雨季と皇子の憂鬱
「____はあ」
アドラオテルはぼんやり、窓から空を見上げる。しとしと、と音を立てて落ちていく雨音が鼓膜を揺らして不愉快だ。
「………アドラオテル様、今のため息で100回目です」
「数えるなよ、変態」
「ありがとうございます」
「褒めてねえっつーの」
俺はふん、と鼻を鳴らす。
___つまらない。ぼんやりそう思う。
理由は………………。
そこまで考えたところで、ヨウちゃんがうんざりした声を出した。
「………いくらため息をしたって、レイチェル様は雨季中は帰ってこないぞ」
「………」
………こういうことだ。
レイチェルが実家に帰って1週間。実家は当然のように別次元だ。会える手段がないと言うだけでこんなにだるくなれるとは思ってなかった。
_____前はこんなこと無かったのに。
1人、そう思う。レイチェルと出会う前の俺はこんな気持ちを感じたことは無かった。いつも楽しいことがすぐに見つかって、すぐそれに熱中して。
けど。
レイチェルと出会って、レイチェルと婚約をしてから変わった。レイチェルがいる日常がいつも『楽しい』だった。フィアとか父ちゃんが話すと『むかつく』になるけど、俺と話してくれるだけでその気持ちは無くなった。
____この気持ちはなんだというんだ?
『好き』はありえない。俺が好きなのはコトのはずだ。小さい頃からセラフィールの侍女のコトが好きだった。
…………だった?なんで過去形?今も好きだろ。いつも胸が高鳴って…………あれ?
コトを頭に思い浮かべようとするも、すぐに黒髪、青い瞳のレイチェルの顔になる。困った顔や真っ赤になった顔、たまーーーに見せる笑顔。そればっかりになる。
…………待て待て待て。確かに、レイチェルとの婚約は嫌じゃなかった。嫌じゃなかったけど………別段嬉しいとは………。
ちらり、と指を見る。薬指には金色の指輪が嵌められている。………俺とレイチェルだけの、おそろい………って!俺は父ちゃんじゃないってば!なんだこの気持ち!?
「あぁぁぁぁぁ!!!!」
「アドラオテル!?どうしたんだ!?」
「ステイ!来んな!俺の顔を見るな!」
熱い顔を隠すために顔を腕で隠す。
俺がレイチェルを好き………?いや、なんでだよ!俺はコトが好き!好きなはず、好き………なんだよな?俺は浮気者なんかじゃないぞ!
………でも…………最近レイチェルのことばっかり考えているよな………。
「アドラオテル様?どこに行かれるのですか?」
俺は顔を隠しながら立ち上がって歩き出す。後ろからヨウちゃんが着いてくるけどそんなのどうでもいい。
俺は部屋を出て、ある場所に向かった。
* * *
「ふう……………」
皇配専用衣装部屋に、セオドアはいた。伝う額の汗を腕で拭いながら紅茶で一息をいれる。 ………皇配の仕事と衣装の仕事、何年もやってるけど慣れないな………まあ、どちらも苦ではないけど、そろそろ落ち着きたいところだ。俺ももう36歳だし。働き盛りとはいえ、自分でも仕事を抱えすぎてる気がする。
でも、これも国民の為、そして俺の為だ。頑張って___「父ちゃん!」……?
そんなことを思っていると、バァン、と扉が開け放たれて。その先にはアドラオテルが居た。




