君を想う #01
____お母さんが、死んだ。
お経を聞きながら、ぼんやりとそう思う。涙は出ない。お父さんも私も、今日は目を隠してない。
3ヶ月しか生きられないと言われたけど、1年生きてくれて嬉しかったと思うべきか、1年しか生きてくれなかったって怒るべきかもわからなくて、……何もわからなくて…………寂しい顔をしているお父さんにも何も言えなくて。
……ユーリくんに、会いたいな、って思った。
* * *
「……………」
ユーリはちくちく、誰もいない教室でハンドメイドをしていた。でも、いつもしないミスをするし、手も止まるしで、集中出来ずに居た。
ちらり、と花瓶を見るけど、花瓶には花が挿さっていない。……寂しい花瓶。
ツムギちゃんのお母さんが死んじゃって、お葬式をしないといけないからお休みだと先生が言っていた。でも、この時間に来てしまう。もう2年もこの時間に来てたから、癖になっていた。
__ツムギちゃん、大丈夫かな?
大丈夫なわけがない。ユーリは思い直す。自分の母親が死んだら、と思うと涙が出てくる。この気持ちを今、ツムギちゃんが感じていると考えると落ち着かない。
…………手を動かそう。
ユーリは再び手を動かした。そして、友達が来るまで何十回もミスをして手を傷だらけにしたのだった。
* * *
「………ごちそうさまでした」
「………」
「………」
「………」
ユーリはことり、とフォークを置いて立ち上がった。食器を下げながら大きな溜め息をついている。………最近、ユーリの様子が変だ。
いつも明るくて、天真爛漫なユーリの口数が減り、大好きなハンドメイドもやらず、バイトにも出ない。
………ここらで1度、話を聞くべきかもしれないな。
「わり、ご飯後で食べる。チェルはルークと一緒にいてあげて」
「はい。……ユーリをお願いします」
俺はそれだけ言ってリビングを出た。
* * *
ユーリが8歳になった時、イチカに頼んで部屋をひとつ貰った。別荘と言うだけあって部屋は腐るほどあり、ユーリの自立の為に部屋を与えたのだ。
ユーリは甘えっ子だけど、変な所真面目で、部屋を貰ったらすぐに部屋で眠るようになった。……とは言っても、眠るだけで生活はリビングで送ることが多いんだが。
それはともかく、俺はその部屋に着いてからノックをする。中からどうぞ、という声がして、俺は扉を開けた。
部屋はシンプル……というか必要最低限のものしか置いていない。かろうじて今作っている縫い物の材料があるだけだ。ユーリはそれを机に投げ出して、ベッドの上で体育座りをしていた。
「なあ、ユーリ」
「何?」
「……なんか、あったのか?」
「…………」
「えっ!?」
尋ねると、ユーリがポロポロと大粒の涙を流した。突然の事で慌てていると、ぽつりぽつりと言葉が零れた。
ツムギちゃんのお母さんが死んじゃったこと、ツムギちゃんが学校に来ないこと、母さんが死んだらって考えたら苦しいこと、ツムギちゃんもこの気持ちだと思うと泣いちゃうこと、……ユーリは泣きながらも全部話してくれた。
* * *
「…………そっか」
俺が全部話すと、近くに来てくれた父さんは天井を見上げた。誰にも言えなくて、でも、誰かに聞いて欲しかった言葉を全部言えて、少しだけ心が軽くなった。……少しだけだけど。
「ユーリ、ユーリはどうしたい?」
「俺、……どうしたい?」
「俺が聞いてるんだけどなぁ……。ユーリは、ツムギちゃんにどうしてあげたい?」
「………傍に居てあげたい。お母さんが死んじゃって悲しいツムギちゃんに、会いたい………」
「ん、それでいいんだよ」
お父さんはそう言って俺を抱き締めた。




