五話
「んっ・・・」
「おっ、気づいたか」
「・・・ここは・・・ってお前っ!」
悠斗とタカエは先ほどまで野宿をしようとしていた場所へと戻ってきた。
そして悠斗は気絶していた水谷を連れてきており、隣に寝かせていた。
その水谷が目を覚ました。
「やめやめ! 勝負は終わってんだから落ち着け」
「勝負・・・俺が負けたのか・・・」
「まぁな」
「なんで俺のことを・・・放っておけばよかっただろ」
「この戦いの先輩として色々聞きたかったんだよ」
「・・・まぁ負けたのは俺の方だしな。なんでもは無理だが、答えられる範囲なら答えてやるよ」
「それは助かる」
「それよりお前、こんなところに住んでんのか?」
水谷は辺りをキョロキョロと見回した。
悠斗は恥ずかしくて詳細の説明ができずに、適当にはぐらかすことにした。
「ま、まぁ訳あってな」
「ふーん。で、聞きたいことって?」
隣に立っていたタカエと目を合わせると、ほぼ同時に頷いた。
「お前の能力の詳細と、お前が戦ったことのある能力者の詳細が知りたい」
「そんだけでいいのか?」
「俺は何も知らないし、知っておくのはとてもいいことだ」
「まいっか」
水谷は話し始めた。
まずは水谷の能力は『水』。
1円から順番に、水滴、水鉄砲で一回分くらい、水を噴射、水弾、津波だそうだ。
そして水谷が戦ったことのあるのは二人。
一人は『樹木』、もう一人は『車』とのこと。
「車?」
「あぁ。要は欲しいものが能力に繋がるわけだろ? そいつが欲しかったのが車だったってことなんじゃないか?」
「いろんなのがいるんだな」
「それにしても、最後の俺の水弾を弾いたのはどうやったんだ? 完全に当たったと思ったんだけど」
「あれか。あれはな、ライターをたくさん出して、中身を全部袖にかけまくったんだ。本当は左腕を捨てるつもりでやったんだけど、思った以上に滑ってさ。ほとんど痛みなんてなかったわ」
「ライターって・・・中に入ってるのってガスじゃなかったっけ? そんなのぶちまけて大丈夫なのかよ」
「げっ、マジで?」
「大丈夫です。あのライターの中身は全部オイルですから、油みたいなもんです」
「そうなの? よかったぁ・・・」
その二人のやり取りを見て、水谷は隣にいるゲイルに話しかけた。
「・・・俺、こんなやつに負けたのかよ、ってゲイル?」
ここにきてゲイルが居ないことに気づいた水谷。
「あいつなら強制送還だっけ? あれで消えてったよ」
「・・・そっか」
「そうそう。伝言があるんだ」
「伝言?」
「お前が負けた後にあいつと話したんだ」
「気絶してるけど大丈夫なのか? ちょっと強くやりすぎたか?」
「大丈夫です。あのぐらいでは死にはしないでしょう」
「綾瀬悠斗」
悠斗が火炎弾を水谷に食らわせたあと、ゲイルが悠斗の前に歩いてきた。
そのゲイルはもう足から消え始めていた。
悠斗は消え始めているのに気づいていたが、ゲイルの真剣な顔から目が離せなくなっていた。
「お前に伝言を頼みたい」
「こいつに?」
「そうだ。もう潤は負けて、能力者では無くなったから、普通の人間に戻るだろう。しかし俺は潤を能力者にする前から見てきて思ったことがあった。潤は、すこしでも自分より他人のほうが下だと感じると、手加減というか本気を出さないところがある。それは今後の人生においても弱点となるだろう。能ある鷹は爪を隠すというが、俺としてはどんな時でも全力な獅子のようになってもらいたい」
「なんか父親みたいだな」
「ふっ。父親か。それでもいい。とにかくこれを伝えておいてくれ」
「わかったよ。油断するなってことだろ」
「そういうことだ。では潤をよろしくな」
「おう」
そして顔まで消えかかったところでゲイルは小さく呟いた。
「最後の相手がお前のようなやつで良かったよ」
その言葉を最後に、ゲイルは完全に消えてしまった。
「なんかあいつの話をもうちょっと真面目に聞いてればお前なんかに負けなかったのかもな」
少し寂しそうに言う水谷。
「ゲイルは最後までお前の心配してたよ」
「ホント、保護者気取りだな」
「ハハハ。良い人じゃないか」
「・・・まぁな」
軽く笑った水谷はよいしょと立ち上がった。
「そんじゃ俺行くわ」
「もう行くのか?」
「俺はこんなところで寝たくねぇし」
「そっか・・・」
「またなんかあったら連絡でもしてくれ」
「俺、ケータイ持ってないんだけど」
「じゃあ電話番号だけ教えとくわ。公衆電話からでもかけてこい」
水谷は悠斗からメモ帳とペンを受け取ると、それに携帯番号を書いて返した。
そして水谷は背中を向けて、悠斗の前から去っていった。
「負けたらそれで終わりなんだな」
「そうです。でも綾瀬さんは勝ったじゃないですか」
「そうそう。結局いくらもらえたんだ?」
「えーとですね・・・7万8千円ですね」
「マジで!? こんなにもらえんの!?」
タカエがポケットから取り出した札を見て、喜びを隠せない悠斗。
「今回の戦いで得たお金は、次回の戦いの時の10万円に加算することも出来ますが、どうしますか? ・・・って聞くまでもなかったですね」
「もちろん今もらう!」
そう言ってタカエが差し出した札を受け取ると、大事そうに財布に入れる悠斗。
手をすり合わせて感謝の意を財布に向けて示している。
「ありがたやーありがたやー」
「綾瀬さん。忘れているかもしれないので言っておきますが、ポケットの中にも入っていますよ」
「うぉおお! 忘れてた!」
聞くなりポケットに手を突っ込んで中に入っていた札と小銭を取り出す。
チャリンチャリンと音を立ててポケットからお金が出てくる。
「えーと・・・9万・・・521円! すげぇ!!」
「一応はからだを張った戦いですからね。下手をすれば命を」
「マジですげぇ! 普通に働いてたのがバカみてぇ!」
「・・・聞いてませんね」
突然舞い降りた大金に歓喜している悠斗。
そんな悠斗を見ながら、タカエは肩をすくめて鼻で笑った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
水谷くん終了のお知らせ。
今さらですが、一日おきの更新となっております。
次回もお楽しみに!