見てしまった光景 #01
「~♪」
冬も半ば、私は廊下を歩く。講義室に向かう途中だ。………仮でも婚約者と言うと、何かと覚えることが多くて、いつも頭がパンパンだ。けど、今は楽しいとさえ感じている。
ユートピアの歴史、文化、礼儀作法。どれもこれも学園に通っている時は全く頭に入らなかったのに、セラフィール様に教えてもらったり、偶に城に来るガロ様に教わったりして、自分でも調べるようになった。
___楽しいな。
そんなことを思いながら廊下を歩いていると、遠くから話し声が聞こえた。廊下の端っこ、群青色の短髪の長身、後ろ姿___アドラオテル様だ。………こ、声をかけていいかな……?でも、誰かと話して……………あ。
アドラオテル様の前には___私よりも身長が高い侍女。金髪に柘榴色の瞳のスレンダーでカッコイイ美女、セラフィール様の侍女のコト様だ。いつも眉を下げていて、親近感を持っていたけれど…………今の彼女は頬を染めて笑顔だ。話はわからないけど、アドラオテル様の声も弾んでいる。
もしかして、あの二人_____………
そこまで考えて、ちくりと胸が痛んだ。
……………講義室に行かないと。
私はそう考えて、踵を返した。
* * *
「……………はあ…………」
今日の講義を終えた私は図書室にて大きく溜息を着いていた。………全然、本の内容が頭に入らない…………。
何度も何度も思い返す。
アドラオテル様とコト様。
あの空間はまるで、少女漫画だった。美男美女の皇子×侍女のカップリング漫画は好き。好きなはずなのに…………嬉しく、なかった。
「…………はあ」
「…………何、ため息ついてるの」
「うひゃあっ!」
突然声をかけられて、肩が跳ねる。振り返ると___紫銀の長髪、黄金がかった緑瞳の美少年、フィアラセル様だった。
私は慌てて立ち上がる。
「も、申し訳ございません!」
「………謝らなくていいよ。それより、どうしたのさ」
「な、なんでもありません………」
「………お兄さまのことじゃないの?」
「う"っ……」
図星。胸にグサッと刺さる。次はフィアラセル様が溜息をついた。
「何があったの?話してみてよ」
「いっ、いいえ、……本当に、なんでもないんです……」
「本音は?」
ぐいぐいとくるフィアラセル様。これは話すまで聞いてくるだろう。でも、侍女といい関係だった、なんて言えない。なにか、いけない気がする。………それ以上に、私が言葉にしたくない。
「………その、アドラオテル様に、会いたいな………と」
「………じゃあ会いに行こう」
「え?……っわ」
私はフィアラセル様の浮遊魔法で浮く。浮遊感に頭がクラリ、とした。
「あ、あの!フィアラセル様!?」
「____転移魔法」
フィアラセル様がそう言うと、ふ、と私達は図書室から消えた。
* * *
「レイチェル様!?」
視界が一転して、沢山書類のある場所に来た。どこか分からなくて戸惑っていると、部屋にいたセラフィール様が声を上げた。
「フィア!なにをしているのですか!」
「お兄様に会いに来た」
「此処は皇族しか入ってはならないのです!お母様に見つかったら怒られます!………と、とにかく、部屋を出ます!フィア!転移魔法を!」
「うん、___転移魔法」
「え」
私はまた消えた。




