二人組
「……お医者さんで、今はこの船の船医だぁ!!」
俺がそう叫ぶと、小鳥遊さんは満足そうに頷いた。
「正解〜。」
「いやいやいや!正解じゃないですよ!」
「ん?」
「どうやって髪の毛を手に入れたんですか!?」
小鳥遊さんの手には、小さな透明の袋が握られていた。
その中には、数本の髪の毛が入っている。
「それは企業秘密かなぁ。」
「お医者さんに企業秘密ってあるんですか?」
「あるんじゃない?」
「適当!!」
俺が突っ込むと、小鳥遊さんは楽しそうに笑った。
その横で、柊木さんが大きなため息をつく。
「小鳥遊さん。まさかとは思うが、診察を口実に呼び出したんじゃないだろうな?」
「さぁ〜?」
「お前なぁ……。」
「それより、獅鳳くん。」
小鳥遊さんは話を変えるように、獅鳳くんへ視線を向けた。
「本当に調べますか?」
「……はい。俺も、はっきりさせたいです。」
「分かりました。検査の方は僕に任せてください。結果が出たら伝えます。」
「……ありがとうございます。」
「ただし、血縁関係が確認できたとしても、それだけで千代子さんと双子だったと決まるわけではありませんからね。」
「……はい。」
獅鳳くんは真剣な表情で頷いた。
小鳥遊さんは透明の袋をポケットへしまう。
「……でも、妙ですよね。」
俺がそう呟くと、縛がこちらを向いた。
「何がですか?」
「あの二人です。」
俺は腕を組んだ。
「前は普通に見かけてたのに、探し始めた途端、見つからなくなったじゃないですか。」
「……そうですね。」
「船の中にいるはずなのに、二日間も見つからないって、ちょっと変じゃないですか?」
「意図的に避けられている可能性はありますね。」
縛の言葉に、俺は頷いた。
「うん。俺もそう思う。」
「……でも、どうしてだ?」
柊木さんが首を傾げた。
「俺たちは、あの二人に何かした覚えはないぞ。」
「そうなんですよね。」
俺はソファに寄りかかった。
「だから、向こうが俺たちのことを知っているのかなって。」
「……なるほど。」
縛が考え込む。
「相手がこちらの存在を認識しているなら、避ける理由もあるのかもしれません。」
「でも、まだ決めつけられないよね。」
俺はそう言って、獅鳳くんを見た。
「ねぇ、結婚式の映像って、もう一度見られる?」
「……映像?」
「うん。あの二人、結婚式にもいたよね?だったら、何か映ってるかもしれない。」
獅鳳くんの表情が少し強張った。
凰真くんが襲われた日の映像。
思い出したくないのは当然だと思う。
「……分かった。」
獅鳳くんは静かに頷いた。
「俺も、確認したい。」
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「……これだ。」
獅鳳くんがノートパソコンをテーブルに置いた。
画面に映し出されたのは、以前にも確認した、結婚式の参列者が撮影した映像だった。
綺麗に飾られた会場。
幸せそうな新郎新婦。
拍手を送る参列者たち。
……何度見ても、普通の結婚式だ。
この後にあんな事件が起きるなんて、誰も思わなかっただろうな。
「……正樹さん。」
「ん?」
「何を探しているんですか?」
「例の二人。」
俺は画面から目を離さずに答えた。
「どこにいたのか確認したいんだ。」
「……なるほど。」
映像が進んでいく。
新郎新婦が笑う。
参列者たちが拍手を送る。
カメラがゆっくりと会場を映していく。
「……あ。」
俺は画面の端を指差した。
「いた。」
「どこですか?」
「右の奥。ほら、柱の近く。」
縛が画面を覗き込む。
「……獅鳳くん、止めてください。」
獅鳳くんが映像を停止した。
大勢の参列者の後ろ。
そこに、二人の人物が立っていた。
長い髪の綺麗な人。
その隣には、背の高い男性。
「……間違いないな。」
柊木さんが呟く。
「例の二人だ。」
「うん。」
俺は画面を見つめた。
二人は会場の隅に立っている。
他の参列者たちとは少し離れた場所。
……ん?
「獅鳳くん、少し戻してくれる?」
「ああ。」
映像が数秒巻き戻される。
再生。
背の高い男性が、隣にいる綺麗な人の肩に手を置いた。
何かを話しかけている。
その直後、綺麗な人が顔を上げた。
「……止めて。」
映像が止まる。
俺は画面に顔を近づけた。
「……この人、何か見てる。」
「……何か?」
縛が画面を覗き込む。
「うん。さっきから同じ方向を気にしてる気がするんだ。」
「……どこでしょう?」
「もう少し再生してみよう。」
再び映像が動き出す。
綺麗な人は、一度だけ隣の男性に顔を向けた。
男性が何かを話しかける。
すると、再び会場の奥へ視線を戻した。
その先を追うように、俺は画面を見つめる。
カメラがゆっくりと横へ動いた。
大勢の参列者。
綺麗に並べられた料理。
そして――。
「……あれ?」
俺は思わず声を漏らした。
「獅鳳くん、ちょっと止めて。」
映像が停止する。
俺は画面の端を指差した。
「……これ。」
「何ですか?」
縛が身を乗り出す。
「このカート……。」
そこには、結婚式のケーキを運ぶためのカートが映っていた。
「……ケーキのカート?」
縛が呟く。
「うん。」
俺は画面を見つめた。
……あれ?
この場所って……。
「……獅鳳くん。」
「ん?」
「凰真くんが見つかったのって、ここだったよね?」
その瞬間、獅鳳くんの表情が変わった。
「…………。」
獅鳳くんは画面に顔を近づける。
「……ああ。」
低い声が響いた。
「……凰真が隠されていたカートだ。」
「…………。」
部屋の空気が変わった。
俺は画面に映る二人を見つめる。
綺麗な人が気にしていたと思われる方向。
そこには、あのカートが置かれていた。
「……もしかして。」
俺が呟くと、縛がこちらを向いた。
「何か分かったんですか?」
「いや、まだ分からないけど……。」
俺は画面を指差した。
「この人、カートを気にしてたんじゃないかな?」
「……カートを?」
「うん。何度も同じ方向を見てるし。」
「…………。」
「もちろん、ただケーキを見てただけかもしれないけどね。」
縛はしばらく映像を見つめていた。
「……確かに、その可能性はあります。」
「……でも。」
獅鳳くんが口を開いた。
「もし、本当にあのカートを見ていたとしたら……。」
その先を、獅鳳くんは言わなかった。
俺も何も言えなかった。
あの日。
あのカートの中には、凰真くんが隠されていた。
でも、結婚式の参列者たちは誰も知らなかった。
……知らなかったはずなんだ。
「……ねぇ、獅鳳くん。」
「ん?」
「他の映像も確認できないかな?」
「他の映像?」
「うん。結婚式で撮影してた人、他にもいたよね?」
「……ああ。何人かいたはずだ。」
「その人たちの映像も見てみたい。」
「……分かった。確認してみる。」
獅鳳くんが頷いた。
「別の角度から見れば、あの二人が何をしていたのか分かるかもしれない。」
俺がそう言うと、縛も頷いた。
「そうですね。事件が起きる前後の行動も確認できる可能性があります。」
「うん。」
俺はもう一度、画面に目を向けた。
そこには、何も知らずに笑っている参列者たちが映っていた。
その後ろで、二人の人物が静かに立っている。
一人は、背の高い男性。
もう一人は、屋敷で見つけた写真の子によく似た人物。
「…………。」
俺は画面の端に映るケーキのカートを見つめた。
あの日。
あの中に凰真くんが隠されていたことを、俺たちは知らなかった。
でも――。
画面の中のあの人は、本当に知らなかったのだろうか。




