みんなで海に行く
近衛悠斗は極々普通の高校生である。
唯一、普通の高校生と違う点を挙げるのであれば彼が幼少の頃より、《近衛流體術》という特殊な武芸を身に付けていたところであろう。
ピカピカと輝く日差しが、揺らめく水面を眩しく照らしている。
太陽の光によって彩られたエメラルドグリーンの海は、南国のリゾート地のような美しい雰囲気を醸し出していた。
「海だあああああああああ!」
今現在、悠斗が何をやっているのかというと、今年二回目となる海水浴であった。
「……おお! 良い雰囲気の海岸ではないか!」
水着姿の金髪の美少女が岩陰の中から現れる。
彼女の名前はシルフィア・ルーゲンベルク。
卓越した剣の技術を持った金髪碧眼&スタイル抜群の女騎士である。
もともとは高名な騎士家庭で生まれ育ってシルフィアは、色々と訳あって悠斗の奴隷として生活するようになっていた。
「びええええ!? これが海……! なんてキレイなんでしょうか!」
続けて、水着に着替えて岩陰から現れたのは犬耳の美少女であった。
彼女の名前は、スピカ・ブルーネル。
頭から犬耳を生やしたライカンという種族の彼女は、悠斗の家に住んでいる奴隷の女の子たちの中でも最古参メンバーだった。
「ふにゅ~! パナいのです!」
「おお。これはスゲーな」
続けて水着に着替えて現れたのは、リリナ&サーニャのフォレスティ姉妹である。
頭から猫耳を生やしたフォレスティ姉妹は、2人揃って、奴隷として悠斗と共に生活を送るようになった美少女であった。
(ふむ。海も良いが、やはり女の子の水着姿は最高だな)
言うなればこれは、家族サービス、ならぬ、奴隷サービスと言ったところだろうか。
以前に海を訪れた際は、色々と事情があって、スピカ・リリナ・サーニャの3人を連れていくことができなかった。
このところ家を空ける機会が多かった分、悠斗は、女の子たちを労ってやる必要があると考えたのである。
「……まったく、このご時世に呑気に海水浴だなんて。下賤な発情豚の考えは、理解不能ですね」
最後に岩陰から現れたのは、水着に着替えたサクラであった。
「だからだよ。こんなご時世だからこそ、息抜きも大切だぜ!」
以前にナンバーズのアジトへ訪れた際にハッキリと分かったことがある。
邪神の復活が近づくにつれて各地に出没するようになった《ブレイクモンスター》の影響により、この世界の治安は悪化の一途を辿っていた。
もし仮に――。
邪神が復活することになれば、世界は《闇の勢力》に飲み込まれることになるらしい。
今回の遠征には、平和なうちに女の子たちと出かけておこうという意図が存在していたのである。
「恐れ入ったぞ! 王都からそう離れていない場所にこれほどの場所があったのだな。この海の透明度は、故郷のルーメルと比べても引けを取らないものだ」
「ふふふ。シルフィアがそう言ってくれるなら、海まで来た甲斐があったってもんだぜ」
今回、訪れた海は悠斗が以前にエアロバイクで周囲を散策していた際に、偶然にも発見したものである。
周囲を山に囲まれた立地的にエアバイクなしでは、立ち入ることが不可能と言ってよいものである。
白色の貝殻に覆われていたビーチは、人の手が入った様子が何処にもない。
完全に悠斗たちの貸し切り状態だったのだ。
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それから。
暫く海の中で遊んでいると、バシャバシャと水音を立てながらサーニャが悠斗の傍に駆け寄ってくる。
「ふにゅ~! 見て下さい! お兄ちゃん! ちっちゃなイカを捕まえたのです~!」
そう言ってサーニャが差し出してきたのは、掌の中に納まるくらいのサイズの小さなイカであった。
「へえ。こんな浅い場所でもイカが泳いでいるものなんだな」
悠斗が驚いていると、隣で優雅に読書に興じていたサクラが何事かと覗き込んでくる。
「なるほど。これはアオリイカの子供ですね」
「アオリイカ? なんだ。それは?」
「アオリイカは最大50センチほどまで育つ、イカの王様とも呼ばれる魚介類ですね。春が産卵期の生物ですので、孵化したばかりの個体が浅場に居着いていたのでしょう」
「へえ。そんな奴が泳いでいたんだな」
この時、悠斗にとって知る由もないことであったが、アオリイカとは現代日本に換算すると1キロあたり5000円の値段がつくこともあるほどの高級食材であり――。
都心のスーパーなどでは、滅多に購入することのできない貴重品であった。
「美味しそうなのです。ジュルリ」
「おいおい。生で食べるのは危ないから止めとけよ」
「ふにゅ~! パクリ!」
「あ! コラッ! 言った傍から口に入れやがって!」
リリナが注意を聞かずにサーニャは、平然と口の中に捕まえたばかりのイカを放り込んだ。
ケットシーという種族にとって、海産物は他の何にも替えがたいほどの大好物だったのである。
「ふにゅにゅっ! 激ウマッ! なのです!」
新鮮な子イカを口にしたサーニャは、興奮のあまり頭から伸びた猫耳をピーンと延ばすことになる。
「なにっ! 本当か!?」
「サーニャ! こんなに美味しいイカを食べたのは、初めてなのです!」
サーニャの言葉が引き金となったのだろう。
魚好きの本能を刺激されたリリナは、テンションを上げているようであった。
「ユート! ちょっとオレたちは、今夜の食材の調達に行ってくるぜ。行くぞ! サーニャ!」
「合点承知、なのです!」
言うが早いか、リリナ&サーニャは、素早い身のこなしで海の中に戻っていく。
水着姿の猫耳姉妹は、色気より食い気といった感じであった。