拠点の外へ
午前中は九人で昨日に引き続き練習を行い、自分は拠点の外を一周した。勿論、身の危険を感じたらすぐに拠点内に戻ると約束してだ。
拠点の外を一周し、魔法で遠くを探索するが、ゲームとの違いは無い。これなら、ゲーム時代にお世話になった鉱脈とかもあるかな?
拠点に戻り、全員の練習の進み具合を尋ねて見よう。
そう思い拠点に戻った。
一体誰がどんなアドバイスをしたのか。
拠点内では昨日習熟具合いが良くなかった四人が以前ゲーム内で渡して武器を手に訓練を続けていた。右手に得意とする武器を持ち、左手でペンを浮かせる。何と言えないシュールな光景だ。
自分は呆れつつ、近づきながら手を叩いて皆の気を引いた。
拠点を一周して判った事を報告し、訓練状況がそれなりに良いようだったら、午後に今後の活動に必要な資源確保を行いたいと提案する。
全員が頭に疑問符を浮かべた。
行きたい理由として、武器の修繕と予備の武器製作、今度必要な道具の作製などを挙げたら、幾人かは納得してくれた。理由を挙げても分からない人には『無人島生活』で例えると納得してくれた。
何が悲しくて、『無人島生活で食料となる果物か木の実が生っている木を探し、それが実際に食べられるものか、定期的に収穫に向かっても大丈夫なのかを調べに行くようなものだ』と、理解しやすそうな例えを口にしているのか。
先行きが不安になる。でも、頼れる奴はいない。ベネディクトは既に頼れる奴では無く、トラブルメーカーと化している。
ゲーム以外ではそこそこに頼れる男だったので、落胆が隠せない。
不安を押し殺して、皆の訓練の習熟度を尋ねると、想像以上に進んでいた。実際の戦闘になると、武器を持ったままでいるから緊張感も手伝って一気に進んだのかもしれない。
吉報だが、不安が残ってしまう。
これからの予定について全員で話し合う。ベネディクトの主張が強めだけど、根拠と安全性を理由に却下したり、しつこいぐらいに質問を重ねた。
……やっぱり、ベネディクトはどこからか指示を受けている。その指示内容は今回の調査に関わるものでは無い可能性が高い。お偉いさんはこんな時にまで何を考えているんだか。
昨日の時点で判明している事だが、ベネディクトは魔法を苦手としている。
前回一人で上陸した時、本当に、良く無事だったな。
ゲーム内でパーティを組んでダンジョンアタックをした時のベネディクトは『蘇生方法が存在する? でしたらブラックゾーンのギリギリを狙っても良いんですね?』と、目を輝かせて言ったのだ。
その時、自分は『こいつ結構ヤバいんじゃね?』と思った。
ノッポな女顔の野郎が言う台詞じゃねぇ。
しかも、ギリギリの狙い方がこれまたヤバかった。ギリギリでは無く、常に『微妙にアウト』を狙うので、胃が痛くなった。
ベネディクトはゲーム内で何度も『死亡』を経験した。ゲーム内で何度も死んだのに、何度注意してもベネディクトは懲りずに無謀な行動を取り続けた。
問:こんな奴を外に連れて行ったらどうなると思う?
答:勝手な行動を取る。
全員で話し合い、『一度、直接見た方が今後の為になる』と結論が出た。
全員に装備を配り、使い方を説明した。
装備の中にはゲーム内で作った『緊急帰還用転移装置』もある。
これはダンジョンアタック中に、『ベネディクトが好き勝手やって瀕死になった』際に一度ダンジョンの外にまで連れて行き、治療する為に作ったものだ。
見た目は無色透明のビー玉にしか見えないが、起動させると『この拠点にまで一瞬で帰還出来る』便利アイテムだ。欠点は使い捨てである事と、転移先の道標となる別のアイテムが必要である事か。
ゲーム内のベネディクトは、何度言い聞かせても無謀な行動を取り続けた。
今になって振り返ると、クエストのフルコンプリートは良く出来たな。何度ダンジョンアタックをやり直し、ソロアタックを何度も検討した。今になってダンジョンボスの弱点類を考えると、魔法のごり押しでどうにかダンジョン踏破が出来たかもしれない。
装備が行き渡り、前衛向きの転職を持つ幾人かは、ハーフプレートに相当する鎧を装着した。皆で注意事項の確認を行う。
そんな中で困惑に満ちたその声が響いた。声の主はベネディクトだ。
「あの、これは何ですか?」
「猫の首に鈴。問題児に手綱」
「そうでは無く」
「首輪とリードが良かった?」
「……モウイイデス」
端的に回答を続けると、ベネディクトは肩を落として諦めた。その様子を見た皆の冷めた視線がベネディクトに突き刺さる。本人は気にしていないだろう。
まぁ、ベネディクトの困惑は理解出来る。
一人だけ腰に縄が巻き付けられているのだ。犬の首輪から伸びるリードを握るように、ベネディクトの腰に巻き付けられた縄の先を持っているのはペドロだ。
無断行動が最も多く、これからも無断行動を取りかねないベネディクトを野放しにするのは危険だと、皆の認識が一致した結果がこれだ。
どれだけベネディクトが不満の声を上げようが、不安要素は可能な限り減らそうと、皆で話し合った多数決の結果である。
こうして拠点の外に出て、ゲーム時代にお世話になった鉱脈へ向かた。
既に立派なダンジョンと化している事も知らずに、気まぐれに近い確認で出向いた結果、避けられない重い現実を身をもって体験する事になった。
広い草原の中を一塊になって歩く。
先頭をアルゴスとギィードが歩き、最後尾をクラウスが付く。そして、中央に残りの七人がいる。
自分は道案内を兼ねて、アルゴスとギィードの間にいた。一歩程度の間を空けているが、ガタイの良い二人の間に挟まれているので、己の身長がいかに低いのかを知る事になる。
しかも、左腕は微妙に怯えているロンに掴まれている。
何て言うか、ロンの身長もそこそこに高いから、肉壁に囲まれているみたいだな。
草原で魔物と遭遇する事無く、鉱脈の入り口に辿り着いた。
内部がゲーム時代と同じであるかは不明だ。入る前に、全員に改めて知らせる。
「これから入るけど、無謀な行動は取らないでね。蘇生魔法は難しくて、燃費がすこぶる悪い。現状では二人までが蘇生させる事が出来る限界だ。最悪な状況に陥ったら、『蘇生させる人間を選ぶ』事になる。これだけは忘れないでね。特に、ベネディクト」
「……一々名指ししないで下さい」
「嫌なら、名指しされないように行動してね」
蘇生魔法について改めて教えて、顔を引き攣らせているベネディクトを無視して、内部へ足を踏み入れた。