双子の喧嘩と夏祭り当日
よく喧嘩をする双子を16年も見てきたセオドアは聞き飽きたと言わんばかりに大きく溜息をついて、2人を見やる。ふい、と顔を逸らしたアドラオテルの代わりに、セラフィールが涙目で怒った。
「アドがっ、レイチェル様を夏祭りに誘ってないのです!レイチェル様はアドは自分じゃない素敵な方と行くべきだと言うし、レイチェル様にそんなことを言わせるアドは最低なのです!わたくしっ、レイチェル様のことを考えたら………」
とうとう泣き出したセラフィールの言葉に、セオドアはちらり、と不貞腐れるアドラオテルの横顔を見てまた大きく溜息を着いた。
「…………セラ、セラの言いたいことはわかるけど………それは間違ってるよ」
「間違いなどッ、……お父様はまだレイチェル様を認めてくださってないのですか!」
「うーん。そうじゃなくて…………うん、話すより見てもらった方が早いな。
アド、頼まれたもの出来たぞ」
「!本当か!?」
「?」
アドラオテルはセオドアの言葉に目を輝かせる。そんなアドラオテルの様子に首を傾げるセラフィールにも見えるように、セオドアは包みを取った。
これは______…………
「……………浴衣?」
セラフィールはぽつり、着物………浴衣を見て目を輝かせる。綺麗な白い浴衣に、桜が舞っている。アドラオテルは満面の笑みになる。それを見たセオドアは優しい笑顔をしながら、セラフィールを見た。
「これ、レイチェルちゃんの浴衣なんだ」
「レイチェル様の………?」
「そう。………アドが、自分のお金を持って"レイチェルに浴衣を作ってくれ!"と頼んでてね。それで今日出来たんだ」
「じ、じゃあ…………」
セラフィールの顔にやっと笑顔が戻る。
___レイチェル様のこと、アドはちゃんと考えてたんだ………!
そう考えると自分のことのように喜ぶセラフィールに、アドラオテルはすぐに仏頂面を作って唇を尖らせた。
「本当は当日まで秘密にしてレイチェルを驚かそうとしたのに。セラの馬鹿」
「う、ご、ごめんなさい………」
それに関しては何も言えないセラフィールは肩を窄める。立場は逆転、ごめんなさいをするセラフィールを横目に、セオドアは言った。
「セラのことは許してあげて、アド。きっとこれを知ったらレイチェルちゃんはもっと喜ぶよ?」
「フンッ、とーぜんだ!俺が連れてくんだから喜ばないわけがない!」
そう言って楽しそうに笑うアドラオテルを見て、セオドアはやっぱり笑ったのだった。
* * *
夏祭り当日の夕方。
暑さが和らいできたとはいえ暑いレイチェルはバルコニーで本を読んでいた。
……………今日はアドラオテル様、夏祭りに行くのかな…………。私も行きたいけど、1人で祭りとかハードル高いし………大おばあちゃん達を誘うことも考えたけど、結局しなかった。
もしかしたら、万が一、100000000分の1にもアドラオテル様に誘われた時の為に予定は入れたくなかった。
夢を見すぎなのはわかっている。………けど、アドラオテル様以外と行きたくないというのも本音で。
「はあ………私、どうしちゃったんだろ………ん?」
コンコン、と部屋からノック音が聞こえた。アドラオテル様………?
「ど、どうぞ!」
「失礼致します、レイチェル様」
「………ライラ」
私の期待、大外れ。専属侍女のライラだった。……って、何がっかりしてるのよ、私。当然じゃない。でも、何かな___「レイチェル様、お召し物を変えます」………?
「え、えっと、今日は外に出てないので、お着替えは………」
「アドラオテル様の命令です。こちらに」
「え、え、え」
私は引っ張られるようにして着替えをさせられたのだった。




