23話 紅く実る
クジャクさんのお店は、とても煌びやかで、クジャクの名前にとても合っている場所でした。
「ほな、乾杯!」
クジャクさんはお酒を凄い勢いで飲みます。
「落ち着かない場所ね」ドアを開けたアンズ姉様は不機嫌そうに言います。
「アンズはん! 相変わらず綺麗やなぁ。この前テレビCM見たで! 化粧品のやつ」
「そ。あんたに褒められても嬉しくは無いわ」
「デートしようや、デート」
「あんた他の淫魔の子達にも同じ事言ってるでしょ? 私を他の女と一緒にしない事ね」
「いやー淫魔の女の子達はみーんな綺麗やからなぁ。でも、アンズはんが一番やで! だからデートしようや!」
「絶対っ嫌!」
クジャクさんの甘い言葉に、あくまで冷淡な姉様。
「ックク……」ルシルさんは口を押さえながら笑っています。珍しい顔、と私は思います。
「クジャクは俺と最初あった時、俺の事を女だと思って口説いたからね。綺麗なお姉さん、僕と夜景の見えるレストランに行きませんか? って。あれは傑作だったな」
「ちょっルシルはん、それは言わん約束やん!ワイが見抜けなかった事は、一生の不覚なんやから!」
クジャクさんは焦った様に声を上げます。
そんな様子がとても可笑しいです。
「デートなら、私で良ければしましょうか?」
「ほんまぁ!? いちごはんは神様やなぁ」
歓喜を上げるクジャクに笑った直後、額に軽い痛みが。
「ふぇ!?」
ルシルさんが指で弾いたのです。ちょっとだけ、呆れた顔で。
「いちごちゃんもクジャクも懲りないね、まったく……」
アンズ姉様は私に耳打ちをし、「羨ましい……」と熱っぽい声で言います。たしかにいじわるをしてと言いましたが、痛いのはイヤです。アンズ姉様は痛いのが好きなのでしょうか?
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていき、解散する事になりました。
アンズ姉様はモデルの仕事。
クジャクさんはホストの仕事。
みんなお仕事があるのにルシルさんには無いのですかと聞くと、「俺にはちゃんと、王様という仕事があるんだよ。今からそれを見せてあげよう」
そういうと、隠していた翼が広がり、ーーこれは【夢飛行】です。
私達の目の前には湖が広がっていました。
ほとりには沢山の花が咲いていて、湖の色は––オーロラと同じ色でした。
「ここは……?」
「前に僕達は庭師だと言ったね。ここが神様が作った夢の庭園だ」
ルシルさんは静かな笑みを浮かべ、先生の夢から採取した、夢が詰まったラムネの瓶を開け、湖に流しました。オーロラの湖は幻想的な輝きを増します。
「いちごちゃん。今回、君は本当に頑張った。君のおかげで、普段より水質の良い夢を手に入れる事が出来た。葛城誠も、また夢を見続けられる。
庭師の長として、ルシル•メア•グッドナイトとして、礼を言わせてもらうよ。……ありがとう」
また、ありがとうと言われました。
最初は誠先生。そしてルシルさん。
ありがとうと言われると、私の胸は、春の日差しを浴びた様に暖かくなります。
「では……その報酬に、私を食べてくれますか?」
「––目を瞑って」
言われた通りに目を閉じます。すると私の心臓の鼓動が聞こえます。とても、速い。
いっとみー。さぁ、お召し上がりください。
––ほっぺに温かい感触、
目を開けるとルシルさんはいたずらっぽく笑いました。
「君を食べるには、まだまだ早い。俺は好物は最後まで取っておく主義でね。今日はこれで我慢してもらおうか」
残念。だけど同時に、どこかホッとした気持ちでもあります。
私はまだまだ、紅く実れるのでしょう。
彼のご馳走になりたい。
果実の名前を貰った私は、そう強く思ったのでした、




