" 化け物 " #01
レイチェルは唇を噛んで泣いていた。ものを投げられても、罵声を浴びても、………何も言い返さなかった。
「おい!あの青年を保護しろ!」
「逃げて!化け物が暴れ出す前に!」
「いいや!仲間かもしれない!誰か警備員を呼んでこい!」
「なんだよ、それ………やめろよ!ダーインスレイヴ!」
俺はダーインスレイヴを呼んだ。青紫の剣を掴んで構えると、全員が怯えた顔をした。
「本性を現しやがった!殺せ殺せぇ!」
「___ッ」
銃口を向けられる。………魔法を使うか?いや、ダーインスレイヴがあれば全部撃ち落とせ___「や………て、……めて、やめてぇ!!!!」___!
レイチェルが突然、叫んだ。それと同時に銃弾が放たれる。俺がレイチェルを守ろうとする前に___赤黒い"何か"が俺の前に立った。
下ろされた黒髪と一緒に、蝶の羽根のように赤黒い光が揺れている。その光が銃弾を全て受け止めて、俺を守ってくれた。蝶は振り返る。
「_____!」
蝶は____レイチェルだった。いつものサファイアのような瞳が赤黒く光っている。泣きながら、静かに言った。
「アドラオテル様………ごめんなさい。私のせいで……ごめんなさい……」
「れい、ちぇる………」
「ば、化け物が本性を現したぞ!」
「暴れられる前に逃げろ!避難だ避難!」
「うわーん、ママーっ!」
阿鼻叫喚になる広場、レイチェルは何も言えない俺を抱きかかえて___飛んだ。浮遊魔法じゃない。建物を足場に身軽に飛び移り、一心不乱に駆ける。
そのあいだ、俺は____やっぱり、何も言えなかった。
* * *
____私は、馬鹿だ。
何も分かってなかった。
アドラオテル様のことばかりを考えて、自分が化け物だってことを軽視していた。少しでも楽しんでいた自分を殴りたくなった。
アドラオテル様を抱えているのに、涙が止まらない。……知られたくなかった。
アドラオテル様に、私が化け物だということを、知られたくなかった。
存在すら許されない私に、好きな人が出来たなど言う資格なんてなかった。
「___ごめんなさい」
黙ってしまったアドラオテル様にか、怯えて逃げ惑う人々にか、愛してくれた家族にか………誰に謝ればいいか分からないのに、謝った。
私は走りながら、アドラオテル様に聞こえるように声を張る。
「アドラオテル様、………私はアドラオテル様の事が、好きです」
「レイチェル………」
「ですが、アドラオテル様は私よりもっと、………他の人と恋愛をした方がいいと思います」
「レイチェル、……」
「アドラオテル様が好きになった人はきっと素敵な人です。……私には相応しくありません」
「レイチェル」
「だって私…………化け物だからあ……!」
「____ッ」
何度も呼んでくれるアドラオテル様に、私はとうとう我慢できなくて大声で泣いた。伝う涙も、鼻水も、見苦しい顔も隠せず、私は懺悔するように泣いた。




