世界の秘密
「今、オレたちが見ているものは、この世界の歴史そのものだ。今からお前にはそれを見せておこうと思う」
「世界の歴史? もしかして、それを見せるのが彼女の能力なのか?」
「能力? ふふふ。随分と野暮なことを言うのだな」
意味深な言葉を継げるアークは、悠斗にとって衝撃の事実を言ってのける。
「彼女の名前はアルテミス。この世界を作った『神』のうちの1人だ」
「…………」
どうやら伊達や酔狂で言っているわけではないらしい。
目の前の人物が真顔で冗談を言うようなタイプではないことは、短い付き合いではあるが、薄々と察することができた。
(なるほど。この子は神様だったのか! 道理でキレイなはずだよな!)
納得の行く返答を得た悠斗は、心の中でポンと手を叩く。
アルテミスの持った神秘的な雰囲気が何処か『人間離れ』しているのは、悠斗も認めるところであった。
そもそもスキル、魔法といった概念が存在している時点で、この世界は悠斗の住んでいたものとは色々と事情が異なっているのだ。
悠斗は思う。
この世界においては、変に疑ったりせずに『そういうこともあるのだろう』と割り切る方が、建設的な生き方だろう。
「さて。説明を続けようか」
アークの合図と共に周囲の景色は何時の間にか、1つの星にクローズアップをして、1組の男女を映し出すことになる。
「かつて、この世界は2人の神が作ったと言われている。女神アルテミスはこの世界に『光』を作った。邪神アスタロトはこの世界に『闇』を作った。
2人が生みだした生物はそれぞれ『光の勢力』『闇の勢力』と呼ばれ、このトライワイドで長きに渡る『争い』の連鎖をもたらした」
周囲の景色は『光の勢力』と『闇の勢力』の戦いの様子に切り替わっていく。
アークを先頭に率いる人間たち、『光の勢力』を迎え撃つのは、魔族、モンスターと言った『闇の勢力』の面々であった。
「今見ている映像は500年前にオレが『魔王』と呼ばれる魔族を倒した時のものだ。オレたち光の勢力』は、戦いに勝利した。
これにより人類に平和が訪れたと思われたが……。実際はそうならなかった。何故だか、分かるか?」
「うーん。そりゃ。敵の親玉、邪神っていうのが生きているからじゃないか?」
「ああ。その通りだ。だが、事態はそう単純な問題ではなかったのだ」
何処か憂いを帯びた眼差しでアークは続ける。
「……この世界は砂時計のようなものなのだ。『光の勢力』と『闇の勢力』は、およそ1万年を周期にして入れ替わっている。一度でも時計の向きが変われば、1万年の間は、双方の優劣が変えることはできないのだよ」
そこまで聞いたところで悠斗は、この世界で起こっている『異変』について、なんとなく察しをつけることができていた。
(えーっと……。つまり、今現在、世界がおかしなことになっているのは、その邪神っていうやつの仕業ということか)
ここ数カ月の間に新しく存在を家訓されたブレイクモンスターたちは、瞬く間のうちに出現数を増加させている。
今まさにこの世界が、『光の周期』から『闇の周期』に移り変わろうとしているのだとしたら?
現在、起こっている異変にも納得が行くものがあった。
「最初に言っておく。『闇の周期』に入れば、オレたち人類は総人口の99パーセントを失うことになるだろう。これは、かつてのオレの仲間が残した神託に記されていた確定した未来だ」
今まで以上に真剣な表情でアークは言った。
仮に世界が『闇の周期』に入ったとしても女神アルテミスの力が届く、王都の周辺だけはその影響を軽微なものに留めることができるだろう。
生き残る価値のある選べられた人類を王都の周辺に集めて、《闇の勢力》から身を守ること
それこそがナンバーズのメンバーに与えられた裏の使命だったのである。
「遅くとも50年以内に崩壊の時は訪れる。ナンバーズに入ると言うことは、この世界を救う責任を負うということ、生き残るべき1パーセントの人類を選別する側に回るということだ。貴様にその覚悟があるのか?」
アークに問い詰められた悠斗は、両手を突き出してハッキリと否定の意思を突き付けることにした。
「いや。全く」
実際に話を聞いてみてハッキリと分かった。
色々と小難しい説明を受けた気がするが、いまひとつ興味が沸いてこない。
悠斗にとって『世界の命運を握る戦い』など、外国の天気のようにどうでもよいことである。
現代日本で暮らしていた頃から悠斗は、地球温暖化の問題より、今日の晩御飯のおかずは何か、ということに頭を悩ますことが多いタイプの人間だったのだ。
「……異なことを言う。だとしたら貴様は何故、オレたちのアジトを訪れたのだ?」
「そりゃ、仕方がないだろ。可愛い女の子に誘われたら誰だってついていくさ」
「…………」
正直に思ったことを告げると、アークの顔色が次第に青ざめたものになって行くのが分かった。
「バ、バカな……。本当にそれだけの理由だったのか?」
「ああ。使命だとか、責任だとか、そういうのはどうだっていいんだよ。何時だって俺は、可愛い女の子の味方だ!」
キリッとした凛々しい表情で悠斗は言った。
50年も先の未来の危機を話されたところで今ひとつ興味が沸いてこない。
仮に予定が早まって、99パーセントの人類が死滅するような未来に陥ったとしても、残りの1パーセントに入れば良いだけの話である。
どんな危険が降りかかっても自分と周囲の女の子たちを守れるよう悠斗は、今までずっと力を蓄えてきたのだった。
「フフフ。フハハハハ!」
どんなに思考を巡らせても悠斗の思考を理解することができない。
考えることを放棄したアークは、唐突に笑い声を上げていた。
「なるほど。そうか。お前という男のことが良く分かったよ……」
好戦的な表情を浮かべたアークは、腰に刺した剣を抜く。
味方にならないのであれば、計画に支障をもたらす可能性のある不穏分子は抹殺しなければならない。
それこそがナンバーズの設立者としてアークが下した結論であったのだ。
「――貴様は危険だ。オレが今、ここで殺す!」
聖剣スターダストブレード@レア度 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(選ばれし者にのみ保有が許される聖剣。その一撃は光すら切り裂く)
アークが抜いた剣、《聖剣スターダストブレード》は悠斗が今まで見てきた武器の中でも最高級のレアリティを誇る武器であった。
どうやら戦いは避けられそうにないらしい。
悠斗とアーク。
思いがけないタイミングで二度目の戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。




