『誰のため?』
レイチェルが目を閉じて違う、と言った。何が違うのかわからなくて首を傾げていると、ぽつりぽつりと言葉が零れた。
「鍛えてたんじゃないんです、……ただの、ダイエットなんです」
「………」
ダイエット、という言葉にセラフィールの先程の言葉を思い出す。
"好きな殿方の為にやっている事だから、苦痛ばっかりじゃないんです"
それを思い出したらさ、我慢なんて出来なくて。気づいたら俺も言葉を紡いでいた。
「………それって、誰のため?」
* * *
「…………誰………?」
アドラオテル様の言葉を反芻して、ハッ、とした。
考えてみたら「ダイエット」って恋する女子感ある!『この陰キャ一丁前に恋してるのか!?』なんて思われてるんじゃ!?
私は慌ててアドラオテル様を見た。アドラオテル様はなんだか複雑な顔をしてる!まずいまずいまずい!誤解を産むくらいなら!
「じ、自分のためです!人間磨きの一環として!この贅肉を見直さねばと思い!」
「え?別に必要ないだろ」
アドラオテル様はキョトンとして、さも当然のように言った。あぁぁぁぁぁ気を!気を使わせてしまった!何たる失態………!
「………でもそっか。自分のため、か」
「……?」
アドラオテル様が安心した、と言わんばかりの顔をして、眉を下げた。な、なんか間違ったこと言っちゃったかな……。
「あの、傷つけてしまっていたらごめんなさい………」
「いや、………それより、縄跳びなんて懐かしいな。俺も昔セラとやってたんだ。ばあちゃんが出来たらスタンプくれる!みたいなことしててよ、俺、はやぶさまで練習したんだ」
「そ、そうなんですか!?アドラオテル様、はやぶさできるんですか!?」
「うん、教えよっか?」
「う、わ、私はいくらやっても出来なくて………剣を握るべきでしょうか……」
「それはダメ。怪我したら大変だから。それより………」
_____結局私はこの後、アドラオテル様に優しく注意されて、縄跳びダイエット計画は破綻したのだった。
* * *
おまけ - 男兄弟
「……………なー、フィア」
「何、お兄様」
夜、ふらりとセイレーン皇国にあるフィアラセルの部屋に来たアドラオテルは、ベッドに蹲りながら本を読むフィアラセルに声をかけた。
「…………俺以外の為じゃなかったのはよかったけど、俺の為でもないって、脈ナシだとおもう?」
「またレイチェル?」
「あーあーあーあー、お兄様はショックだよ~」
「…………」
ゴロゴロと人のベッドに転がる兄を見た弟は「面倒くさい兄だな」と思ったのだった。
◇
おまけ - サシャ & レイチェル
「大おばあちゃん………ダイエットって何やればいいと思う?」
「あらまあ三日坊主のお姫様になっちゃったのね」
「私はノミ蟲です………」
ジメジメと落ち込む曾孫に、大おばあちゃんは「あ」と声を漏らして続けた。
「歌って、踊れば?運動じゃない。踊りも歌もチェルなら永遠と出来るでしょ?」
「……それ、痩せる?」
「カラオケダイエットってあるわよ?」
「踊る!歌う!」
そう言ってガッツポーズをする曾孫を見て、「アドラオテルくんに教えちゃれ」とシメシメわらった大おばあちゃんだった。




