面接の気分
______私はこれでも、ちゃんとした一般人だ。
次元では私達一族を『英雄の一族』と呼ぶけれど、それは類まれなる個性、能力を持っていたり、頭がすこぶるよかったり、義賊紛いなことをしていたりと幅広く活動していると言うだけで、何処かのお姫様だったり、令嬢だったりする訳じゃない。それどころか自由を売りにしているような一族だからこそ、自分のことは自分で、という習慣が身についている。
………だから…………。
「ドレスはこちらですね」
「髪飾りはこちらですね」
「まずはお化粧をしちゃいましょう」
「コルセットをします、ちゃんと立ってくださいませ」
「………ひぅ………」
____こんな着せ替え人形状態、慣れてません。
私は背筋を伸ばしながら考える。
…………学校に行かなくなったから長く寝れるかな?なんて思っていた私の考えは完璧に間違っていた。寧ろ学校に行くよりも1時間早い6時に起きて、身支度を整えているのだ。しかも、ドレス。
ドレスだよ?お姫様が着るようなドレスが目の前に山積してる。ドレスだけじゃない。靴も化粧品も髪飾りも………私に構わないで!と叫びたくなる。
だがしかし、許されるわけがないのである。なぜなら私は形だけでもアドラオテル様の婚約者。花嫁修業をすることになった婚約者。短い期間とはいえ慣れなければならない。うう、荷が重い………。
「レイチェル様、背筋を伸ばしてください」
「は、はい!」
「侍女に謙るのはおやめください。わかったわ、でいいのです」
「は、………わ、わかったわ」
茶髪のお団子、黒瞳のエンダーという侍女にそう言われ、言葉を治す。なんでも、言葉遣いは普段から侍女に教わるそうだ。スパルタだね…………。
そんなことを思っている私に追い打ちをかけるようにエンダーは口を動かす。
「支度は整いました。では、これから食堂にご案内します」
「………食堂?」
「ええ。皇族専用食堂でございます。…………アミィール皇帝様から"食事を共にしましょう"と言伝を頂いております」
「………………」
…………早速死亡フラグだ…………。
私は「化粧が落ちます」と言われ、泣くことも許されなかったのだった。
* * *
皇族専用食堂はとても豪華だった。
赤と金色の部屋、大きく長い机………流石お城…………。それだけではなく、同い年くらいの天使みたいな女の子、少し小さい美人さんもいる。
「お、レイチェル、おはよう」
「お、おはようございます、アドラオテル様………」
「ドレス、いいじゃん」
アドラオテル様はそう言ってに、と笑う。私は照れてしまって下を向く。あ、とかう、とか言葉じゃない吃り声しか出せない。
座るタイミングも見失ってしまった私に、イケメンがにこやかに言った。
「どうぞ、お座り下さい」
「………はい………」
私は言われるがまま、座る。
物凄く面接感がある。面接したことないけど、きっとこんな感じだろう。
「…………えっと、挨拶がまだだったね。
私はセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスと言います。宜しくね」
そう言ってやっぱり爽やかに笑うセオドア様。アドラオテル様と顔はあまり似てないけど、爽やかな笑顔はアドラオテル様を彷彿させた。というか若い。下手すれば20代にも見える美しすぎる。
「………わたくしはアミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスですわ」
続けて挨拶したのはアミィール皇帝様。アドラオテル様に顔が似てる。でもやっぱり美人で、この2人が自分の母親たちと同じくらいの年齢だと思えない。
綺麗な所作でお辞儀したから、私も釣られて頭を下げる。それと同じくして「2人も挨拶なさい」という声が聞こえた。




