14話 大人
「どうでしたか、誠さん。念願の告白は出来ましたか?」
ルシルはにこやかに僕に問いかけた。どうやったら、そんな風に冷たい笑みを浮かべられるか、不思議だった。
「ふ、ふざけるな! 夕梨花があんな事なんて……デタラメだ!」
僕はやり場の無い怒りをぶつけるように彼の胸ぐらを掴んだ。
「お気の毒ですが、事実です。清水夕梨花は援助交際をしていた。そしてそれを悔い、駅で飛び込み自殺をした。」
彼は美しい顔を全く変えずに答える。
「な、なんだって……?」
驚きで手を離す。自殺? 僕はそんな事、一切知らない。夕梨花は事故に巻き込まれたんじゃ……?。
「ほら、見て下さい。当時の新聞にちゃんと載ってますよ」
そう言って彼は皮鞄から新聞を取り出し、僕に手渡した。僕は恐る恐るそれを手にし、広げてみる。
――年8月31日。午前7時、○○県○○駅のホームにて人身事故が起こり、○○高校に通う清水夕梨花さん(17才)が死亡しました。警察署は自殺とみて捜査中――。
手が震える。首筋から汗が流れた。8月31日、夏休みの最後だ。確かにその翌日、彼女は学校に来なかった。僕は事故に遭ったんだと今まで思っていた。だけどまさか、自殺だなんて……
「おや、誠さんはご存じ無かったのですね。まぁ、無理も無いでしょう。だって貴方はその事実を知り、正気でいられなかったのだから。人は、余りに認めたく無い事が起きると、記憶を自分で変えてしまう様ですよ? 都合の良い記憶にね」
僕が彼女の死を知ったのは、朝、登校したとき、友人から聞かされてからだった。その担任が青ざめた顔で、緊急朝会を行うと発言したとき、たちの悪い噂話では無い事が、判明したのだった。
ルシルは捕まれた襟を直しながら続ける。
「今回貴方が過去とは違い彼女に告白した事により、夢は貴方の知るものとは形を変えてしまった様ですねぇ。今回の夢は、旧懐の夢ですから、形が変われば貴方が知ることも変わる訳です」
「……夕梨花は、なんであんな事を」
怒りの感情は誰に対して向けているのか分からない。夕梨花なのか、それとも僕自信か。
「あんな事? あははははは!」
突然ルシルは笑い出した。
「何が可笑しいんだよ!」
僕は怒りにまかせ叫んだ。すると彼は僕の目をのぞき込み、笑った。いや、嗤った。
「あはははは! 誠さん! これは最高に可笑しい話ですよ! だって貴方は先日、いちごちゃんを買おうとしたのではありませんか!
全ての感覚が麻痺する。どれだけ過去の夢を見ても、今は変わらない。僕は既に、汚い大人に成り果てていた。僕は叫び、耳と目を塞いだ。しかし、いつまでもルシル・メア・グッドナイトの声はいつまでも残響し続けた。




