VS アーク・シュヴァルツ(再戦)
「行くぞ。コノエ・ユート」
剣を抜いたアークは、無数のフェイントを交えながら悠斗の元に接近する。
(コイツ……! 早い!?)
時間にするとほんの1秒にも満たない動作ではあったが、これだけでも相手の力量を図るのに十分なものであった。
間違いない。
目の敵は過去に戦ってきた中でも最強クラスの相手なのだろう。
「後ろか!?」
不意に相手の姿が消えたので、身の危険を感じた悠斗は咄嗟に振り返って、敵の刃を回避する。
ガキンッ!
ズガガガガガガガガガ!
アークが《聖剣スターダストブレード》を振るった次の瞬間。
眩いばかりの閃光が衝撃波となって、地面を抉り、大きな道を作っていく。
「ほう……。今の動きについてくるか」
アークは感心していた。
先のやり取りでアーク使用したのは、《縮地》と呼ばれる移動技術である。
どんなに修行を積んだものであっても、人間の集中力というものは完璧ではない。
一定の間隔で生じる相手の意識の隙を突いて、背後に移動するこの技は、アークが1000年にも渡る人生の中で会得した必殺の技術であった。
(おいおい。これはマジでシャレにならないぞ……!?)
ただでさえ厄介極まりのない相手だというのに、保有している武器の性能が違い過ぎる。
もしも半端な武器で受け止めようとすれば、武器を貫通して致命的なダメージを受けることは間逃れないだろう。
「行くぞ! コノエ・ユート!」
そこから先は苦しい展開の連続であった。
アークは《縮地》を交えた戦闘術と保有している武器の性能により、ジリジリと悠斗を追い詰めていく。
悠斗は近衛流体術の奥義である《鬼拳》を発動して、敵の猛攻に対応していく。
(コイツ……。強い!)
保有している武器の性能に気を取られがちであるが、何より悠斗が驚いたのは、アークが身に着けている『基本的な戦闘スキル』であった。
アークの動作には全く隙が無い。
目の前の相手の真に警戒すべき点は、固有能力《転生》千年に渡り積み上げてきた底なしの戦闘経験値であったのだ。
だがしかし。
実のところ、戦闘の際に焦燥感を抱いていたのはアークの方も同じであった。
(この男、オレの動きに対応してきた……!?)
止めを刺そうとしても寸前のところで攻撃を躱されて、決定打を出すことができない。
戦いを経過するにつれて悠斗の反応速度が上がっているのは、誰の目から見ても明白であった。
一刻も早く仕留めなければ、返り討ちになるかもしれない。
そう考えたアークが大きく剣を振り下ろした直後であった。
「そこだ!」
悠斗は攻め焦るアークに生まれた隙を見逃さない。
貫手。
さながら自身の腕を1本の《槍》のように見立てて突くこの技は、世界各国の幅広い武術で使用されているものだ。
シュオンッ!
悠斗の放った鋭い一撃がアークの体に向かって伸びていく。
「グハッ――!」
寸前のところで後ろに飛んで致命傷を回避したアークであったが、胸部にダメージを負った結果、口から激しく血を噴き出すほどのダメージを負ってしまうことになる。
床の上に強く体を打ち付けたからだろう。
後ろで束ねていたアークの髪の毛がほどけ、バラバラに散らばることになった。
(クッ……! 油断した……。まさかコノエの成長速度がこれほどのものだったとは……!?)
素早く体勢を立て直したアークは、慌てて回復魔法でリカバリーを図ることにした。
以前に戦った時とは、別人のように見違えている。
戦闘時の魔力格差を補う幻鋼流の技術を身に着けた悠斗の成長スピードは、アークの予想を遥かに上回るものだったのだ。
「ん……? んん……?」
一方、その頃。
本来ならば『次の攻撃』に取りかかるべきタイミングであったが、違和感を覚えた悠斗は、思わず追撃の手を止めてしまうことになる。
おそらく先のダメージを受けて胸周りに巻いていた『さらし』が外れてしまったのだろう。
髪の毛がほどけて、胸部を晒したアークは、どこからどう見ても同性と呼べるような姿をしていなかった。
「お前、女の子だったのかよ!?」
思わず、ツッコミを入れてしまう。
これまでにも男にしては何処か中性的な雰囲気があるとは思っていたのだが、まさか女の子だという可能性にまでは思い至らなかった。
精神的には男であることには変わりないが、実のところアークは、黒髪が麗しい中性的な雰囲気を持ったクール系の美少女だったのである。