番外編:大騒ぎらて!
「あーー!! 東京着いた!!」
柊木さんの大きな声が空港に響く。
その声を聞きながら、俺は凝り固まった肩を上げ下げして動かす。
ん〜長かった〜。
双葉さん達と別れて東京に向かったが、まさかの台風到来で、飛行機の中で待機することになった。
え? なんで飛行機なのかって?
縛の仕事関係で帰りに空港へ寄らないといけなくなり、そのついでに縛の仕事関係者が用意した飛行機で東京まで帰ることになったからだね。
それがまさかのプライベートジェット。
イヤー、プライベートジェットコワイ。
オカネモチコワイ。
「何言ってるんだ? 最高だったろ? 食べ物は好きな物食べられるし、最新の映画もあったり、何より席がめっちゃ広くて最高だったろ?」
柊木さんが真っ赤な顔でこっちを向いて言う。
うぅ、お酒臭い。
柊木さんは、プライベートジェットの中をめっちゃ楽しんでいた。
そして縛の勧めで、ワインや日本酒やらを結構ごくごく飲んでは、ワッハハしていた。
「もう、正志くん。空港だから静かにね。正樹くん達も新潟お疲れ様! 正志くんもこの状態だから、今日はもうここで解散ね! 帰り道、気を付けて帰るのよ」
真美ちゃんの言葉に、うんうんと俺は頷く。
「運転手、頼みましょうか?」
うぉ。
さっきまで影を消していたのに、急に縛が話す。
「大丈夫よ。こう見えて私の方が運転上手いからね」
「ふっへへ、真美ちゃん〜」
柊木さんが真美ちゃんに抱きつこうとする。
その背中を結愛ちゃんが引っ張った。
「お父さん! もう! しっかりして!」
東京に戻った後も騒がしい柊木一家である。
俺と縛は手を振って別れた後、家に向かう。
「正樹さん、眠いなら寝ていいですよ」
縛がそう言うと、俺は遠慮せずに寝ることにした。
気圧のせいなのか、すごい眠い……。
ん?
なんかカバンが硬い。
俺はカバンのチャックを開けて中を見る。
そこには、なぜか謎の熊の陶器があった。
「あれ? これなんだろう?」
俺が言うと、縛がチラッとこっちを見ながら、少し呆れた表情をする。
「何とはなんですか? これがどうしても欲しいって、泣いてたじゃないですか」
「え? 誰が?」
「え? 誰って……正樹さんですよ?」
「え?! 俺そんなこと言ってない」
「……あぁー、あの時、確か酒を解禁してましたもんね」
「え? あの日?」
「そうですよ。観光一日目のあの日です」
縛が熊の陶器について語り出す。
――観光一日目。
「にしても暑いなぁ〜」
柊木さんがそう言うと、稔さんも頷く。
「こんな日はお酒飲まないとですね」
忍野さんが頷きながら言うと、双葉さんが忍野さんの肩を突っつく。
「何言っているのよ。まだ昼でしょう?」
「え? あお達がいない今日だからこそ、飲んで息抜きしないと〜」
忍野さんはニヤッと笑いながら話す。
「あらっ〜、せっかくの旅行だから、たまにはいいじゃない?」
真美ちゃんが珍しく言うと、結愛ちゃんが驚く。
「え? お母さんがそう言うの珍しいね」
「あら! そんなことないわよ〜」
真美ちゃんはそう言いながらニコニコと笑う。
そして双葉さんの肩をツンツンしながら、何かを小声で話した。
双葉さんの顔がどんどん明るくなる。
「いいですね!!」
双葉さんがそう言うと、結愛ちゃんの腕を組んで稔さん達に声を掛けた。
「じゃ、今日はある程度観光したし、ここからは女子会と男子会に別れよ!」
「「え?」」
稔さんと柊木さんが声を揃えて言う。
「じゃ、正樹くん。また夜ね〜」
真美ちゃんは結愛ちゃんの反対側の腕を組んで歩き出す。
そのままこちらに振り向くことはなかった。
「……まみちらん」
「ふたば……」
愛妻家の二人は、何やら絶望に浸っていた。
そんな二人に忍野さんがケラケラ笑いながら、それぞれの首に腕を回して歩き出す。
「ほれっ、大柄な男が二人、道の真ん中で落ち込んだらコワイって〜」
少し歩き出すと、こっちに振り向いた。
「ほらっ、二人共行くよー!」
どうやら僕達が行くことは決定事項らしい。
隣りの正樹さんを見ると、正樹さんは斜め前にあるラーメン屋さんをガン見していた。
「…………はぁー」
僕は正樹さんの手を引くが、動かない。
…………。
今日は道のりが長そうだぁ。
正樹さんの肩を押しながら進むと、少しずつ歩き出す。
「ねぇ、縛」
「はい?」
「ラーメン食べちゃダメ? 野菜食べるからさぁ」
………。
「旅行中、一日一杯までですよ」
その言葉に正樹さんは力強く頷く。
「やったー!」
そう言うと、やっと自分から歩き出してくれた。
僕達がそんなことをしている間に、忍野さんはどうやら店を見つけたらしい。
「おーい! 席空いてるらしいよ〜。早く入ろう〜」
忍野さんが言うと、正樹さんが少し駆け出す。
それからの居酒屋での出来事は、カオスだった。
「まみちゃん〜、なんで置いていくんだよ〜」
柊木さんが泣き出す。
それを見ていた稔さんも、なぜか泣き出す。
「わかりますー! 離れるのが寂しいのに、まったく察してくれないですよ!」
稔さんが言うと、柊木さんが顔をパッと上げて、二人で拳を合わせていた。
そんな二人の横では、忍野さんの笑いが止まらないようで、ずーっとケラケラ笑っている。
「ははは、置いて行かれてウケる〜!」
腹を抱えて大爆笑な忍野さん。
「あれ? あのカップなんか二つある? 不思議〜!」
謎にコップを見ながら笑ってる正樹さん。
………。
抹茶系のデザートないかな。
ストレスは良くない。
僕がメニュー表を見ていると、柊木さんがどこから見つけたのか、値札のついた熊の陶器を持って来た。
待て待て待て。
まだ目を離して一分だぞ。
「どこから持って来たのですか? それ!?」
「え? なんか隣りの兄ちゃんからもらった」
柊木さんが隣りを指差す。
え?
押し売り?
日本ではないと思ったけどなぁ。
僕は席を立って隣りを見に行く。
そこには……。
まさかの……。
店のキャラクターの像が立っていた。
そして、その隣りにはガチャガチャや玩具、お土産などがたくさん並んでいる。
隣りの兄ちゃんって、まさか……。
いや、まさかなぁ。
念の為に僕はマスコットキャラを指差しながら、聞くことにした。
「この兄ちゃんですか?」
「ん? そうそう!! いやぁ〜、『じゃんけんで勝ったら買ってやるよ』って言ったら、勝たれてしまった」
そう言いながら柊木さんが豪快に笑う。
「ちなみに何出したのですか?」
「ん? 俺か? 俺は確かパーだったぞ」
僕は目の前のマスコットキャラを見る。
マスコットは片手を握りしめて、反対の手はパーだった。
……これはもう判断力ないなぁ。
僕は説得するのを諦めた。
そう思っていると、正樹さんが急に大声で泣き出す。
「どうしたんですか!?」
僕が近くに駆け寄ると、正樹さんが柊木さんの熊の陶器を指差しながら大声で叫ぶ。
「あれが欲しいーーーーーーー!!!!」
…………。
「ねぇねぇ、縛買って!!!!!」
……僕が買うのですね。
「ねぇ〜! 縛お願い」
そう言いながら、正樹さんが涙でうるうるした目でこっちを見る。
…………。
「うけるーーー! 財布出してるし!!!」
忍野さんがこっちを指差しながら爆笑する。
うるさい。
僕が一番彼に甘いのは、自分でも知ってる。
そう思いながら、熊の陶器を買って正樹さんに渡す。
正樹さんは受け取ると、ニコニコしながらカバンにしまった。
――そして、現在。
俺は買ってもらった熊の陶器を、今日まで忘れてずーっと持ち歩いていた訳だぁ。
確かにカバンは、iPhoneと財布を取り出す時以外はずーっと車に置いていた。
にしても、気付かないもんなのか?
でも、とりあえず俺には一つやらないといけないことがある。
それはなんだって?
そう。
まずは縛に謝ることから始めよう。
大丈夫。
きっと許してくれる。
うん。
そう信じよう。




