アジト侵入
爽やかな朝の風が背の高い草木を揺らしている。
それから。
一通り夜のプレイを楽しんだ悠斗は、王都エクスペインの街の郊外にまで足を運んでいた。
王都と言っても、中心部から少し外れていくと、人が住んでいるとは思えない荒地になっているらしい。
キャップラット 脅威LV1
ホーンラビット 脅威LV2
今回は討伐が目的ではないのでスルーするが、周囲にはチラホラと小型のモンスターの姿も見えるようになっていた。
「えーっと。たしか地図によると、この辺のはずなのだけどな……」
暫く荒れた道を歩いていくと、目的の場所が見えてくる。
もう随分と長い間、手入れをしていなかったのだろう。
地図に記されていた教会は、植物のツタに覆われて、廃墟のようにボロボロの状態であった。
「本当にこの中にアイツ等のアジトがあるのかな……?」
曰く。
ナンバーズのアジトは、エクスペインの街の各所に設置された『地下通路』を通ることで入ることができるらしい。
この廃教会もその1つである。
悠斗の目的は、この廃教会の中に秘密裏に設置された地下通路にあったのだ。
ギギギギギギギギッ。
寂れた扉を開いて中に足を踏み入れる。
そこで悠斗を待ち受けていたのは、予想外の光景であった。
ヴィクトル・ゲイツ
種族:ライカン
職業:盗賊
固有能力:透過
透過@レア度 ☆☆☆
(自身とその周囲の物体を透明に変えるスキル。使用中は移動速度が激減する)
「なんだぁ? テメェ?」
教会に到着するなり、悠斗に声をかけてきたのは人相の悪い男であった。
(……職業が盗賊か。なるほど。いかにも感じだな)
中心部から程よく離れた場所ならば、王都の騎士団の目も届きにくいという面があるのだろう。
ナンバーズのアジトに繋がる廃教会は、盗賊たちの根城となっているようだった。
「おい! 小僧! ここがオレたちヴィクトル盗賊団のアジトと知って入ってきたのか? ああん?」
最初は彼らも『ナンバーズ』の一員なのか? と考えた悠斗であったが、直ぐにその可能性はないのだと思い直す。
警鐘@レア度 ☆☆☆☆☆
(命の危機が迫った時にスキルホルダーにのみ聞こえる音を鳴らすスキル。危険度に応じて音のボリュームは上昇する)
何故か?
それというのも、これだけ大勢に殺気を向けられているにもかかわらず、警鐘のスキルは発動しなかったからだ。
相手の力量から察するに、彼らがナンバーズの構成員である可能性は極めて低そうな感じだった。
「なあ。おい! なんとか言ったら、どうなんだよ! 糞ガキがっ!」
盗賊の頭、ヴィクトルは、身の丈180センチを超えようかという大男だった。
激昂したヴィクトルは、悠斗の胸倉を掴んで、口汚い言葉を浴びせにかかる。
だがしかし。
次の瞬間、ヴィクトルの視界はグルンと大きく一回転することになる。
「ぬおっ!」
不意に宙に舞うことになったヴィクトルは、思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。
全ての格闘技の長所を相乗させることをコンセプトとした《近衛流體術》を習得した悠斗は、《合気道》についても達人級の腕前を誇っていた。
危害を加えようとする敵の力に対して、己の力を加えて敵に返す《合気道》の技術は、もともとの体格差があるほど有効に働くものである。
「ガハッ……!」
勢い良く地面に叩きつけられた盗賊の頭は、白目を剥いたまま老朽化の進んだ教会の天井を仰ぐことになった。
「信じられねえ。アニキが一瞬で……!?」
この光景を受けて絶句していたのは、部下の男たちであった。
盗賊団の頭、ヴィクトルは強力な固有能力と身体能力を兼ね備えた、カリスマ性に溢れたリーダーであった。
ヴィクトルが瞬殺されたことによって、盗賊たちの間には不穏な空気が漂うことになっていた。
「クソッ! 何をビビっているんだ! 相手は単なるガキ一人じゃねーか!」
結局、男たちが再び、戦意を取り戻したのは、副リーダーの男が声を上げてからだった。
「そうだ! こっちには数の利がある!」
「アニキがやられたのは、何かの間違いだぜ!」
意気込みを新たにした盗賊たちは、数に物を言わせて、一斉に悠斗に攻撃を仕掛けていく。
「ぎゃっ!」「ふごっ!」「うがっ!」
だがしかし。
何度やっても結果は同じであった。
現存する格闘技の中でも極めて稀な1対多の戦闘を想定して作られたロシアの軍隊格闘術――《システマ》を極めた悠斗であれば、集団戦もお手の物である。
敵集団の数の優位を奪う巧みな位置取りによって、次から次に敵戦力を無力化していく。
「ガハッ……。な、なんだっていうんだよ……。コイツは……」
盗賊団たちからしたら偶然、現れた悠斗の存在は悪夢以外の何物でもなかったのだろう。
戦闘の結果、ものの1分としないうちに10人を超える盗賊たちは、グルグルと目を回しながら地に伏せることになっていた。
「よし。こんなところかな」
一通り蹴散らしたことを確認した悠斗は、ホッと一息を吐く。
その際、盗賊たちの身ぐるみを剥いでおくことも忘れない。
盗賊のナイフ@レア度 ☆☆
(刀身が大きく反り返った殺傷能力の高いナイフ。盗賊たちが好んで使用する。素材の剥ぎ取りには向かない)
武装解除という名目の元、盗賊たちから奪ったナイフは魔法のバッグ(改)の中に収納しておく。
1本1本に大した額は付かないだろうが、これだけのまとまった数があれば、それなりの額で売却できるだろう。
帰り際にギルドに通報しておけば、懸賞金が入るかもしれない。まさに一石二鳥である。
「うーん。この男たちだと準備運動にもならなかったな……」
今回の相手は楽勝であったが、だからといって安心することはできない
これから出会う《ナンバーズ》のメンバーは、一筋縄ではいかない曲者揃いなのだ。
意気込みを新たにした悠斗は、本来の目的であるアジトに繋がる地下通路を探すことにした。




