閑話 ドギヘルス軍の進退
~ドギヘルス軍前線本部基地~
コンコン…
「入れ。」
司令長官が入室を許可すると副官が書類を持って入って来る。
「用件は何だ?」
不機嫌に問う長官に副官が答える。
「開発部からの報告です。
新型の1号機が組上がったと…。」
「おお!
そうか!」
途端に機嫌の良くなる長官。
不機嫌の理由は新型の開発に時間がかかったかららしい。
「早速開発部に説明させる。
ついて来い。」
副官を連れて行くのは説明を要約させる為だ。
長官曰く、「開発部の連中は余計な言葉が多い」らしい。
(理解力が無いだけだろう…。)
副官はそう思っている。
………。
…。
バァンッ
「博士、新型の説明をしろ!
速く来い!」
開発部の扉を開け放ち、大声で言う長官。
(そんな大きな声を出さなくても聞こえます。)
「そんな大声出さんでも聞こえるわい…。」
開発部の責任者がやって来る。
副官と同じ事を思ったようだ。
この雄は妖狸族であり、通称「博士」と呼ばれる。
この雄はまともな兵器を開発しない。
所謂、狂った科学者というやつだ。
副官は苦手としている。
「今回開発したのはこれじゃ。」
機体データを投影するドクター。
投影されたデータには一見普通の戦闘機が。
「これの何処が新型だ!」
長官が怒鳴る。
「実験スペックを見てみぃ。
小型高速挺のエンジンを2基搭載。
速度は従来機の倍、火力、装甲は据え置き。
チョイとでかくはなったがな。」
「おお!」
「なっ…!」
驚く長官と副官。
「素晴らしいではないか!
これで奴らを蹂躙出来る!」
長官は単純に圧倒的な性能に。
(従来機でもパイロットへの負担が大きいのに…!)
副官はその性能の狂い様に。
確かに、ケートス隊の機体も従来機より5割増しの速度スペックを持つが、それゆえコックピットは対G構造をしており、従来機とは違ったシルエットをしている。
たいして、このドギヘルスの新型は一見従来機と変わらないシルエットで倍の速度。
パイロットの負担を無視した機体になっているのだ。
「早速生産にかかれ!
取り敢えず一個中隊分、早急にな。
貴様は兵共に通達を出せ。
『新型を駆り、敵を打倒する英雄求む!』とな。」
愚者と狂人、合わせて仕舞えばこうなる。
敵味方関わらず被害を出してしまう。
しかし悲しいかな。
副官は指示通りにするしかなかった。
(そして愚者に従う私も、それ以上の愚者なのだ
ろう…。)
~惑星ドギヘルス 首都高級住宅地~
ポチポチポチポチ…タン
「今週の定期報告はこれでいいかしら…?」
大きな耳にふわふわの太い尾をした雌が、端末に書き出された文章に目を通す。
コンコン…コンコン…
「お嬢様、今宜しいでしょうか?」
若い雄の声。
『ピッ…』
「ええ、入って。」
端末の電源を切り、入室の許可を出す雌。
入って来たのは引き締まった身体を黒いスーツに包んだ背の高い雄。
「お嬢様」との発言から付き人なのだろう。
「失礼します。
お父上様がお呼びです。
執務室にいらっしゃいます。」
「そう…。
今行くわ。」
………。
…。
「お父様、お呼びと伺いました。」
執務室内には雌の父親と、その補佐官が居た。
「良く来た。
早速だが、仕事だ。」
端的に告げる雄はドギヘルスの軍務卿。
ドギヘルス上層部と軍上層部をつなぐ上級文官だ。
「内容は?」
「詳細はそれに書いてある。」
スッ…
補佐官の雄に書類を渡される。
書類を受け取り軽く礼をする。
「…承りました。
失礼します。」
退室し、扉が閉まる直前、雌の耳に父親と補佐官の会話が聞こえた。
「しかし、獣にあの仕事が務まりますか?」
「ああ。
あれは中身は有能だ。
獣であることが非常に残念だ。」
パタン…
「獣」。
そう呼ばれた通り、その雌の容姿は一般的とは言えず、差別の対象となるものだった。
成体の雌の平均を大きく下回る小柄な身体。
少し鋭い犬歯に手足の爪。
薄い茶褐色の豊かな毛皮。
その姿は正に二足歩行の狐だろう。
彼女は先祖返りしていた。
(聞こえることがわかっているくせに…。)
先祖返りにより、容姿だけでなく、五感も鋭くなっている。
わざと聞かせているとしか思えない。
(…。
私は私の仕事をこなすだけよ…。)
やりきれない思いを抱え、しかし諦め書類を読む。
書類には、
・軍の任務の発令件数
・任務の成否
・任務失敗件数が増加傾向にあること
・原因を情報漏洩に断定したこと
・人物リスト
・情報精査の仕事の期限等の詳細
が書かれていた。
(任務件数がそれ以上に多いことに気がつかないの
かしら…?)
失敗件数の割合としては寧ろ、過去のデータより低いことを読みれるようだ。
「お嬢様、何か手伝える事は?」
付き人の雄が聞く。
「要らないわ。
この仕事は怪しい行動を抜き出すだけだもの。
そこから確定させるのは捜査隊の仕事よ。」
そう言うと先程とは別の、ドギヘルス軍の仕事用端末の電源を入れた。
(キャトラスの諜報部の方が優秀ね…。)
先祖返りの妖狐族のその雌は内心でそう呟くと仕事に取り掛かった。
狐も~狸も~♪
犬科の動物です
いつも読んでいただきありがとうございます




