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03 魔王に倣う




 デイモスはどこか面白そうにしながら話を続ける。


「――だが当時、ほぼ全ての国はルストガルド帝国を国として認めていなかった。何故なら彼らは、その血筋に正統性が無かったからだ。国主たる魔王は、どの国の王の血筋でもなく、単なる一人の亜人がある日魔王として目覚めただけの存在だった。だから、国として認められなかった」

「……それが、どうして今のように、一つの国として認識されるようになったんですか?」


 シクロが問うと、デイモスはニヤリと笑みを浮かべて答える。


「それは、魔王が『英雄』であり、圧倒的な『武力』だったからだよ。国でないはずの魔王率いる集団が、スキル選定教を国教に据えた国々と、互角以上の戦争を続けることになった。その主要因である魔王の存在を、新たな英雄の血筋であるとして国主の正統性があると認める国が出てきた。……いや、認めることで、争いを出来る限り避ける方向に動いた、と言った方がいいかな」


 それはつまり――圧倒的な『武力』さえあれば、国として諸外国に認められうる、という意味でもあった。


「以来、そうした英雄の血筋を正統性の理由に挙げる国は増えることになった。我が国ハインブルグの西に広がる都市国家群には、そういう国が非常に多い。……ちなみに、ハインブルグは未だにルストガルド帝国の魔王を暫定政権としてしか認めていない。単なる革命勢力扱いだね。帝国との戦争が続いているのも、それが一つの理由だよ」

「そ、そうだったんですか……?」


 ルストガルド帝国との戦争。その理由がさらりと、当たり前のように明かされ、シクロは面食らってしまう。

 だが、これは本題ではない、とでも言うかのように、デイモスはすぐに話題を戻してしまう。


「ともかく、ルストガルド帝国の存在が新たな国の在り方を示した。つまり圧倒的な武力、そして功績をもってして諸外国に認めてもらうことさえ出来れば、建国することも可能なんだよ。――例えば、SSSランク冒険者が、最悪のダンジョンとまで呼ばれたディープホールを攻略するようなことがあれば、間違いなく認めてくれる国は出てくるだろう」


 ようやくシクロは、デイモスの言いたいこと、そして目論見が理解できた。


「そういうこと、ですか。つまりボクに、魔王になれ、と」

「ははは。それは極端な言い方だけれどね。ノースフォリアの英雄となり、諸外国に君の血筋を皇族として認めて貰えれば、別に戦争をする必要までは無いさ」


 デイモスの言葉は――つまり、認められなければ、戦争も辞さない、という意味でもあった。


「つまり要約するとこうだ。シクロ君がディープホールを攻略してくれれば、我がノースフォリアは国として独立出来る。スキル選定教の横槍だって弾き放題。どんな文化も我々為政者側の意向次第。君と私の本願を達成する為の、最高の条件が整うというわけだよ」


 ようやく――何故、デイモスがこのような話をしたのかがはっきりとする。

 つまりデイモスは、シクロ達を明確に、自らの陣営に引き込もうと勧誘しているのだ。


 目的も同じで、利害も一致している。手段としても現状取りうる最高のものである。

 これはシクロを、改めて信用したからこそ出された提案なのだ。


「……前向きに検討はしたい、と思っています」


 シクロは悩みながらも、言葉を紡ぐ。


「ですが、いきなり皇族になれ、国を作れ、と言われれば……さすがに、即断するのは難しいですね」


 現状の本音を包み隠さず、デイモスへと伝えるシクロ。


「まあ、そうだろうね。さすがにそこまでは私も期待していないが」


 言いながら、デイモスは顎をさすり、何かを思い出すような仕草を見せる。


「――そうだね。もう一つ、せっかくなので伝えておこうか。これはさっき話した、歴史の話とも少し繋がるんだが」


 言うと、デイモスはシクロと、そしてミストにだけ視線を向ける。


「君たちは、どうやって自分のスキルの名前を知ったのかね?」


 デイモスに問われ、シクロとミストは互いに顔を見合わせる。

 そんなのは当たり前のことだ、と言わんばかりにシクロが答える。


「それは……スキル選定の儀の時に、司祭から教えてもらいました」

「そうだよ。だが、妙だと思わないかね?」


 デイモスは言うと、シクロを指差す。


「何故シクロ君は、自分のスキルが『時計使い』であると断言出来る?」


 次にデイモスは、ミストの方に指を向ける。


「そして君、ミスト君は、どうして『邪教徒』だと断言できる?」


 デイモスに問われ、二人はポカンと口を開く。

 そんな二人を置いて、デイモスは話を続ける。


「司祭が言っていた、ということだが、そもそも司祭が本当に『正しい』ことを言ったと、何の落ち度も無く、間違いは無かったと、どうして断言できるのかな?」


 言われて、シクロとミストもハッとする。


「そう。――我々は古代語を知らない。しかし、スキルとは創造神が生み出した仕組み、力であり、その名は古代語で名付けられている。そして現代の我が国では、古代語を読めるのはスキル選定教の司祭だけ。……ここまで言えば、もう意味することは分かるね?」


 デイモスの言葉にシクロとミストは頷き、シクロが口を開き答える。


「つまり……スキル選定教にとって都合の悪いスキルは『誤訳』される。ということですね?」

「ああ、そのとおりだ」


 デイモスは頷き、更に語る。


「それに私が気付いたのは――クルスのスキルが本当に『娼婦』なのかと疑いを抱いたからだ。教会の記録を閲覧し、同時に古代語を今でも扱っている少数民族を秘密裏に保護し、屋敷で雇った。彼らの力を借りて再翻訳した結果、直訳すると『月を読む者』であると分かったよ」


 それは、まるで娼婦に関わりがあるとは思えない意味の言葉であった。


「これが娼婦と訳された理由だが……恐らく、かつて大地母神の使徒と呼ばれた女性がこのスキルを持っていたことが理由だろうと考えられる。要するに宗教上の敵対勢力に縁深いスキルだから貶めた、ということだよ」


 その言葉で、ショックを受けるシクロとミスト。

 特に――ミストは手が震える程の衝撃を受けていた。


「それは――だったら、ミストのスキルも、まさか?」


 シクロが問うと、デイモスは頷く。


「こちらで、シクロ君とミスト君のスキルについても調べさせて貰ったよ。ミスト君のスキルは『聖なる偉大な人』。かつて創造神の使徒としてその活動を手伝い、大地母神に次ぐ程の癒やしの力を扱ったと言われる人物と同じスキルだ」


 その言葉を受けて――ミストの瞳から、自然と涙が溢れる。


「――ご主人さま」


 ミストは震える声を漏らす。

 シクロはそんなミストを気遣い、抱き寄せた。


「私は……邪な存在では、なかったんですね?」

「ああ。そうだよミスト。君は――何も悪くなかったんだ」

「とても……とても、嬉しいような、苦しいような、不思議な気持ちです」


 言って、ミストはシクロの胸元に頭を預け、涙を流し続ける。


 そのままミストがある程度落ち着くまで、話は一時中断となった。

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― 新着の感想 ―
やっぱりシステムの悪用されてたのか…
[気になる点] 聖なる偉大な人だと呼びにくいので偉大なる聖者とかの方が語呂がよかったかも
[一言] 今までのスキルの使い方からしたら シクロは空間系の名前かな?
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