皇子の本音 #02
アドラオテルは、止まらない。何度も何度もその場で地団駄を踏んで言葉を重ねた。
「だから言わないんだよ!なんでわからないんだ!?俺はっ……龍神の血に誇りを持っている!大天使の血に誇りを持っている!サクリファイス皇族の血に誇りを持っている!だから俺が死ぬのはいい!けど!………レイチェルは、違う………違うんだ………。
わかってる、わかってるさ、………でも、レイチェルから、離れられないんだ………離れなくて済むなら、俺は………言わない。好きだって、伝えない」
「ッ、アド……それは………」
___アミィールと一緒だ。
そう言いかけた。………アドラオテルはやっぱり、アミィールに似たのだ。
アミィールはなんでも隠した。俺が傷つくことは全て隠して、笑っていた。
そして………アドラオテルも、同じ道を選ぼうとしている。いいや、もう選んでいるのかもしれない。
アドラオテルの身体は、不安定だ。
龍神も、大天使も、自分の精神だけで食い止めてきた。空の妖精神・スカイにも言われたことだった。
そして。
アドラオテル自身も、理解している。
俺が首を突っ込んだ色恋は、……アドラオテルの我慢と甘えに成り立っているものだったんだ。
悲しい。悲しい。どうにかしたい。なにかしてやりたい。父親として……でも。
アドラオテルは____もう、全てを受け入れて、その上で選んだんだ。
「………レイチェルちゃんが、可哀想だろう、そんなの………死ぬなんて、言うな……」
「……………ごめん。でも___俺だって、少しくらい………ひとつくらい、我儘いいたい。
俺は_____少しだけでも、"幸せな夢"、見ていたいだけなんだ。
おやすみ、父ちゃん。風邪引くなよー」
アドラオテルはそう言ってふ、と姿を消した。転移魔法だと気づくのに数分かかって、やっと脳に伝達されたと思ったら、自然と涙が出てきて。
「っ、うぁぁ………あああ…………っ!」
たった1人の鍛錬場で、俺は声を上げて泣いた。立場も身分も関係なかった。父親として、息子に何もしてあげられない。その現実を受け入れられなくて____声が枯れるまで、泣いたんだ。
* * *
「……………」
アドラオテルはある部屋に転移した。ラベンダーの香りがするその部屋に、すうすうと小さな寝息が聞こえる。
静かに、足音を立てずにベッドを覗き込むと____いつも纏めている美しい黒髪を放って、身動きひとつ取らずに規則正しい寝息を立てている美しい女。
その寝顔を愛でていると、ぎゅう、と心臓が握られるような痛みが走って、その場に膝を着いた。
「ッ、く…………」
暫く痛みに悶えてから、立ち上がる。
彼にとってこの痛みは日常茶飯事で、もう慣れきっていること。アドラオテルは大きく息を吸ってから吐き出し、再び女を見た。
「………ごめんな。レイチェル。
俺はとんだ最低な男だ。罵ってもいい、嫌ってもいい。
だから____俺の傍に、居てくれ」
罪深い男は、月に照らされながら黒の髪の毛を1束掬って………唇を落とした。




