死の宣告 #02
不意に声を掛けられてびくりと肩を跳ねさせた。見ると、ごまプリン頭の美人なお姉さんが立っていて。お母さんは知り合いなのかぱあ、と笑った。
「イチカさん!お久しぶりです!」
「おひさしぶり~、懐かしい顔を見つけちゃって来ちゃった。
あら、旦那さんとお子さん?」
「ええ。今日は飲み納めをしようと思いまして……」
「飲み納め?年越しには早いんじゃないの?」
「えっと、………私、余命宣告されちゃって。
もう3ヶ月も生きられないんです」
「………っ」
明るいお母さんの声に、私は下唇を噛んだ。父さんも顔を逸らして頬杖をついている。イチカ、と呼ばれた女性は目を細めて小さく頷いた。
「………そっか。寂しくなるわね。
なら、今日はサービスするわ。好きなものを頼んでちょうだい。お代は私が持つわ」
「え、そんなの悪いです。ちゃんと払いますよ」
「いーから。私の奢りよ!あとね、軽食は私の曾孫が作ってるから美味しいわよ~」
「ええっ!?そうなんですか!?あの子ですよね?あんなに小さいのに?」
「そうそう。味も旦那のお墨付きよ。美味しいから食べてって。
じゃ、注文を聞くわね~」
女の人はメモを片手に聞いてきた。
お母さんはブレンドコーヒーとパウンドケーキ。
お父さんはココアとチーズケーキとチョコパフェとパンケーキ。
私はお母さんの真似をしてブレンドコーヒーとチョコレートケーキを頼んだ。
注文を終えると、黙っていたお父さんがぴん、とナプキン入れを弾きながら言った。
「………いい雰囲気の店だね。静かで、落ち着くよ」
「でしょう?有名なんだけど、立地の関係であまり来れないのよ。……コルーンに初めて来た時、アンタは仕事ばっかりだったから。ここで愚痴を聞いてもらってたのよ」
「へーへー、わるうござんした」
「ふふっ」
いつもの掛け合いをしていると、ユーリくんがお盆を持って現れた。
「コーヒーとココアですっ!ココアはツムギちゃん?」
「違うよー、ぼ、く!」
「あっ、ごめんなさいっ!ココアとコーヒーですっ!熱いので気をつけてくださいね」
「あら~可愛い店員さんだわぁ、ツムギとは友達なの?」
「はい、同じクラスで、いつも一緒です!」
「そうなんだぁ、彼女はいるの?」
「ちょっとお母さん!?」
「かのじょ………かのじょはいませんっ!」
「好きなタイプは?うちのツムギなんかは「お母さんもういいから!」
「???えっと、今からケーキを持ってきますので、ちょっと待っててくださいねっ」
ユーリくんはそう言って奥に行ってしまった。それを見送ると、お母さんが口を尖らせた。
「ちょっとツムギ。好きならちゃんとアプローチしなきゃいけないわよ?ユーリくんは可愛いんだからお姉さんに好かれると思うのよね~」
「ツムギっ、やっぱりそうなのかっ!?」
「ち、違うって!友達なのっ!」
「でも、好きでしょ?顔、赤くなってた」
「ぅ………」
思わず顔に熱を集めてしまう。
下を向くと、ぽたり、という音がして隣を見た。隣でお母さんがコーヒーを飲みながら泣いていた。
「………お母さん?」
「……美味しくて、涙が出ちゃった。ツムギの結婚式、参加したかったわ……」
「………お母さん………」
「ふふっ、ごめんね、……飲みましょう」
そう言われてお母さんと一緒に飲んだコーヒーは、すごく苦くて、……悲しかった。




