第86話 バカなオイットが、ナナを引き受けたので空間の空気がきれいになった気がする
やっと読み終わった空間魔法の魔導書は、裏表紙の内側にある魔方陣が光る。
おお、これでいいのか。
その魔方陣に魔力を流せば、空間魔法を習得した。
鑑定すれば、空間魔法が出てきた。これは、初級中級……などという括りはないようで、空間魔法そのものが身についたようだ。
それなら、とストレージをアップグレードすることにした。
空間魔法で作ると、出し入れが楽になり皆のドロップアイテムなども、瞬間で入るようになった。数秒のタイムラグもなくなったのだ。
これ、すごいなぁ。その上、別空間にストレージが広がったらしく、シュッと音もなく吸い込まれるようになった。設定は継続されたらしく、万全になったのか、と嬉しくなる。
細かくみて行けば、分類ごとに容量、時間経過設定などができるようになっていた。今の所、これで問題ないので変更はなし。
他は? と確認すれば、別の空間を別の場所におけるようだ。例えば、牢獄などは、全く別の場所に置いてもいいし、メンバーが共有する武器や装備などは別空間にしておけば、どこででも、登録された人であれば開け閉めできる。今は、この住処の空間でも、どこに開きたいなどと念じて開く必要があるし、俺しか不可能。それなら住処だけ別空間にしておけば、いつでもメンバーは思った場所から出入りできる。
ということは……空間魔法が使えなくても、魔力が足りるなら、ゲートのようにも使えるということなのかな?
今の所、必要ないので、必要に迫られればやってみようか。転移も使えるようになったので、国を二つ三つ飛び越えるのは魔法で。一つの国内を移動するなら、スキルで。と転移スキルも作っておいた。錬成スキルも作ったから、便利になったぞ。
その日の夕方、バウたちが戻って来た。
「お疲れ。戻ったのか?」
『はい、今、ギルドですが。少々面倒な事になってまして』
なんだ? 面倒なことって。
とにかくギルマスの部屋に来て欲しいと言うので、空間を開くと伝えておいた。
ラスに伝えれば、同行すると言う。当然、ニジもフィーリア、アレックスもだ。
セバスに後を頼んで、俺たちは空間を出た。
「悪いな、忙しかったんだろ?」
「いや。別にいい。今日やるべき事は終わった。で、何事だ?」
ギルマスが指さす方には、ナナがいる。そして数人の男女。
ええと、これはどういうことだ?
「まあ、座れよ」
そう言われて、俺とラス、ニジとアレックスがソファに座った。
バウとパトリオット、身体を大型犬くらいのハクとフィーリアが後ろに立っている。
俺の正面には、ナナと一人の男が座り、その後ろには他のやつらが立っている。
「あなたがタケルさんですか。俺は『狼の威厳』というパーティーのリーダー、オイットです。ナナからいろいろ聞きました。あなたはナナを奴隷としていろいろさせてるそうですね?」
「いろいろってなんだよ。確かにナナは奴隷だ。あと十九年開放できないようになっているらしい。それがなんだ?」
「ナナを依頼に出させて、自分は屋敷でのんびりですか。いいご身分ですね! ナナはいい子です。できるならば、俺が奴隷の権利を買い取りたいくらいですよ!」
「いいぞ。買取なんかする必要はない。ナナは奴隷商が盗賊に襲われてる時、助けた礼にと譲られた。出したのは所有者を移す奴隷契約の魔法代だけ。同郷だろうと思って引き取った。だから金はいらないが、この場でギルマスに同席の元、きちんと契約をしてもらう」
「へ? あ、あの。それでいいんですか?」
「ああ。問題ない」
そういえば、俺以外が怒りに震えてる。
ナナは、奴隷として俺の元にきて、洋服を買ってもらい武器、防具などを揃えてもらって、毎日風呂に入らせてもらい、食事も問題なく腹一杯食ってるんだぞ!
だが、朝は起きない、手伝いはほとんどしない、休みの日に、他の者たちがいろいろやっているとき、ずっと寝てる。
当然、以前は皆がテントで寝起きしていたが、安全な空間で、ひとり用の魔道テントに寝泊まりする。それで、寝て食って。
今回依頼にでるときも、銀貨、銅貨など、かなりの金を持たせてもらった。
だが、あまりに行動が温いので、アイテムボックスも取り上げられ、武器も普通の武器に変更された。それでも、朝夕は戻ってメシが食える。それも、この辺りじゃ見たことのないほどの食事を!
次々に出てくる話に驚いているのはパーティーメンバーたちのようだ。
「ギルマス、悪いがギルドの使う奴隷商人、呼んでくれ。契約魔法を使えるものを」
わかった、と水晶を手に話し始めた。
ポカンとしているのは、目の前のやつらだけ。
「私はラスです。タケル様の側で、補佐のような仕事をさせていただいてます。人数が増えたので、先日、魔道具でお屋敷を作ってくださいました。そこに、私たちの部屋よりは少し狭いですが、皆さんが使う宿よりも広い部屋を与えられていましたよ、ナナさんは。私はなぜだろうと思っていました。こんな自堕落な子の面倒を見なくていいのに、と。ここにいるパトリオット殿は、世界ギルドの職員でもあり、SSランクの冒険者。そして、世界ギルド所属のタケル様専用の交渉人です。国単位で討伐依頼を受けますから。それに、ご存じなのですか? タケル様のランクを」
皆がフルフル首を振る。
「あるじぃ~は、えしゅがみっちゅ、しゅよ~」
あはは、ニジ、面白い。
「タケル、すぐに来るといってる。五分ほど、待ってくれ」
「ああ、悪いな」
「我が主はSSSランクだよ。実際にはそれ以上。そこで修練せずにどこでする? お前らなら、喜んで稽古をつけてもらうだろう?」
「そうらね~、あるじは、ちゅよい~」
「そうですね。それに私たち眷属に対してもとても愛情深く接してくれます。とても充実している毎日ですよ」
眷属? とキョンとしてる。
「そうだな。うちの眷属たちはかなり優秀だ。このちっこいドラゴンは、本来の姿になればこの国くらいは焼き尽くすだろうな。それに、この子は新種だ。それと、今は友人のところへ出かけてるが、黒竜も眷属だ。人間の方が少ないな、ギルマス」
「まあな。お前は裏切りは嫌いだし、人は裏切る。口でどういっても、そういうやつはボロが出るもんだ、なあ、ナナ。まあ、お前も主人か変わるんだから、せいぜい頑張れよ」
あ、狼の威厳のパーティーリーダー、オイット以外は肩を落としてるな。これは、リーダーはナナの魂胆に気づいてないな。ばかだよ、こいつは。
ドアがなり、奴隷商がやってきた。
ストレージから、奴隷契約の書類を取りだし見せた。
「確かに、奴隷は残り十九年継続することになってますね。それで、タケル・ヤマト様から、オイットさんに奴隷契約をということですね。では、すぐにタケル様との奴隷契約を破棄し、オイットさんとの奴隷契約を結びましょう。同時にできますので、おふたりとも書類を書いてください」
俺は書類を受け取り、それにサラサラと書いて行く。
オイットは、戸惑っているようだ。ナナが太ももに手のひらを置いて見上げてる。あざといな、やっぱり。
「あ、あの。この契約は、破棄したいときはどうするのでしょうか?」
「破棄することを考えて契約するのか?」
唇を噛んでこちらを睨んでいる。
「おい、オイット。お前、それを今聞くか? お前の方から言い出したんだろうが。とりあえず、契約をしろ。それからあとは、奴隷商に聞けばいい。タケルは奴隷なんか持ったことなかったんだ、ナナ以外は。聞く相手が違うだろうよ」
わ、わかりました、と頷いてるが、パーティーメンバーは全員引いたぞ。大丈夫か、これ。
「契約前にナナ、荷物を運び出せ。ラス、一緒に頼む。できればバウも同行してくれ」
わかりました、とラスが空間を開いた。
ナナが中に入って行く時、オイットを見たが、部外者はご遠慮ください、とラスにピシャッと言われた。
バウがオイットを睨みつけ、中に入る。
「これは素晴らしいですね。空間ですか?」
「ああ。俺たちの住処だ」
「立派なお屋敷ですが、奴隷も同じ建物に?」
「ああ、個室もあったが、これからは倉庫にでもするかな」
もったいないですなぁ、と奴隷商が呆れてる。どうやら、ギルマスから聞いたらしい。
「本当に無料で良いのですか?」
「ああ、元々金は払ってない。服とか多少のものは買い与えたが、冒険者するのに必要だろうし、いらない」
素晴らしいですね、と感心された。
すぐに出てきたナナは、リュックを背負ってる。大きく頷いたのは、ラスとバウだ。
じゃあ、やってくれといえば、奴隷商がナナとオイットの血を垂らした書類と俺の書類をならべて、同時に魔法を行使した。
終わりました、と聞いたので一応鑑定すると伝えて、鑑定魔法を使った。
うん、ちゃんとオイットの奴隷になってるな。あ、ナナの大天使の加護がなくなってるんだが、まあ、いいか。
では、と銀貨三枚を請求されてオイットが身体を引いた。魔法契約の費用だけだぞ。
「じゃあ、俺たちは戻っていいか、ギルマス」
「ああ。そろそろ何処かに行くのか?」
「いや。国相手の討伐は受けてない。まあ、パトリオットがここにいるんだから、そうだろうよ」
「まあ、そういうことだな。場長が毎日楽しそうだぞ。あと、どれくらいあるんだ?」
「まだまだあるな。あと五万頭以上だ。場長に頑張ってもらわないとな」
おっそろしいな、と笑ってるけど、顔、青いよ?
じゃあ、と奴隷商にも礼をいい、ナナに頑張れよと伝えて、ギルマスたちに手を振り空間に全員で入った。
「はぁ~やっとイラつかなくてすむ。これから大変だな、オイットたち」
「そうですね。でも、あのパーティーメンバーは離れるかも知れません。まあ、ナナではさほど稼げないでしょうからね」
ふん、パトリオットの言う通りだろうな。
「それは当然でしょう。俺でも嫌ですよ、ああいう女は。人にぶら下がるのも大概にしろっていってやりたい」
バウが怒ってるね。まあ、俺もそうだけど。
「でも、ここにいるのも面倒になったなぁ。どこかに移動するか?」
「それなら、俺、ダンジョンに行ってみたいです。タケル様がお嫌いなのは知っていますが、一度経験してみたくって」
「まあ、普通に戦えば楽しいかもしれないけど。どうだ、ハクたちは」
「うーん、そろそろ行ってみてもいいかもしれないけど。バウが未経験なら一度行ってもいいかな」
皆、同意見らしい。
ラスはセバスとお留守番になるけど、朝と夜はここで食うからといえば、嬉しそうに頷いてくれた。
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【あとがき】
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