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第1話 異世界転生

 大衆食堂・大村屋


「らっしゃい!おう、学生田中くん。今日はずいぶんとシケたツラしてんな」


「ショーヤンさん……。実は俺、今日のテスト完全にやらかしちゃって……」


「あちゃー、そりゃあ凹むわな。よし、今日は特別メニューだ。これ食って元気出せ!」


 フライパンに油をひき、豚バラ肉とニンニクの芽を強火で一気に炒める。


 ジュージューという食欲をそそる音と香ばしい匂いが厨房に広がった。


「うっわ、美味そう!特製スタミナ丼……卵黄まで乗ってる!」


「疲れた時はガツンと肉を食うに限る。美味い飯食って寝れば、明日は明日の風が吹くってな」


「……っすね!いただきます!」


 田中くんの美味そうに頬張る顔を見て、俺も思わずニカッと笑う。


 俺は矢村《やむら》翔太《しょうた》、みんなからショーヤンと呼ばれている。


 地元の、住民に愛される街の定食屋の厨房で働く料理人だ。


 自分で言うのもなんだが、人当たりが良く、誰とでも仲良くなれるコミュ強なのが自慢であり、お客さんの笑顔を見るのが何よりのやりがいだったりする。


「おい翔太!油売ってないで、鶏肉が足りねえから商店街で買ってきな!」


「あいよ!大将、ダッシュで行ってきやーす!」


 エプロンを外して商店街へ飛び出す。


 すれ違う人たちから次々と声がかかる。


「あらショーヤン、今日も元気ねぇ」


「おう!八百屋のおばちゃん、いつもありがとな!」


 肉屋で鶏肉を買うと、親父さんがひょいと顔を出した。


「おう、ショーヤン!いつもウチで肉仕入れてくれてる礼だ。ほれ、サービスに揚げたてのコロッケ、一個オマケしてやるよ」


「マジで!?やった、親父さんサンキュー!」


 熱々のコロッケを紙に包んでもらい、ホクホク顔で歩き出す。


 ……よく考えたら、これ店の経費で買ったオマケなんだよな。大将に献上するかどうすっか。


「まっ、いっか!」


 冷めたらもったいないしね。


 食べながら歩いて帰ることにした。


 サクッ、と衣をかじると、じゃがいもと肉の旨味が口いっぱいに広がった。


 うーん、揚げたてマジ最高。


「あ……ボールが!」


 不意に声がして前を向くと、店の常連さんの子供が、車道に転がったボールを追いかけて飛び出していくところだった。


 そこへ、クラクションを鳴らしながら猛スピードで突っ込んでくるトラック。


「危ねえっ!!」


 考えるより先に体が動いていた。


 持っていたコロッケと袋を放り出し、俺は全力で子供を助けようと突き飛ばした。


 直後、全身をものすごい衝撃が突き抜ける。


 トラックに撥ねられた瞬間の俺の視界の端で、宙を舞う食べかけのコロッケがスローモーションで見える。


 あの肉屋のコロッケ、揚げたてで美味かったなぁ……ただ、もっとソースたっぷりかければより旨かったんだけど……。


 そんな呑気すぎる未練を回想したのを最後に、俺は命を落とした。


 +++


「……目を覚ましなさい、矢村翔太」


「ん……?ここは……?」


 気が付いた。意識がある?助かった?


 上下左右、どこまでも続く真っ白な空間にいる。


 目の前に、後光が差しているヒゲもじゃの、いかにも『神』って感じの老人が出てきた。


「お主はトラックから子供を庇い、命を落としたのだ」


「えっ!?やっぱ俺、死んだの!?」


 せっかくスマホゲー課金してゲットしたレアカードを、使わずして死ぬとは。無念だ。


「いかにも。だが、あの自己犠牲の精神は素晴らしい善行であった。褒美として、何に生まれ変わりたいか聞こう」


 転生?!マジか!


 俺は昔から、ファンタジー物のアニメやゲームが大好物である。


 剣と魔法の世界に行けるなんて、男のロマン以外の何物でもない。


 テンション爆上がりじゃねーか。


 ヒゲもじゃに頼んだ。


「だったら、大賢者がいいです!」


 モンスターに向かって超すげえ魔法をバンバン撃ったり、仲間と世界を旅したりできるんだよね。


 期待が膨らむ。


「ふむ、大賢者だな。よかろう」


 神はあっさりと了承してくれた。


「えっ、そんだけ?チート能力とか、ステータス的なもう少し細かく設定を……」


「では、良き異世界ライフを!」


「ちょ、ちょっと待っ――」


 俺の言葉が終わる前に、足元が激しく光り輝き、再び意識が遠のいていった。


 +++


 冷たい。


 あーっと、何だっけ?


 そうだ、交通事故で死んで、ヒゲもじゃに転生させてもらえる約束して、また意識を失ったんだった。


 今は、肌を刺すようなひんやりとした空気だ。


 はっきりと目が覚めた。


 視界に飛び込んできたのは、荘厳だがどこか冷たい、巨大な石造りの建築物の中。


 どうやら何かの儀式が行われている大神殿のようだ。


 鼻を突くのは、重苦しい香の匂い。


 自分の周囲には豪奢な法衣を着た神官らしき人間たちがズラリと平伏している。


 みんな一様に顔を伏せ、まるで恐ろしいバケモノでも見るかのように、小刻みに震えている。


 転生成功らしいが、なんだここ。


 すげえ息苦しい空気だ。


 あまりの異様な雰囲気に、無意識に後ずさりしようとした。


 が。


 んっ?


 体が自由に動かない。


 足はおろか、手も、首も、自分の意志ではピクリとも動かせない。


 なぜか、視覚や呼吸する感覚はあるのに。


 おいおい、どうなってんだ!?金縛りか!?


 それに、視界が妙だ。


 やけに高い位置から見下ろしているというか、俺の視界なのに、俺の視界じゃないような……。


 まるで、VR映画の超絶リアルなのを見ている感覚。


 動け!なんでだよ!


 俺は大賢者に転生したんじゃなかったのか!?


 まったく状況が呑み込めない。


 その時。


「儀式は全て終わった!成功でいいのかしら?」


 突然、周囲の静寂を切り裂くように、見知らぬ女性の声が響き渡った。


 というか、はっ?


 俺が発言した。


 近くにいる神官らしき人物が俺に向かって語りかけてきた。


「心の中で、お呼びしてみなさい」


 直後。


(聞こえますか?大賢者様!)


 今度は耳からではなく、脳内で女性が話しかけてきた。


 はっ?


 だから、どういう状況だって、今!

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