエリスがニヤリと笑い、全チャンネルのマスターボリュームを最大に引き上げた。
『――王都の綺麗で無菌な箱庭に引きこもるエリート共。そして、荒野で泥を啜って生きるすべてのバグたちへ』
星全土に点在する廃墟のモニター、王都の外壁スピーカー、そして残存する防衛都市の通信網すべてをジャックし、レイの低い声が世界中へ響き渡った。
『俺たちは三つの都市を喰らい尽くした。理不尽なルール(論理)はもう崩壊してる。……この星のシステムは、俺たちバグが全部上書き(リブート)してやる』
それは、最強の牙を手に入れた反逆者たちによる、世界全土への痛快極まりない宣戦布告の電波だった。




