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超絶イカれ強欲魔人の勘は外れない?~美女に喰われるまで、終われまテン  作者: T.T


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第2話

 涙と血と土が混ざった顔で、男は叫ぶ。

 震える手が血まみれの爪を立て、足首にしがみついてきた。


「……はぁ~。わーったよ」


 ザガンはゆっくりと腰を下ろす。

 双剣の片方を逆手に持ち替え、その切っ先を相方の胸元――宝石の埋まる位置にこつんと当てた。

 切っ先に体重を乗せ、躊躇なく横に切り開く。


「ガァ!!!」


 男の絶叫の最中、ザガンの腕は既に体の中へ潜り込んでいる。

 生温い臓物の隙間を肘まで掻き分け、指先が硬質な何かに触れた。

 宝石。脈打つ光を内に抱えた、男の魂核。

 それを口元へ運び、歯で噛み砕く。

 パリン、と硬質な音が顎の中で弾けた。


「先に行ってろ」

「ア、リガ、ドォ……」


 最後の言葉を漏らし、半開きの目で虚空を見上げ、苦しそうな表情で息絶えた。

 砕けた欠片は糸のように細い光がほどけ出し、やがてザガンの胸へ吸い込まれていく。


「……ったく、これで九百九十九人目かよ」


 ぽつりと数を呟く。

 奴隷が戦場に出されるときは、二人一組と決まっている。

 ザガンが組まされ、骸になった相方の数——それが、九百九十九。

 奴隷として十年以上、いくつもの戦場を乗り越え、ただでさえ人の死を見ているというのに、近しい相方までもこうして看取ってきた。

 最初の頃は、確か胸の奥がちりちりと痛んだ気がする。

 二十人目あたりまでは、夜に顔を思い出して飯が不味かった気もする。

 百人目を喰った頃には、もう何も思い出さなくなっていた。

 二百人目、三百人目、と数を重ねるうちに、ザガンの中で何かがゆっくりと擦り切れていったらしい。

 らしい、というのは、本人にその自覚がないからである。

 もう、人の死に慣れすぎて何も感じない。


「何で死を選ぶかね?痛みに耐えればいいだけなのによぉ~」


 ザガンは骸の額を、ぺちぺちと軽く叩いた。


「肉が千切れようが内臓ぶちまけようが、核さえ無事なら別に死なねえじゃねえか。痛えのは分かるよ?分かるけどよ。百年でも二百年でも生きてりゃあ、良いことたくさんあるだろうよ。なのにお前ら、なんでそんなあっさり喰ってくれって言うかね」


 返事のない骸に向かって、ザガンは心底不思議そうに首を傾げる。

 戦いが彼をおかしくしたのか。溜まった性欲が彼をおかしくしたのか。

 分かるのは、目の前で半分になった男に対し、「もったいない」以外の感情を持てなくなった人間が、今にここに胡座をかいている、という事実だけだった。

 

「それにしても切りの悪い数字だぜ。一回でもいいから、女と組んでみたかったなぁ~」


 ザガンはそう言いながら、砕け散った欠片の一つを土の中から指で摘まみ上げる。

 光を失い、もはや何も宿さぬ硝子じみた破片。

 袖口で血を拭い、ポーチの一番奥へ押し込んだ。

 顔を上げれば、霧の向こうの音がいつの間にか途絶えている。粗方の魔族は片付いたらしい。

 遠くで号令が上がり、生き残った兵たちが拠点づくりに取り掛かった。


 騎士たちは散らばった屍から核を回収し、奴隷たちは木を切り倒して柵を組んでいく。

 ザガンも例に漏れず、槌を振るう側に回されていた。

 霧は少しずつ晴れはじめ、昼の光が戦場に差し込みつつある。

 血と土の匂いに混じって、焚き火の煙が鼻をかすめた。

 ザガンが十本目の杭を打ち込み終えた頃、背後から重い足音が近づいてきた。


「ザガンや、ちと付いて来い」


 図太く、間延びした声が背後から落ちてきた。

 ザガンの飼い主、「シヌヨー」である。


「何ですかい、シヌヨー様」

「お前の相方が死んだそうじゃのぉ。ちょうど一人、余っとる奴がおる。次はそいつと組ませるぞ~」

「もうですかい? ずいぶん早いっすね」

「先遣隊の情報によれば明日にゃ、魔王城が見えてくる。周りの魔族もそれなりに強くなるじゃろうて。組ませておくに越したことはなかろう」

「はっ、はぁ~」


 大人しく話を聞いていたザガンだが、胸の奥はざわついていた。

 勘が正しければ、自分は死ぬ。

 そして死ぬときは、十中八九、相方に喰われる。

 つまり、これから組まされる男がどんなに汚かろうが、口が臭かろうが、髭面のむさい奴だろうが、最後の最後で自分を呑み込むのはそいつだ。

 出会ったばかりの男に……。

 人生最悪、ここに極まれり。


「こんなことになるんなら、さっきの相方を生かしておいた方が良かったぜ」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、何でもねぇっす。で、新しい相方はどこに?」


 とにかく相方次第だと言わんばかりに周囲を見渡す。

 シヌヨーに続いて拠点の中を歩いているが、それらしい人物しかいない‥‥。

 焚き火を囲んで食事をする騎士、水袋を運ぶ奴隷、屍から核を拾い集める小隊。

 男、男、男。霧の代わりに男臭が漂っている。

 せめて――せめて、髭面で口の汚い類だけは勘弁してくれ!

 半ば祈るような気持ちで足を進めた、その矢先だった。


「あそこじゃ」


 シヌヨーが顎をしゃくる。

 その先――拠点の外れに立つ一本の木。

 ほっそりとした幹に誰かがもたれ掛かっていた。

 ザガンの肩より、頭ひとつ小さい。

 風が一筋、拠点を撫でて通り過ぎる。長く綺麗な銀髪が、ふわりと揺れた。

 頭の両脇から、人間のそれよりも長く尖った耳が、静かに伸びている。

 その人と視線が合った時、ザガンの思考が一瞬、停まった。

 とても綺麗な青い瞳。底の見えない、澄み切った青。

 髭もなく、汗臭くも、ない。

 何より――。


「お、お、女だぁぁぁぁぁ!!!!」


 拠点の全員が振り向くほどの絶叫だった。

 騎士たちが槍を取り落とし、水を運んでいた奴隷が水袋を落とし、焚き火で焼いていた魔族の肉が炎の中に転がり落ちる。

 煙が上がり、誰かの舌打ちが遠くから聞こえた。


「ほっ、本当にあの女が、次の相方何ですか?」

「そうじゃ、女じゃ。エルフのハーフらしいがの」

「エロフ……」

「エルフじゃ。よいか、あの者はな――おい、待たんか!」

「女、女、女!」


 シヌヨーが肩をすくめながら、エルフの説明に映ろうとするが、ザガンはもうそこには居なかった。

 女エルフの元へ全力前進。

 彼女と手の届く位置まで近づいた。


「マジかよ……すげぇ綺麗な顔してんじゃねえか、お前」


 胸より下は控えめだったが、そんなものはどうでもよかった。

 巨乳のお姉さんという訳ではないが、美人に変わりはない。

 

「よっ、よろしくな!俺はザガンって言うんだ!」


 差し出した右手の指先には、つい先刻まで相方の臓物を掻き分けていた汚れが、爪の隙間にまだ赤黒く残っている。それを、彼女の白い手の甲へ近づけた、その寸前。

 ――来る。

 頭の奥で、勘が囁いた。


「……不愉快。その手で、私に触らないで」

「えっ?」


 パンッ!!!!


「ドッ……ブォォォォォォォーーーーーー!!!!!」


 グルグルグルグルーーーバンッ!!!!!!!

 

 強烈なビンタが彼の頬に直撃。

 体は岩に食い込んだ。

 頭が埋もれ、足がビクビクと魚のように動いている。

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