" 化け物 " #02
____私は小さい頃から『普通』じゃなかった。
人間の形をしているけれど魔力の凝縮された塊が自我を持つ生き物・『アルタナ』と人やモンスターを殺す為の特殊な器官を持ち、人肉を喰らう生き物・『悪鬼』が交わり生まれた存在なのが私達一族だ。私はその中でも力が強く、傷はすぐに治り、魔法___命の光が見えていた。
それでも、私は誰かと関わりたかった。
少女漫画のヒロインように色んなことを語り合える友達が欲しかった。
少女漫画のヒロインように色んなことをし合える親友が欲しかった。
……………少女漫画のヒロインのように、運命の人に出会いたかった。
だから、家族に我儘を言って幼稚園に行った。
………だけど、私は家族以外との関わり方が分からなかった。本の知識だけでは、コミュニケーションは取れなかった。
私はいつだって1人きりだったけど、友達は居た。小さな、可愛いうさぎだった。ピョンコ、なんて名前を付けて可愛がっていた。泣きたい時は飼育室に行ってピョンコと戯れて、いい事があったらピョンコに聞いて貰ってた。
ピョンコが居てくれたから寂しくないと思えた。幼稚園で無視をされても、怖がられてもいいって思えたんだ。
____でも、それがいけなかった。
何もしない私を試すように『度胸試し』が行われた。私を怒らせる、という名目で、………ピョンコが、目の前で殺された。
やめて、と何度叫んでも、やめて貰えなかった。
ピョンコが殺された時、目の前が真っ暗になって___気づいたら、血だらけのクラスメイト達が倒れていた。私も血だらけで………お母さんに抱かれていた。
死人はいなかった。何があったかは、ほかのクラスメイトが話してくれたけど………私が犯した罪は、コルーンどころか次元中に轟いた。
『無茶苦茶一族』___そう言われるきっかけになったのは、『齢6歳で100人以上に重軽傷を負わせた化け物』の私だった。
それから私は___誰かを傷つけるのが怖くて、誰かと関わるのが怖くて、閉じこもった。大事なものを作るのが怖くて色んなものから逃げ出したんだ。"歌姫"だって、少しでも辛い思いをさせた家族への、傷つけた罪の贖罪だった。
そんな私が、夢を見てしまった。
そんな私が、前に進みたいと思ってしまった。
私は忘れていた。
私は_______。
* * *
「"化け物"だからあっ………」
私は泣きながら、全部話した。
アドラオテル様の顔を見るのが怖くて、天を仰ぎながら走っていたら、いつの間にか下界に着いていた。
私はアドラオテル様を降ろして、距離を取りながらやっと涙を両手で拭う。けど、何度擦っても涙が止まらないのだ。
「きっと今後私と一緒に居たら、アドラオテル様を不幸にします、傷つけてしまいます、私はッ、私は………化け物だから………」
「…………レイチェル」
「お願いします、私の事は____!」
暗かったはずの周囲に、光が差した。眩しくて、目を瞑る。すると、知ってる声が大きく聞こえた。
『___レイチェル、俺を見て』
「………!?」
思わず振り返って___言葉を失った。
アドラオテル様が………龍になっていたから。アドラオテル様の髪の色と同じ群青色で、大きくて、力強くて………美しい、龍。でも、すぐにアドラオテル様だってわかった。
アドラオテル様は私を囲むようにとぐろを巻いた。そして、顔を近づけてきた。
『………驚いた?』
「あ、あの、………その御姿は?」
『俺も___人間じゃない。龍なんだ。龍神、って生き物で………俺も詳しくは知らない。
………レイチェルは俺を"化け物"だと思う?』
「思う訳ありません!アドラオテル様はアドラオテル様です!………あっ」
意図せず本音を叫んでしまった。でもアドラオテル様は叱ることなく、寧ろ笑った。
『ははっ、そうだろう?………俺にとっても、レイチェルはレイチェルだ。
"化け物"なんかじゃない。__俺が愛したレイチェルだ』
「_____」
また、涙が零れた。
冷たくない、自分でもびっくりするくらい熱い涙。『化け物じゃない』その言葉だけで、心がじんわり温かくなる。アドラオテル様は大きな舌で私の頬を舐めた。
『____なあ、レイチェル。
答え、聞かせてくれよ。………今、聞きたいんだ』
…………いいのかな?
…………化け物の私でも、夢見ていいのかな?
____"両思い"だけで、いいのかな?
私の問いかけは、思考の域を出なかった。代わりに、違う言葉が出た。
「………好きです。アドラオテル様の事が………どんなアドラオテル様も、好きです」
___生まれて初めての告白。
___アドラオテル様は龍の御姿で。
___私は顔がぐちゃぐちゃで、忌まわしい捕食器官の羽根が生えていて、泣きすぎて声まで枯れているのに。
『____俺も好き』
____それでもアドラオテル様は嬉しそうにそう言った。




