化け物少女の決意
セオドア様に、アドラオテル様のことをどう思っているかを聞かれた。当然だ。いつまでも婚約者、では居られない。
気持ちの有無はハッキリさせるべきだと思った。
___気持ちはない、と言わなければならなかった。
なのに。私は。
…………言えなかった。
こぼれた言葉は作り置きをしていた言葉ではなく、本心だった。
わかっているのに、アドラオテル様への想いは日に日に重くなっていく。足枷のように重くて、硬くなっていく。
だめだとわかっている。不釣り合いだってわかっている。………けど、まだ、今はまだ、夢を見ていたい。
_____私は我儘だ。
「………レイチェルちゃん」
「あ、………ごめんなさい。ぼうっとしていました」
「うん、うん。ごめんね、無理に聞いちゃって。お詫びのスイートポテト、食べてくれると嬉しいな」
そう言ってスイートポテトを差し出してくださったセオドア様はとても優しい顔で、受け取ったスイートポテトは少しだけ苦かった。
苦味を噛み締めていると、ぽつり、とセオドア様が口を開いた。
「____私も、昔はレイチェルちゃんみたいに思っていたことがあったよ」
「………?」
「アミィ………アミィールのことを初めて好きだと気づいた時。自分には不釣り合いだ、自分が配偶者なんて不敬すぎる……なんてことを、考えていた」
「え、ええ!?」
私は思わず立ち上がる。セオドアはくすくすと小さく笑っている。けど、笑い事なんかじゃない。セオドア様は、アドラオテル様に負けず劣らずの素敵な方だ。それは私以外の人間も思っていることで、寧ろあのアミィール皇帝様の隣はセオドア様以外に考えられないくらいだ。
そんなセオドア様が、……私と同じ思いを感じてたの?
「う、そですよね………」
「ううん、本当。毎日頭を抱えてたよ。未来なんて描けない!運命は決まっていて、私はアミィールとは結ばれることは許されない、って。
でも」
セオドア様はそこまで言って紅茶を口に含んだ。私なんかと比べ物にならないくらい綺麗な所作で飲んでから、ふわりと笑った。
「____この人と結ばれたい、この人のそばに居たい。……そう思って頑張ったら、アミィールは私の手を引いて導いてくれた。
親バカに聞こえるかもしれないけど、アドは、……アドラオテルはアミィールによく似てる。きっと、変わろう、そばに居たいと思って努力をすれば、アドラオテルは応えてくれる。
だから___まだ、決めつけないで。レイチェルちゃんなら、きっとできるよ」
「____ッ」
優しい、優しい言葉に涙が出た。
私は何かをした?まだ何もしてないじゃない。陰キャだって自分で諦めて、アドラオテル様にばかり手を差し伸べさせてる。いつだって私はアドラオテル様に導かれている。
私が諦めて、決めつけて、逃げて。
アドラオテル様を振り向かせようなんてしてなかった。………こんなに胸が痛いのに、何もしなかった。
でも。
今からでも………。
「ひぐっ、…………今からでも、遅くないでしょうか………」
「………人が変わることに遅いなんてない。それぞれ違う歩幅で、ゆっくりでもいいから………歩き出すことが大事なんだ」
「はい……はい。私は、変わります。アドラオテル様の手を、私は……離さないように。振り解けないように。
歩きだします。……そして、必ず、アドラオテル様に………追いつきます」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃになっているのを自覚しながらも、セオドア様にそう宣言した。セオドア様は、やっぱり優しい笑顔で「応援するよ」と言ってくれた。
____変わろう。
いつか、アドラオテル様が驚くような………あの大きな手を引っ張るような存在に。
アドラオテル様に相応しい、強くて美しくて、……アドラオテル様の力になれるような、………そんな女性になってみせる。
守られてばかりの私が、アドラオテル様の力に____。
私はそう、アドラオテル様に、アドラオテル様のいつも見せてくださる笑顔に誓った。




