27話 6度目のHallo
目が覚めベッドから起き上がります。私、メリーにとっては6度目の朝です。
「おはようスリーピィ」私は抱きしめていたぬいぐるみのスリーピィに話しかけます。
「今回もありがとうございました」私はそう言って彼にお辞儀をします。物言わず無口な彼ですが、夜を共に乗り越えてくれた事に私は感謝しています。
短い電子音が聞こえました。スタッフさん達が持っている、IDカードを認証する音です。私はこの音が「Hallo」という意味に聞こえ、サヨナキドリのさえずりと同じくらいに好きな音。
「メリー、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「おはようございます。えぇ、とても良い朝ですね」
私は微笑みを作ります。真っ白な白衣に包まれたスタッフさんは微笑みを返してくれました。
「えぇとても。では早速今日の分のお薬です。全て飲んで下さいね」
「……はぁい」
メリーは笑みを崩さず、だけど内心少しだけ、気分が悪くなります。
大量のお薬はどれもとても苦いのです。苦いのは嫌いです。
だけど私はこれらを全て飲んでしまわないと、身体を保てずに死んでしまうらしいのです。
メリーはあのお方に食べられるまで死ねません。お前の笑顔は世界で一番美しい。あのお方が、そうおっしゃったから、私は今日もモナ・リザの如く頬笑んでみせて赤と青の2色で出来たカプセルを飲み込んでみせるのです。
「では、こちらがお召し物です。髪もとかしますので」
スタッフさんは私のパジャマを丁寧に脱がします。慣れた手付きで、私はあっという間に裸になります。そのままスカート、ワンピースを着させてもらいます。私はそのまま椅子に座り、髪をとかして貰います。
「――メリー、やっぱり貴方は美しいですね」
髪をすくスタッフさんの手は、僅かに震えています。
「同じ女性の貴方でも、そう思うのですか?」
「貴方は芸術品です。どんな女より美々しい。貴方の髪をとかす時、いつも恐怖を感じてしまいます。……触れると壊れてしまいそうで」
「……そうですか」
私の美しさは、あのサヨナキドリの声と同じなのでしょうか?
私には私の美しさが分かりません。だからぼんやりと肯定するしか出来ないのです。
足音が聞こえました。スタッフの女性は深々と頭を下げます。私は立ち上がりロングスカートの裾を摘まみ片足を少し引くのと同時に広げます。
「おはようメリー。今日もお前は美しいな」
私というアクセサリーの所有者、アレン・キャビン・スチュワード16世。大きい身体、立派な髭。まるでライオンの様な方です。
「アレン様! ありがとうございます」
アレン様は私を抱きしめ、首にキスをします。――ゾクリと。得体の知れない感覚が、一瞬体をすり抜け、私は吐息が漏れてしまいます。
「相変わらずお前は良い香りがするな」
私の身体は普通と違い、髪、汗などの体液……。
花の様な匂いがするらしいのです。私がもしあの花達と同じだとして、この国に沢山咲いている花達は、本当に美しいのでしょうか?
誰が、美しいと定義したのでしょうか?
私は、花の様になりたいのでしょうか?
何度考えても私には、分かりません。
分からない事を、ずっと考えています。
「昨日はよく眠れたか?」
「はい、とっても」
メリーは嘘を付きました。
メリーは夢を見ることが出来ません。夜は世界で一人ぼっち。それは、とても恐ろしい事です。眠れないメリーはいつも恐怖で気絶するように眠り、強制的に朝を迎えるのです。それでもメリーはアレン様が好きな笑顔を見せます。
「メリー、いよいよ今夜だ。楽しみにしてるよ」
アレン様私を抱きしめたまま力強く笑います。
「はい! 私は生まれてから、この日をとても待ち遠しにしていました」
一般的な女性と違い、私の身体は一度食べられただけで死ぬそうです。
私は微笑みながら、この脆い私が一体どんな味がするのか、想像をしてみるのです。




