16 雨降って
無事に退院してから、第四宙域方面に向かうシャトルが出るまでの約二週間。
ピコは士官学校に入学して以来、帰っていなかった実家に顔を出し、母さんたちに無事を報告したり、義務教育時代の友達と会ったりと、有意義な休暇を過ごした。
そして今日。
ピコは、めかし込んだ格好をして、キャトラス中央都市のシンボル、通称「キャットタワー」前広場の噴水の周りにあるベンチに座っていた。
待ち合わせである。
「ピコちゃん!
お待たせにゃ。
待ったにゃ?」
待ち合わせ時間から10分。
ピコがここに来て、30分後。
待ち合わせ相手がやって来た。
「………。」
「ピコちゃん?」
「あ、いや。
今、来たとこにゃ。」
何処ぞのお嬢様と見紛う格好のミーコに、もう一度呼ばれ、そう答える。
待ち合わせ先着者の言う台詞No.1だ。(独自調べ)
「なら、私が遅れなかったら、遅刻にゃ?」
そんなことはない!
「そんなことないにゃ!」
「ふふっ♪
分かってるにゃ。
私の方が遅れてごめんにゃ?」
上目遣いをするミーコ。
「大丈夫にゃ。
気にしないにゃ。」
「…。
それじゃ♪
そろそろ行くにゃ♪」
自然と手を繋ぎ、歩き出す。
お詫びデートの始まりだ。
「ところで、実際はいつ来てたにゃ?」
「…時間の20分前にゃ。」
「♪」
………………………………………。
………………………。
……………。
日も暮れ、あたりは暗くなり、空に星が瞬く。
「あ~。
お腹いっぱいにゃ…。
美味しかったにゃ♪」
連れて行った、美味しいと評判のビュッフェはミーコにご満足していただいたようだ。
食休めに、二人隣あってベンチに座る。
「………。」
「………。
…そういえば、ピコちゃんはいつのシャトルに
乗るにゃ?」
暫しの無言の後、ミーコが訊ねる。
「3日後にゃ。
…そしたら、ミーコたちとは別々にゃ。
お互い、頑張ろうにゃ。」
「………。」
ミーコは応えない。
「…ちょっとそこに立ってにゃ。」
自身の前を示すミーコ。
疑問をいだきながら、指示に従う。
スッ…
ミーコも立ち上がり、向かい合う形になる。
スパンッ!
「痛いにゃ!
何でビンタするにゃ!?」
スパンッ!
もう一度無言で叩かれる。
「~~~っ!
二度もぶつにゃ!?」
ギュッ…ギリギリ…
「ちょっ!
…苦しいにゃ!
放してにゃ!」
今度は力一杯抱きついてくる。
ギリィ…
徐々に締め付けが強くなる。
「ほんとに!
ギブ、ギブにゃ!」
「ピコちゃんの馬鹿っ!
ちょっと黙っててにゃ!」
締め付けが弱くなる。
「ピコちゃんは嘘をついたにゃ!
危なく無いようにするって!
なのに、次会った時には死にそうで…っ!」
感情のままに話すミーコ。
「3ヶ月も目を覚まさないでっ…!
本当に、本っ当に心配してっ…!」
自覚はある。
「なのに、ピコちゃんは…グスッ…
なんとも、思って無い、みたいに………
また、危ない所に行っちゃって…」
段々、嗚咽が混ざる。
「だから私はっ…!
決めたんだにゃ!」
話の流れが変わる。
「ピコちゃんが、危ない所に行って。
無茶をして、怪我をするなら!
私もついていって、絶対に治すって!
ピコちゃんは死なせないって!」
その決意を聞き、胸にあついものが込み上げる。
「なのにっ!
『別々』!?
「お互いに頑張ろう」!?
ふざけるんじゃないにゃっ!」
ミーコの怒りがようやく、理解できた。
「…ごめんにゃ…。
わたしが無神経過ぎたにゃ…。
本当に、グズッ…ごめんにゃ…。」
なぜか、涙が出てくる。
「…ピコちゃん…。」
まわされた腕に再び力が入るが、今度は優しさを感じた。
ピコもミーコの身体に腕をまわし、それから二人でしばらく泣き続けた。
………………………………。
………………………。
………………。
………。
…。
「…すっかり遅くなっちゃったにゃ…。」
時刻は既に深夜を回る。
「今から泊まれるとこあるかにゃ…?」
チェックインの時間は、もちろん、とうに過ぎている。
開いているホテルを探し、二人で歩く。
………。
…。
「あっ!
あそこ開いてるにゃ!」
開いてるホテルが見つかった。
足早に近づく。
「「…………。」」
「…ねぇ。
ピコちゃんここ…。」
「別のホテル探すにゃ!」
開いていたホテルには、少し問題があり、そう提案する。
「ここにするにゃ…。
泊まるだけなら気にしなければ同じにゃ。」
泊まるだけなら。
「…そうだにゃ…。」
~翌朝~
目が覚め、起き上がる。
隣にはミーコがまだ寝ている。
昨夜のことが思い浮かぶ。
モソッ…
ミーコも起きたようだ。
「…おはようにゃ、ピコちゃん。」
「ミーコもおはようにゃ。」
挨拶を交わす。
「「………………………///」」
無言で見つめ合う。
「!
ピコちゃん、ちょっと待ってにゃ。」
~3日後 シャトル発着場~
「忘れ物はないにゃ?」
ミーコが聞く。
「バッチリにゃ!」
そう答える。
「じゃあ、行くにゃ♪」
二人でシャトルに乗り込む。
「次の任地はどんなところかにゃ?」
ミーコに予想を聞く。
「わかんないにゃ。
でも、私たちならどんなところでも、にゃ♪」
身も蓋もない事を言うミーコ。
「まっ、そうだにゃ♪」
「にゃははは♪」
「にゃふふふ♪」
『乗客の皆様にお知らせします。
当シャトルは、間もなく、発射致します。
シートベルトを着用し、加速にご注意下さい。
繰り返しお知らせします。
…………………………………………………………………………。
……………………………………………………………………………………。』
やりやがったな!ミーコ!
「「さん」を付けるにゃ。うじ虫野郎。」
いつも読んでいただき
「まぁ、付けても」
ありが
「うじ虫にゃ…。」