皇配と化け物少女
私が城に花嫁修業に来てもう7ヶ月が経った。もう秋も半ばで、風が冷たい。私は未だに婚約者としてここに居る。最初こそビクビクしていたけど、なんというか、やっぱり順応性は高いらしくて花嫁修業も慣れた。今では庭園に人が居ても怯えることはなくなった。
「レイチェルちゃん、そっちの雑草は全部抜いた?」
「はい、抜き終わりました」
「そうか。………なら、少し休憩しないか?美味しいスイートポテトを作ったんだ」
「あ、はい……………」
私は笑顔を作ったけど、多分引き攣っている。………ダイエット計画も進行中なのだけれど、このセオドア様、物凄くお菓子を進めてくる。
こういうところはセラフィール様によく似てる。似たもの親子で、もちろん好きなんだけど………体重計に乗るのは怖いです………。
そんなことを思いながら、私は庭園に備え付けられたテラスの大理石を踏んだ。
* * *
「スイートポテト、とても美味しいです」
「そっか、よかった。大学芋もあるよ」
「えっと、ありがとうございます………」
黒髪をひとつに纏め、青い瞳を細めるレイチェルちゃんはそう言って笑う。
………レイチェルちゃんはとてもいい子だ。
最初こそアルティア様の滅茶苦茶に腹を立てたり、どう婚約を破棄させようか悩んでいたけど、今はそんなことしていない。
もうすっかり、レイチェルちゃんは大事な家族になっている。でも………気になることがひとつ、あった。
アドラオテルとレイチェルちゃんは、未だに「結婚をしたい」と言わないのだ。どうみたってアドラオテルもレイチェルちゃんもお互いを想っているし、初々しいけど微笑ましいくらい「好き」が伝わってくる。
なのに…………まるで、結ばれるのを望んでないかのように振舞っているのが腑に落ちないのだ。
大人が口を出すことじゃない、というか、もうアドラオテルもレイチェルちゃんも大人だ。他人がどうこう言う歳じゃない。わかっているけど………聞きたくなった。
「ねえ、レイチェルちゃん」
「はい?」
「…………アドのこと、好き?」
「え」
さぁぁ、と風が吹く。冷たい風なのに、レイチェルちゃんの顔に赤が指していく。純粋に可愛いと思う。
俺はもう一度口を開いた。
「人として、とかではなく、異性として。……勿論2人は婚約者だし、お互いを大事にしているのはわかっている。わかっているけど………本心は、どうなの?」
「………そ、それは………」
レイチェルちゃんはキョロキョロと机を見てから、そ、とティーカップを両手で包んだ。しばらくの沈黙。俺もレイチェルちゃんがどういう性格か知っている。俺と似ている部分があると勝手に思っているから気軽に待てた。10分位経って、レイチェルちゃんはゆっくり口を開いた。
「………アドラオテル様は、とても素敵です。眩しいくらい明るくて、優しくて………私を受け止めて、手を引いてくださいます。
でも………私はアドラオテル様にふさわしくないって思うんです」
「ふさわしくない?」
「はい。………私はアドラオテル様の隣どころか、傍に居ることもふさわしくないです。頑張って同じ空間に居れるように努力はしているのですが………。それに、アドラオテル様にはたくさん、たくさんのことをして頂いているにも関わらず、私はお返しを何一つできてないのです。
そんな私が___アドラオテル様の傍にはふさわしくないと思うんです」
「それはッ___」
それは違う、と身を乗り出したけれど、言葉は出なかった。だって、レイチェルちゃんはとても悲しい顔をしていたから。………レイチェルちゃんは、アドラオテルのことが好きなんだ。だからこそ、ふさわしくなりたいと思っている。
____そんなの、必要ない。
____両思いでいいじゃないか。
____これから頑張ろう。
色んな言葉が浮かぶけど、言語化はできなかった。どれもこれも気休めにしか聞こえなくて。
アドラオテルの口から以外で、聞かせてはいけない言葉だと、俺は思ったから。
俺は言葉の代わりに、近くにあったスイートポテトの皿を手に取った。




