8 ダンジョンという生き物
「もしかしてアースって・・・アトラス殿下だったりする?そしてその探し人がリリー様?」
そこまで聞けば、流石のナナでも察することが出来た。
『そうだよ』
ヌイグルミのハズなのに、その声色で表情が沈んだのが分かった。
『精霊の力を借りて、私がリリー嬢の牢の鍵を壊したタイミングでクライムが護衛騎士とやって来たんだ。彼は私に向かって「最後にリリーと話がしたかったのだが──まさかアトラスが共犯だったとは・・・」と言ったんだよ』
当然アトラスはその場で捕らえられ牢に入れられてしまい、その日の朝、リリーは予定通りダンジョンに堕とされてしまったのだ。
『私が牢にいる間、王妃である母が何度か会いに来てくれてね。クライムは私の婚約者であったブレアを欲していたらしいと教えてくれた。ブレアを手に入れるためだけにリリー嬢とシャイニー嬢を殺し、そして私を排除したのだとね。
ブレアは見た目こそ華奢で庇護欲をそそるが、気が強くて芯のある女性だよ。私たちは愛し合ってはいなかったがお互い王太子夫婦と共に国を守ろうと誓った同志のような関係だった。
──私は母からブレアの計画を聞き、自分をダンジョンに堕としてくれるように頼んだ──』
「待ってくれ。さっきから聞きたかったんだけど、“ダンジョン”ってここのことなんだろう?“ダンジョンに堕とす”ってどういう意味なんだ?」
『あぁ、そうだね。君たちにとってダンジョンは試験会場みたいなものだったね。──あ、そこを右に曲がったところに魔獣が三体いるよ』
アースの指示通りに進むことにより魔獣によるサプライズは0になり怖さは半減。現在38階層で、取得出来るライセンスはB級、順調だ。
曲がり角からそっと覗くと緑色の肌に豚の鼻、口には牙、鬣のような赤い毛髪の生えた頭には三本の角、お尻には馬のような尻尾が生えた2足歩行の巨大な何かが三体立っていた。何なら服を着ているし武器だって持っている。
顔は置いておいても2足歩行で服を着ているなんて、人に近いなとチラッと思ったが、こちとらライセンスはなくとも高い実力を評価されており、対人戦も数多くこなしてきているのだ。今更人型魔獣にビビったりしない。
それどころかアースの話を聞いてかなり腹が立っており、無茶苦茶暴れたい気分だ。
「デビルハムスターが汚れたら嫌だから、アースはここに置いて行ってね」
「わーってるって」
ナナがエイトにそう告げると、エイトはそういって肩からアースを降ろそうとした。
『それには及ばないよ』
アースはそう言うと、エイトの肩から浮き上がった。
「え?!デビルハムスターって飛ぶの?」
『いや。私は精神体だから・・・ほら、元々浮いていただろう』
そう言われるとそうか。
ナナは帰ったら背中にデビルっぽい羽でもつけようかと考え、三体の魔獣に飛び掛かって行った。
『さっき倒した魔獣を見ていてごらん』
魔獣の死体を飛び越えて先に進んでいると、角を曲がるところでアトラスが言った。言われた通り振り返ると、地べたに倒れ伏す三体の魔獣の周囲の地面が突然蠢き、魔獣が沈み始めた。
「うわっ」
「うぇっ」
魔獣の死体がズッ、ズズッズズッーっと地面に取り込まれていく。
「ダンジョンに取り込まれた?」
「いや、ナナ。壁を見てみろ。何か出てくる」
「え?なんで?」
ナナがエイトに言われて壁を見ていると、先程倒した魔獣が新たに命を吹き込まれたのかピンピンして出てきたのだ。
『このダンジョンは100年ほど前までは魔法を使える──精霊の加護を持つ罪人の牢獄だったんだ。一般の牢では精霊の力を借りて脱獄する恐れがあったからね。一度入れば生きては出られないためダンジョン行きを命ぜられた罪人は“ダンジョンに堕ちる”と表現されていたんだ』
当時からダンジョンには魔獣が蔓延っているため、入ったら最後、魔獣に襲われて命を落とすと思われていたのだが、アトラスはここに来て初めて真実を知った。
精霊の加護を持つものは魔獣に襲われ命を落とすとダンジョンに取り込まれるのだ。そして、未来永劫ダンジョンの魔物として生きていくことになる。
「と、言うことはここにいる魔獣は・・・」
『過去、ダンジョンに落とされた罪人たちだよ』
「じゃあ、アースも?」
『いや・・・これは私の推測なのだが──』
アトラスには生前精霊の加護があった。しかも二属性だ。
これまでは加護があるということは、加護を与えてくれた精霊と同等の魔法を使うことが出来るいう認識だったのだが、精神体となって初めて加護があるということがどういう状態なのかわかった。
『加護とは精霊が常に共にいて、望んだときに力を貸して下さるということなのだ。私は二体の強い精霊に守られていたためダンジョンに取り込まれずにいる』
ナナたちには見えないが、今も精霊がアトラスと共に在るらしい。
恐らく過去の罪人に付いていた精霊は罪人と共にダンジョンに取り込まれてしまったんだろう。
そして加護の力は精霊だけの力ではない。加護を受ける側の力も関係があるのだという。精霊の力を使いこなせるだけの素養がなければ大した力は使えないし、素養が高ければ存分に精霊の力を発揮できる。シャイニーが良い例だ。
「そっかぁ。お化けはイヤだけど、精霊ならちょっと見てみたかったなぁ」
「おい、ナナ。気持ちは分からんでもないが、今、結構深刻な話をしてると思うんだが・・・」
「そうだけど、それとこれは別じゃない?」
一体何と何が別なのか。エイトには全くわからなかったが1つ確認しておきたいことがあった。
「ということは、アトラス様──『アースで構わないよ』──助かります。アースの探し人であるリリー嬢が『精霊の愛し子』であるのならもしかして──」
『うん。このダンジョンで私同様肉体が朽ち果てても人の姿を保っている存在がいるだろう。おそらくリリー嬢は──』
『「「黒百合の魔人」」』
これは絶対に51階層に行かなければと、ナナは改めて心に決めた。




