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自分は何処にでもいる凡人です  作者: 天原 重音


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上陸初日

 空中ディスプレイにあった拠点に移動はしたが、拠点は十棟と集会場の計十一棟で構成されていた。

 集会場へ続くドアを開けると、そこにはゲームと同じ建物が十棟も存在した。

 全員で集会場に近づき、周辺を調べる。勿論、ゲーム内で各々に割り振られていた建物も調査する。

「全部、記憶のものと同じでしたね」

 何時かのように、集会場のテーブルを取り囲むように皆で席に着き報告し合った。

 全ての建物はゲームと同じで、拠点には自分が作り皆に配った装備品も残っていた。持って来ていた食材は、既に備え付けの家電の一つに冷凍冷蔵庫を見つけたので、皆には内緒でそこに仕舞った。

 ここまで来ると別の意味で不気味だ。皆困惑している。

 一先ず、ベネディクトが音頭を取り、少し早い昼食(ベネディクトが事前に受け取っていた全員分の携帯食)を取りながら、情報を開示し合い、今後の予定について話し合いを行う。

「拠点周辺の調査、使用する武器と魔法の訓練、可能ならば遠出して調査……他に何かありますか?」

 ベネディクトが道具入れを使って持ち込んだホワイトボードにやる事を書き出す。

「他に何かって言うよりも、優先事項と役割分担を決めた方が良いのではないでしょうか?」

「優先事項と役割分担ですか?」

 マルタが挙手してから発言し、ベネディクトが首を傾げる。

「武器と魔法の訓練が必要な人と、拠点周辺の調査組に別れるの? 遠出の調査は全員で移動しないと危ないだろうから、最後で良いと思うけど」

 自分はマルタの意見にフォローを入れつつ、遠出調査は最後と意見を出した。

「訓練は必要だし、周辺の調査は必要だけど、同時に行う必要ってあるの?」

「拠点内のどこで訓練するの? そんなスペースは無いよ」

 ミレーユの質問に回答しつつ、言外に『訓練は拠点の外でしか行えない』と断言する。

 個々の一棟が大きいから判り難いが、ここはそこまで広くは無い。個々の拠点の庭は手狭で、素振りは可能だが、模擬戦を行うような広さは無い。当然、魔法の練習をするには色々な意味で狭くて危ない。自分も拠点の外か、空に向かって魔法を使っていた。

「それなら、『訓練を行いつつ、拠点の周辺を調査する』で良いんじゃないか? 勿論、武器の扱いに慣れてからが前提だけど」

「それしかないんじゃない? ゲーム内で武器も魔法も使わなかったし」

「確かに、ロンの言う通りだな」 

 ギィードが提案し、ロンが肯定すると、ルシアを始めとした面々が『確かに』と同意する。

 魔法が使えて、戦闘まで経験しているのは、この十人の中だと自分とベネディクトだけだ。

 対して、残りの八人は戦闘経験はおろか、魔法すら十分に使えない。

 十人で話し合い、今日の午後と明日は訓練に宛て、明後日から周辺の調査を少しずつ行う事になった。

 多数決を取って決めたが、ベネディクトは最後まで『訓練は今日だけで良い』と主張していた。

「戦闘に関して教えられるのが、あたしとアンタしかいないのよ。万全を期すなら明日もやるべきだし、戦闘時の役割分担とかも事前に決めておかないと困るのは全員なの。事前の打ち合わせ無しでダンジョンに挑んで、何度も死に掛けたのを忘れたの!?」

 自分がテストプレイ中の事を引き合いに出して、ベネディクトに渋々認めさせた。

 テストプレイ期間中のベネディクトの行動は正に『トラブルメーカー』としか言いようが無かった。やるなと何度注意してもやりたがったし、挙句の果てに何度死に掛けても危険行動ばかり取った。

 自分だけを当てにされては困ると主張し、どうにか諦めさせた。

 ベネディクトも思い当たる節しか無いのか、バツの悪そうな顔をして諦めてくれた。こいつは頼れるようで、問題行動を平然と取るから本当に苦労した。

 諦めさせたが、ベネディクトの事だから深夜に一人で勝手な行動を取る可能性もある。念入りに釘を刺し、昼食兼話し合いは終わった。



 午後は自分以外の『全員』に魔力の扱い方を重点的に教え、軽いペンを長時間同じ高さで浮かせる訓練を行った。『自分以外の全員』と現したのは、ベネディクトの魔力制御が非常に下手だったからだ。

 クエストでダンジョン攻略をした時は、自分がベネディクトにも支援魔法を掛けていた。ベネディクトが生身での戦闘経験(銃撃戦)保持者だった事もあり、辛うじてクエストが達成出来た。

 だが、今回は自分一人で全ての支援を行う訳には行かない。

 口を開けば文句が出て来るベネディクトにも練習させた。『効率を求めるのなら、他人を当てにするな』とキレた事が影響を与えたのか、ベネディクトは顔を引き攣らせて練習参加を了承した。

 魔力の扱いの覚えが早かったミレーユ、ギィードとクラウスの三人には、今後、最も必要となりそうな『身体運動能力を強化する魔法』を教えた。

 自分が三人に魔法を掛けて、どんな魔法なのか体験して貰ってから教えた。

 三人に続いて、マルタとペドロも魔力の扱い方をものにしたので、二人にも同じように教える。

 五人の魔法の練習は、日が暮れる前にはある程度は形になった。

 残りの四人――ルシア、アルゴス、ロン、ベネディクトは、魔力は扱えるようにはなったけど、その制御は下手だった。特に下手だったのは、やっぱりと言うか、ベネディクトだった。

 ベネディクトには集中力が無いとか、そんな事は無い。集中力はあるし、持続時間も長い。本人が言うには、目に見えないものを感じて制御するのが苦手らしい。

 魔力と魔法の訓練で疲れ切ってしまったのか、皆は集会場のテーブルの上に伸びている。自分も疲れているが、皆に比べればマシな方だった。

「何て言うか、もっとゲームをやっておけば良かった……」

 ミレーユがぽつりと零した言葉を聞き、皆は頷いた。

「その場合、武器の調達と魔法の研究もやらないとだよ」

「残り半分の一ヶ月間の事を言ってんのよ。ほら、ククリが調べて色々と教えてくれたじゃない。少しは試せば良かったって言ってんのよ」

 悔いるようにミレーユは言ったが、自分の視線はベネディクトに向かってしまった。

 ミレーユよりも長くログインしているにも拘らず、ベネディクトには魔法に関した適性が低い。練習していない可能性も捨て切れないが、それを抜きにしても今日の出来は悪いの一言に尽きる。

「ククリ。言いたい事があるのなら好きに言って下さい」

 テーブルに伸びたままでベネディクトはそう言った。何となくだが、泣いているようにも見える。

 視線を虚空に彷徨わせて暫し考え、差し迫った問題について尋ねる。

「晩御飯はどうする? 昼と同じように携帯食で済ませる?」

「それで良くないですか? 他に言う事があるでしょう?」

「ここで止めを刺してもね。てか、全員分の携帯食を持っているのはベネディクトでしょ?」

「……そうでしたね」

 ベネディクトはむくりと起き上がるなり、道具入れから全員分の携帯食を取り出した。でも、ベネディクトは『テーブルの上に出した』だけだった。再びテーブルに突っ伏した。

 立ち上がってベネディクトに近づいて、出された携帯食の量が昼食時に見た量の何倍もある事に気づいた。全部を出したのか。

 個数を数えてから、未だに疲れから伸びている全員に携帯食を配った。

 


 数時間後。

 ちびちびと携帯食を食べて、皆で夕食を済ませたが、今度は別の問題が発生した。

 問題と言っても、就寝場所だ。

 集会場で雑魚寝するか。各々の拠点で眠るか。または数人ずつで固まって眠るかで意見が分かれた。皆疲れているせいか、誰一人として『見張り番を立てようと』言わなかった。

 一応この拠点には、魔物が近づき難くなる『魔除け』が施されている。魔除けが存在すると言う事で、大陸に生息する生物は魔物だと判明したが、今必要な情報ではない。

 見張り番が不要ならばと、集会場での雑魚寝は最初に却下された。提案者のベネディクトは肩を落としていた。

 次に各々の拠点で眠るか、数人ずつに分かれて眠るかで意見が分かれた。

 自身の案が悉く却下されて落ち込んでいるベネディクトを放置して話し合った結果。

 今日が上陸初日であり念の為に、女衆は四人、男衆は三人二組で眠る事になった。

 どこの拠点を使うかでまた話し合う事になるが、そこまで話し合う事では無くあっさりと決まった。

 女衆が使用する拠点は、自分の拠点だ。男衆に一声掛けてから、女衆四人で移動する。

「家の間取りは同じですね」

「他の家も同じだったの?」 

「そうだな。私のところとも間取りが一致する」

「迷わないから良いんじゃない」

 四人でわいわい喋りながら建物内を移動し、居間に当たる部屋のソファーに腰を下ろす。同時に、とある事を思い出した。

「あ、そう言えばここお風呂もあるんだよね」

「あー、ありましたね。シャワーだけでも浴びたいです」

「取水制限でシャワーは浴びれなかったもんね」

「先に使っても良いよ」

 空母内では人数が多いからか、シャワールームの使用は原則として禁止だった。普段は違うんだろうけど、流石にあの人数で使ったら水はすぐに無くなる。

 シャワーが浴びれる事を思い出したからか、一言言うとマルタとミレーユが立ち上がった。荷物からタオルと石鹸を取り出して、そのまま二人でお風呂場へ向かった。

 ルシアにも順番を尋ねたが、最後を希望した。シャワーを浴びて来た二人の次に自分が入った。

 交代でシャワーを浴び、自分と三人の魔法で髪を乾かしたら、今日はもう就寝だ。

「魔法の練習をもう少しやれば、髪とか乾かせるのね」

「炎と風の魔法を同時に使うようなものだけど、風で水分を飛ばせば行けるかな?」

「魔法の適性が光しかなかった私では無理か」

「……今度ドライヤーを作るよ」

 肩を落としたルシアにドライヤーを作ると宣言し、一人で使うには大きいベッドで身を寄せ合うようにして、四人で眠った。

 やっと一日が終わったが、本当の意味で忙しくなるのは明後日からだ。

 そう思っていたけど、トラブルメーカーに『無断で単独行動を取るな』と釘を刺し忘れた事が原因で、翌朝はてんやわんやの大騒ぎとなった。

 トラブルメーカーと言うのは、ベネディクトの事である。

 何かの指示を受けているのか知らないけど、朝っぱらから『一言言ってから行動しろ!』と皆でベネディクトを叱る羽目になった。


ここまでお読みいただきありがとうございました。連続投稿はここまでです。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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