七.念願
その頃、先人は光村としっかり話をして、皆の前に行く。新鹿に向かい、頭を下げる。
「新鹿様。話をして下さりありがとうございます」
「いや。俺のせいだ。申し訳無い。しっかり話せたようで何よりだ」
「はい」
「ああ」
先人だけでは無く光村も返事をする。先人が斬られ気配が消えた時の発狂寸前だった光村を思い出しほっとする。が、一つ。
「一つ、頼まれてくれるか? 」
「はい」
「弟の曽孫、大丈夫だとは思うが一応見てもらってくれるか?お前や服織の子、皇子の側なら出ないが」
そう言われ、先人は目を見開く。新鹿も知っていたのかと。
「それは、」
「口にしてはならないんだ」
「はい。曽祖父様が心配だったのですか? 」
「 ! ああ。約束に拘り過ぎて己を見失っていないか。…見失っていたのは俺だった」
先人の慧眼に驚きつつ自嘲する新鹿。何もかも上手くいかなかったと悔いている。
「新鹿… 」
「間違えた。全部。すまん」
「奥方様や息子様は、」
「ああ。会えた。大丈夫」
「良かったです。…すべて終わらせます。今代をもって」
「すまない」
「はい」
新鹿の謝罪をいいえとも大丈夫とも言わない。代償は大きかったのだ。だが、苦しんで悔いている。それがわかっただけでも充分と先人は受け入れる。光村は友を失っていなかった。良かったと心から思うのである。その優しさを誰よりわかっている光村が先人に向き真っ直ぐに伝える。
「先人、忘れるな。私は待って、いや、共に在る」
「曽祖父様」
光村に真っ直ぐに見つめられ、先人は返事をするが、何故か固まり黙り込む。
「そなたを一人にはしない。共に在る」
「 … 」
「先人。何もかも背負わせてすまない。だが、私はお前が何より」
「「光村」」
「光村様」
潤王と新鹿、師悟が話の最中に声を掛ける。光村は不快な表情を浮かべ三人を見るが
「何だ?…は、どうした先人。しっかりしろ」
先人の顔が真っ赤になっている。
「お前の顔を間近で見たからだろうが」
「何ですかそれは。今まで見ていただろう。先人」
潤王の突っ込みに光村は困惑しつつ先人を揺らす。
「そりゃ、話が先だったからだろう。顔処じゃない」
「同意したくありませんがそうです。光村様、貴方様の顔は初手には辛い」
「だから何だそれは。先人」
新鹿にも師悟にも言われるが意味がわからない光村は先人を揺らし続け、先人は正気に戻る。
「は、申し訳ありません」
「ああ。先人。私の顔は何かおかしいのか」
「いいえ。恰好良くて、恥ずかしいです」
七つの先人が両手で顔を隠し俯いているが赤くなった顔は隠し切れない。物凄く照れている。それを見て光村が無言になる。
「は、曽祖父様。申し訳ありません。失礼を」
「いや、大丈夫だ」
光村は胸を抑えている。そんな中、師悟が近付く。
「私はどうですか? 」
「師様。師様も恰好良いです。堅悟様と侠殿は師様に似たのですね」
「どれがいいですか? 」
「え? 」
質問はわかるが意図がわからない先人は困惑する。が、師匠からの問い。真面目に考え、
「鋼が良いです」
「「 ! 」」
師悟と光村が衝撃を受ける。
「師様は侠殿が鋼に似ていると言っていましたが私は鋼が良いです」
「 …津氏の中では」
「意図が違いましたか。申し訳ありません。彊悟様も堅悟様も良い方です。私の事を話してくれていたのですね。ありがとうございます」
「 …いいえ。先人様、私は」
「曽祖父様の側に居て下さりありがとうございます。不快だとは思いますが成し遂げて会いに行くだけで良いのです。後は師様や皆様が側に」
「 …は? 」
その場が物凄く重い圧が掛かる。光村の。瞬時に戻る。
「先人、大丈夫か」
「曽祖父様。申し訳ありません。私が何か失礼な事を」
「ああ、不快だ」
「申し訳ありません」
何がそうだったのかはわからない先人だが深く頭を下げる。光村が手を添え顔を上げるように導き、先人に改めて伝える。
「他などどうでも良い。お前が居てくれれば良いのだ」
「皆様は曽祖父様が好きなのです」
「 ……気持ち悪い」
「え? 」
表情を変えずそれでいて軽蔑するような声で吐き捨てる光村。しかし物凄く小声で、良く聞こえなかった先人が困惑するが、光村は続ける。
「先人、さっき言った通りだ。すべて終えたらかつてのように」
「曽祖父様。良いのですか?(鋼と瀧も一緒で)」
「ああ。嫌か? 」
「いいえ。嬉しいです。幸せです」
「私もだ」
二人満面の笑みを浮かべて見つめ合う。師悟は衝撃から抜け出せていない。誤解を解きたいが制約上無理なのだ。と言うか、もはや伝えても受け入れられないのでは無いかと悟る。潤王と新鹿は憐れんでいる。
「師様」
「 ! はい」
先人が師悟を呼び、近くに行く。
「お会い出来て嬉しかったです。師様がどう思っていても私は好いていました。ありがとうございます」
「 …今更何を証明しても信じてはもらえないでしょうが、私も好いています。過去にしないで下さい」
何か必死な様子の師悟に先人は不思議に思うがこれは伝えたいと思い真っ直ぐに見つめる。
「津氏の中で一番です」
「はい。嬉しく思います。他は煮るなり焼くなり吸い尽くすなりお好きにして下さい」
「そのような事出来ません」
「一番は、誰ですか? 」
「瀧です。鋼も」
「はい。それで良いのです」
先人には友二人。他が放り出したからこうなった。こうしたくなかったから伝えたのにと内心物凄くなっている師悟に気付かず先人は謝る。
「申し訳ありません。一番には、出来ません」
「当たり前です。良いのです。それでも側にと居ると言うならば使ってやってください」
「出仕するならば、ですがいずれすぐに帰します」
「申し訳ありません」
師悟は侠悟を出仕させても直ぐに津の国に戻す事に感謝する意味で謝った訳では無い。誰にも頼れず信じられなくなった主に対して謝罪をしているのである。土下座は困るだろうと思い止めている。
「いいえ。私が決めた事です。曽祖父様の側に居てくださってありがとうございます」
「いいえ。私が決めた事です。共に居ますのでご心配無く。いずれ来られても光村様を取る事など致しません。決して」
「 …それは良いのですか? 」
「はい。他も入れません。水入らずで。約束です」
「 … 」
「次は必ず」
「はい」
必ず果たすと言う強い意志を感じた先人は頷く。夢だとすれば叶えられないが、もし、と思ったのである。
話が済んだと判断した潤王が近付く。
「元は俺らのせい。力を貸す。これからも。どうにかするから前だけ見て進め」
「はい。ありがとうございます。潤王様」
所々わからない事を言われるが意志はわかる。だから先人は頷く。それを見た潤王が遠くを見るような目になる。
「 …本当にどうにかしないとな。迪が生きているなら、動くか」
「迪様? 督之様ですか? 」
「そう。大知将軍補佐の氏族で光村の補佐。本当の」
「え、」
補佐?と困惑する先人。大知将軍補佐の氏族を知らなかったと言うか存在すら知らなかったのである。師悟が聞き捨てならないと潤王に詰め寄る。
「潤王様。補佐は私です」
「大知氏の将軍補佐、迪氏だろうが。本来はあっち」
「監察の長になりましたからお役御免です。なので私」
「そうなのですか? 」
師悟の言葉を聞き、先人が光村に問う。
「ああ。まあ」
「まあ、とにかく、何とかする。俺はお前の味方だ。絶対。これからも」
「潤王様。何故ですか? 」
強く言われるが先人はわからない。潤王がそこ迄言うのは。
「優しい奴が好きなんだ。芽依が一番優しい。何も無い皇孫を夫にして大切にしてくれた。いや、今も」
「良き方です」
「お前もそう。だから、味方」
「私は、」
「優しい奴だよ。お前は。…大丈夫そうだな」
潤王がそう言うと、先人の体が元の年齢に戻る。
「はい」
「よし、行ってこい」
そして、青海の国。吹が咲と巌に満面の笑みを浮かべている。
「おめでとうございます」
「何、」
「大王様のみことのりです。読みます」
吹がまた別の書簡を取り出す。何処から出しているのかわからないがそれ処では無い。咲と巌は黙って聞く。
〝 此度、凄惨な事となった。初代大王様から今に至るまで陰謀がひしめく中、長を亡き者にしようと企む氏族がいようとは 〟
「 ! 」
咲が目を見開き、巌が黙ったまま聞いている。
〝 陽大王様の意思にも関わらず、長の意思に反し、己こそが当主と偽りの言を吐き、あろうことか外の氏族をまとめ上げる統括に対し、その権さえ奪おうとした。赦し難い罪である。
大知氏。長の意思に反し、真の当主を立てぬ罪、あまつさえそれを亡き者にしようとする罪、統括を奪おうとし、外の氏族を操り、我がものとした罪、国賊に相当する 〟
「違う。私はただ、再興を」
「黙れ」
咲は否と叫ぶが、吹が一喝し、続ける。
〝 その話を持ち掛け、いずれは統括の権を奪い、己が私腹を肥やさんとする氏族もまた、国賊に相当する。その氏族すべて処す事とする。そしてこの件すべて、大連に全権を委ねる 〟
「 ! 」
咲と巌、五大氏族全員が驚愕する。今の宮中に大連はいない。ならば、
〝 大知氏の長であり当主。軍部を担い、長きに渡り武を持って大王様を守りし氏族の血を持ち束ねる者。前長が唯一認め、証を渡され、月大王より証文を受けた者。
太子の側近であり、外の氏族を束ねる統括となり、都と繋げた功。罪人の血を残さず忠の勇士に委ねる決断をし、他国からの縁を繋いだ功。幼き時より身を挺し国を守りし功。
大知氏の長、大知先人を大連とする。一代限り、次代は認めぬ。この言、撤回せぬ。
皆、大連の言に従え 〟
吹は読み終わり、全員を見渡す。そして咲と巌に目を向ける。
「大知氏再興、念願叶いました。良かったですね」
「 …大連」
「 … 」
咲が呟き、巌が青ざめている。絶対的不利な状況からひっくり返した。大知氏を滅ぼす処か再興させた先人。偶然では無いと血筋の勘が働く。同時に諸刃の剣だと頭に過ぎる。
吹はそれを静かに見つめ、そして使者として、先人の臣下として振舞う。
「これより先は忠の勇士様に戻ります。武と忠を持って大王様を守る大知氏の本分に。その時次代は來允様。他は無い」
「 … 」
「采配は大連様。精々待っていろ害悪共。皆様も、よろしいですね? 」
咲と巌を睨み、そして五大氏族に振り向く吹。五大氏族は全員頭を下げ、泣いていた。償えない罪と悔いと、主が一人で成した事への思いが溢れ涙が止まらない。
「はい。大連様に従います。皆も」
「すべて思うままに」
「うん。はい。全部従います」
「はい。すべて、従います」
「はい。…父上、光村様… 」
御記氏の長である宗を筆頭に綾武氏の長で長老の熟練、味氏の長である溌、守氏の長である衡士、津氏の長である彊悟が順に声を出す。誰にも頼れず信を置けず、だが成した。証明したのだ。先人は。命を懸けて。
主犯である綜氏の者らと血筋の者らを処罰は皇統の血筋故に内密になるだろうが多くのものらの罰せられる。上も認めている。裏での綜大臣の力を削いだ。その上で上に貸しをつくった。
大知氏の昏きものを根こそぎ排除し次を委ねる。光村が諦めた事を先人は成した。光村が氏族を滅ぼす事無く、先人も次を委ねられた。
五大氏族も疑いだけで終わる。実際兵とわかる者を動かしてはいない。ならば何も無い。先人は踏んでいた。精鋭ならば兵とわからない者と。だから…
長達は涙が止まらない。見捨てていた主が、見捨てていた者らのために被害を出さず成そうとし、成した事に。先人は、光村の子。会って理解した通り。光村は、子を託していたのだ。傷付く事無く、導いて欲しいと。自慢の子だと。それを…自身が赦せず涙し、深く悔いている。
そして若達も泣いている。
「先人様、お支えします。ずっと」
「どこまでも付いて行きます」
「うん。はい。どこまでも」
「はい。必ず」
「すごいな。俺の主は。本当に」
長の順番通りに若達も深く思い、悔いている。その様子を見ていた吹は内心ため息を付く。
( …やり過ぎたか。光村様… )
主の手腕に感嘆しつつ、もう一人の主の行く末に思案を巡らせる吹である。
(まあ、邪魔になるなら処理するまでか)
この男もかなりである。
(さて、動くか。あの男も)
光村と先人には敵わない。
先人は何もかも承知の上です。五大氏族の介入でこうなりました。望んだ道ではありません。光村もそう。なので五大氏族に情があってもこれは赦せない。好かれていると言われた時の反応は本来の関係性ならまた違ったものになりますがこの事があって受け入れられないのです。
光村の姿についてですが、先人は前回それ処では無いのと光村のつくった花冠に見とれていて顔をしっかり見ていません。改めて見たら衝撃を受けました。光村は先人が可愛いので衝撃を受けました。
師悟に対しても光村は内心切れています。先人が何より大切。先人は師悟を誤解していますが好いてもいます。




