嘘が下手な人
「俺、あの日何があったのか知りたい。」
そう真剣な表情で話す爽やかボーイ。……あの日の被害者がここにも1人。彼には知る権利がある。
でも俺は……俺は……
思い出すのは、あの日の記憶と娘の笑顔。
「わりーな。俺から言える事はない。」
考えた末に出た言葉に、爽やかボーイは表情を顰めた。ワイルドな兄ちゃんは何か言いたそうな顔をしていたが、そのまま俯く爽やかボーイを連れて店を出た。
……あの顔は絶対何かを知っている。
昔の勘が俺にそう伝える。……でも、俺には……
俺は視線を下げると、笑顔で写っている妻と娘、そして俺の写真を大事に撫でた。
…許せ。
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ネカフェを出てから珍しく正樹が静かだった。どうすればいいのか分からなかったが、とりあえず正樹の家に帰る事にした。
正樹の家に着くと、扉の前に1人の男が立っていた。
高そうなスーツを着て、かき上げた髪型は男の雰囲気によく似合っていた。男がこっちに気付くと、軽く会釈し、正樹の方にタッタッタと軽やかな足取りで近付く。
「ゴホン、佐伯くん。最近たるんでいるのではないかね。後輩からのメールを無視するのは良くないと思われる。今日はそんな、佐伯くんの為に、優しい優しい桜庭様が、この有給許可書を届けに来たぞ!」
桜庭という男がそう言うと、正樹が顔を上げ、さっきまでの暗い雰囲気が無くなった。
「あれ?桜庭じゃん。え?マジで、有給申請通ったのか?」
少し驚く正樹に、桜庭がドヤ顔をする。
「取らせる為に、頑張りましたよ〜さらに朗報が、なんと会社から5年目の社員にさらに休暇のプレゼントがありますよ!」
紙を出す桜庭に、正樹は大興奮。
「えっ!さらにもらえるの!?」
「そうです、そしてなんと全部の休みを合わせたら、なんと1ヶ月もお休みですよ!!」
紙を広げて正樹に見せる桜庭に、正樹はすげぇわと小さく呟く。
「今、先輩の仕事皆で手分けして終えたので、安心して休んでください〜来年は僕が妻と新婚旅行で1ヶ月を取るので、その時はよろしくです!」
桜庭は笑顔で話すと、持っていた紙を、正樹のポケットに入れようとする。
「その時は俺の腕の見せ所だなぁ!」
と2人で大笑いしている。顔を上げた正樹がこっちを指差す。
「あっ、紹介するの忘れてたわぁ。同居人の東雲 縛だよ。今2階に住む準備をしている所。」
正樹がそういうと、不思議に胸が温かく感じる。
「おっ!じゃ、いよいよこの広い一軒家での1人暮らしとさよならですね。ずっと1人で心細いって言ってましたしね。」
桜庭がそう言うと、もう片方の手に持っていた物を差し出す。
「丁度お土産にいいと思って、菓子折りを持って来たので、2人で食べてください。」
明るい笑顔でそう話すと、突然ハッと何かに気付いた顔をする。
「あっ、僕桜庭 道徳です。」
ポケットから名刺を出すのを見ると、その名刺はそのまま僕に差し出された。
「先輩変わってますけど、いい人なので安心してください。何かあればここにメールください。」
そう言った桜庭に、正樹が背中を叩く。
「俺の母ちゃんか。」と正樹はツッコミをいれる。
ピロピロリーー♪
桜庭は鳴ったiPhoneをポケットから出すと、慌てて「じゃ、先輩また遊びに来ますね!東雲さんも先輩をよろしくお願いします。」
そう言って、iPhoneを耳に当てて歩き出し、車の後部座席に乗り込むと、こっちに手を振っていなくなった。
「ごめんなぁー、あいつ、いい所の坊っちゃんでさぁ。ちょっと距離感おかしい所あるけど、いいやつだから仲良くしてやって。」
ポンポンと肩を叩かれ、正樹は玄関の扉を開けてそのまま中に入っていった。
あぁー、もちろん仲良くするよ。と心の中で呟く。
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柊木さんの言葉に、俺はどういう意味なのかと考えた。ここ何日間見ていると、困ってる人をそのままにできない人なのは知っていた……どういう意図で言ったのかなぁ、あれ………
ピコン♪
iPhoneにメールが届いたようだぁ
『何を悩んでるのか知りませんが。
そのままくよくよするのはらしくないですよ!
しつこくアタックするのが先輩のいい所ですから』
ついさっきさよならしたばかりなのに、本当に良く気づく。
くよくよもしていられない!!
桜庭の言う通り、アタックあるのみ!!
そう決まれば、俺は再び鍵を持って家から出ようとする。そんな俺の姿を見ていたからか、縛は無言でカバンを持って、後ろに付いて来る。
ネカフェに着くと、柊木さんは目を開いて驚いていた。
「な、なんだ?兄ちゃん達。さっき言ったように、俺から話せる事はない。」
柊木さんは、きっぱり言うが、俺はアタックあるのみ!
「それでも知りたいです!あの日何があったのですか?俺……俺何も……何も憶えてない事が辛いです。」
気付いたら、自分の手を握りしめていた。俺に、そっと縛は手を添えて、拳を解そうとする。
……今じゃない。と心の中で少し思いながらも、視線を柊木さんから離さず、じっと見つめる。
「見てください、どんなに調べても出て来るのはこういう物だけなんです。なんで、被害者がこんなにいるのに、情報がないんですか?あの日一体何かあったのですか?」
つい大きい声を出すと、
ガランガラン
「お父さん〜大丈夫?外まで声が聞こえてたわよ。
夜ご飯、お母さんが持って行きなさいって言ったから、
お弁当持って来たよ〜。」
店の扉から入って来たのは高校生ぐらいな女の子、日に焼けた肌に、うさぎみたいな丸い目。ポニーテールが彼女の元気さを表しているようで、よく揺れている。
女の子と目が合うと、ペコッと会釈をした。
女の子も同じく会釈をするが、会釈のついでに、俺や縛を上から下までじっと見ていた。
「あ、あぁー、結愛ありがとう。ほらっ、もう遅いから、あとはお父さんがやっとくから、帰って母さんと好きなドラマでも見てていいぞ。」
柊木さんは心配そうに言いながら、グイグイと娘さんの背中を押す。
「え?なに?!まだ、18時だよ!ドラマなんてやってないよ。」
娘さんは不思議そうにしながら、柊木さんを背中で押し返そうとする。…あっ、柊木さん負けたぁ。勝った娘さんは、近くに立っていた縛に声を掛ける。
「お兄さん、身長高いって言われない?」
「あ、あぁー。高い方だとは思う。」
「そのぐらいあると、モデルとかやってそう〜。」
さすが現役JK、何事も恐れずよく話し掛ける。施設にいた時のお姉さん達を思い出す。
「お兄さんも身長高いですよね?……」そう言いながら、俺の方に向かって来たが、カウンターに置いてある紙に興味を持ったのか、手に取り、じっくり見始めた。
その紙には14年前の事件が書かれていた。
娘さんは、じっと俺の顔を見て、
「あなたもこの事件の被害者?」
…………?娘さんの放った言葉にその場にいる全員が固まった。…いや、1人固まってないなぁ。おい、ポケットから検査キット出すなぁ!
「ハ、ハハ。結愛、何を言っているんだぁ〜。冗談言ってないで、家に帰りなさい。」
柊木さんが焦って話すと
「嘘つくのが下手な誰かさんのおかげで、なんとなくそうじゃないかなぁ……と思ってたよ。」
そう言って、娘さんは優しく微笑んだ。
そして、真剣な顔に戻すと、
「お父さん、私も知りたい。」
と柊木さんをじっと見た。




