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VS グレゴリー・スキャナー5



 ビリビリとした殺気の混ざった空気が充満している。


 グレゴリーが《数の刻印》から魔力を引き出した結果、地下聖堂の中は、生半可な冒険者であれば、立っていることすらもできないような威圧感によって支配されていた。



(この感じ……。前にアークと戦った時と同じだな……)



 いかに優れた武術を有していようとも関係ない。


 生身の人間が高濃度の魔力に触れようとすると、意識を失うほどの重症を負ってしまうことがある。


 圧倒的な魔力差は、時に物理的な壁となり戦闘に大きな影響を与えるのだった。



「ククク。さぁ~て、遊びは仕舞いだ! ここからはオレ様の本気を見せてやろう!」



 魔力によって身体能力を強化させてグレゴリーは、大きく地面を蹴って、悠斗に対して正拳突きを浴びせにかかる。


 グレゴリーが纏っている魔力量に対抗することができるのは、魔族、または、同じナンバーズのメンバーだけに限定される。


 少なくとも今日この瞬間までグレゴリーはそんな認識を抱いていた。



「なっ――!?」



 だからこそグレゴリーは、自らの腹部に鈍いダメージを受けた時、動揺を隠すことができないでいた。



(こ、この動きは……! 幻鋼流!?)



 悠斗がグレゴリーの纏っている魔力量に対抗することができた理由は、エルフの里で《幻鋼流》の技術を身に着けていることにあった。


 対魔族を想定して作られたこの武術は、魔力差によるハンデキャップを極限にまで縮めることを可能にしていたのである。

 

 グレゴリーが動揺したその隙を悠斗は見逃さない。

 

 目にも止まらない連撃によって、グレゴリーに打撃の応酬を繰り出した。

 


「しゃらくせぇ!」



 何はともあれグレゴリーに必要だったのは、悠斗の攻撃を止めることだった。


 グレゴリーはそこで自身のスキルである《拡散する人形遊び》を発動。

 近くにあったコレクションルームから盾となる人間たちを高速で呼び寄せる。


 

「や、止めて! 乱暴しないで!」


「うううぅぅぅ……。お母さん……」



 グレゴリーが肉壁として選んだのは、自身のコレクションの中の遊び飽きていて処分を考えていた美少女たちであった。


 完全な洗脳状態に置かずに意識だけは残しておいたのは、グレゴリーなりの工夫であった。


 少女たちの『生の反応』を見せることによって、今度は逆に悠斗に動揺を与えようと考えていたのである。

 結果、グレゴリーの思惑通りに猛ラッシュを仕掛けていた悠斗の手が止まる。

 


「どらよっ!」



 その隙をグレゴリーは見逃さない。


 グレゴリーは全身の魔力を込めた拳を悠斗に向かって叩き込んだ。


 力に任せた粗雑な攻撃であったが効果は抜群だった。

 咄嗟に両腕でガードをしたものの、大きく吹き飛んだ悠斗は全身が痺れるようなダメージを負うことになる。



「コノエ・ユート。お前は甘い! 偽善者だ! 悪いがオレは、お前のような甘ちゃんに負ける気は微塵もしねえ!」


「…………」



 グレゴリーの指摘を悠斗は決して否定しない。

 戦闘の際に非情になりきれない悠斗の甘さは、妹の愛菜からも再三と言われ続けていた欠点だったのである。


 そこから先は2人の力関係は逆転していた。


 罪のない少女たちを盾に取り、一方的な攻撃を続けるグレゴリーを前に悠斗は苦戦を強いられることになる。



「これで仕舞いだあああぁぁぁ!」



 悠斗を壁際に追い込んだグレゴリーは、止めとばかりに大きく拳を振り落とす。


 だがしかし。

 刹那、グレゴリーは自らの胸から生暖かい液体が噴き出していることに気付く。



 貫手。



 さながら自身の腕を1本の《槍》のように見立てて突くこの技は、世界各国の幅広い武術で使用されているものである。


 何を思ったのか悠斗は、貫手によって盾となっている少女の体ごとグレゴリーの体を貫いたのである。



(なんだよ……。結局、こいつもオレと同じ殺戮者だったのかよ……)



 今更、死ぬことを恐れるわけではない。

 グレゴリーにとって納得が行かなかったのは、勝負の最中に悠斗が己のスタンスを捻じ曲げて、無関係な少女を殺めたことであった。



(いやっ。ちがっ……! これは……水魔法か……!?)



 貫手によって貫かれた少女の体は、ドロドロに溶けて瞬く間のうちに形を失っていた。


 瞬間、グレゴリーは自らの思い違いに気付く。



 ――悠斗が何を仕掛けていたのか自ずと理解ができた。



 この数分の間に悠斗は、水魔法のウォーターを応用して作った《水分身》のスキルによって少女の体を複製。


 戦闘の最中に混ぜ込んでいたのである。


 だがしかし。

 もともと他人を人形のように扱っていたグレゴリーは、周囲の違和感に気付くことができなかった。



「何故だ……。何故……勝てん……。オレとお前……スタートラインは同じだったはずだ……」



 今回の駆け引きに限った話ではない。

 グレゴリーにとって腑に落ちなかったのは、最後の最後まで悠斗を実力で圧倒できなかった点である。



「……お前には運がなかった。それだけだよ」



 もしもあの時、あのタイミングで、祖父から忠告を受けなかったとしたら自分も目の前の男と同じような運命を辿っていたのかもしれない。



「ハハッ……。仕方ねえな。オレの方が弱かったっていうことかよ……」



 視界が霞み、全身の力が抜けていく。


 心臓を貫かれたグレゴリーの体は急激に温度を失っていくことになった。


 自らの力に溺れて欲望の限りを尽くしたグレゴリーと、努力によって力をコントロールする術を覚えた悠斗。


 2人の差はそこで決していたのである。

 勝負が決したことを確認した悠斗はそこでステータスを確認する。



 近衛悠斗 

 固有能力: 能力略奪 隷属契約 魔眼 透過 警鐘 成長促進 魔力精製 魂創造 魔力圧縮 影縫 霊感


 魔法  : 火魔法 LV7(17/70) 水魔法 LV7(30/70)

      風魔法 LV6(30/60)  聖魔法 LV6(37/60)

       呪魔法 LV6(16/60)

 特性  : 火耐性 LV6(26/60) 水耐性 LV3(25/30)

       風耐性 LV7(61/70)



 ステータスには特に固有能力が追加されていなかった。

 どうやら《能力略奪》の効果は魔物、ないし、魔族相手にのみ有効なものであって、人間に対しては適用されないものらしい。



「主君! 大丈夫か!?」


「コノエ・ユート! 無事ですか!?」



 直前までリズベルと刃を交えていたシルフィア&サクラが悠斗の元に駆け付ける。


 グレゴリー洗脳スキルは、彼が死亡するのと同時に洗脳状態が解除されるものだった。

 スキルによって限界を超えて肉体を酷使していた、リズベル、セバスは緊張の糸が切れたかのように意識を失うことになる。



「ああ。俺なら平気。帰ろうか。2人とも」


「「…………」」



 戦いの一部始終を目の当たりにしていたシルフィア&サクラは額から冷たい汗を流す。


 自分の分身とも呼べる強敵、グレゴリー・スキャナーを打ち倒した悠斗の顔つきは、以前にも増して底の知れない気迫が滲み出ているように見えた。


 今回の一件を通じて2人は、悠斗の存在が更に遠くに行ってしまったかのような感覚を抱くのだった。





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異世界支配のスキルテイカー 

https://manga.line.me/book/viewer?id=B00165415107#/page=1

― 新着の感想 ―
[気になる点] 人から能力を奪えないのはどうなの? みだりに人と争わない為の設定なのかもしれんけども、むしろ「殺せば能力を奪えるけど殺さない」って方が主人公の人徳面が補強される様に思えるのですけどね…
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