04 時計使いの真の意味
やがてミストも泣き止み、ある程度気を取り直すことが出来た。
「……すみません、失礼致しました」
ミストはデイモスに頭を下げる。
「いいや、構わないよ。その気持ちは、理解できるつもりだからね」
「……ありがとうございます」
そうしてミストが頭を上げ、話は再開される。
「シクロ君。君のスキルについても、こちらで調べはついている。……当然、興味はあるね?」
「はい。ボクの……この力が何なのか。それが知れるなら、知っておくに越したことは無いと思うので」
シクロが言うと、デイモスは一度頷いてから話を続ける。
「時計使い、と君のスキルが司祭に呼ばれたのには、恐らくだが複雑な理由が絡んでいる」
「複雑な、ですか」
「ああ。少なくとも、宗教的に敵対しているからとか、そういう理由でないことは間違いないよ」
そう断言してから、デイモスは詳細を語る。
「まず、君のスキルの名は直訳すると『聖なる歌の者』という意味になる」
「歌……ですか?」
さっぱり自分に関わりの無い要素が出てきてしまい、シクロは困惑の声を上げる。
「ああ。この『聖なる歌』の部分が厄介でね。元々は――創造神が世界を作り上げた七日間に歌っていた歌を指すと言われているんだ。だが、実は同じ名前の建造物がスキル選定教には存在する」
複数の意味を持ちうる古代語、という点が、どうやら今回のポイントであるらしかった。シクロは納得し、ひとまず話に聞き入る。
「教会の総本山には、神話に出てくる光景を題材にした美術品や建造物が無数に存在する。その中でも『聖なる歌』と呼ばれるのは、中央に聳え立つ時計塔のことを指す。非常に高度な機械式の時計で、時を告げる鐘の代わりに、パイプオルガンの自動演奏が鳴り響く仕組みになっているそうだ」
ここでようやく時計、というキーワードが出てくることで、シクロは話がつながったのを感じた。
「つまり音楽を奏でる時計塔を、創造神の歌に擬えて『聖なる歌』と呼んでいるんだ。まあ尤も、彼らは歌は創造神ではなくスキル選定神が歌ったものだと主張しているがね」
話を聞いて、シクロは事情をようやく察することが出来た。
「デイモスさん。もしかして……その時計塔は、複雑過ぎる為に、専属の技師なんかが管理をしていたりしませんか?」
「――鋭いね、シクロ君。そのとおりだよ」
デイモスはシクロの言葉を肯定し、続きを語る。
「まさにその時計塔の技師が問題でね。特に決まった名前は無いが、存在は有名だ。そして『聖なる歌』そのものも有名となれば――司祭が『聖なる歌の者』という言葉の意味を、その時計塔の技師を指すものだと取り違えてしまうのも、ありえない話じゃない」
ここでようやく、シクロのスキルの名が『時計使い』と呼ばれる羽目になったのかが明らかとなった。
しかし、そうなると次の疑問が湧く。
「ですが……デイモスさん。『時計使い』、つまり時計塔の技師が誤訳なんだとしたら……ボクのスキルの意味は、一体?」
「もう分かっているんだろう? もう一つの意味が、君のスキルの本当の名前だ」
デイモスに言われ、シクロに緊張が走る。
「つまり『聖なる歌』――世界を創造する時、創造神と共に在った存在を擬人化したのだと考えると、君のスキルはいうなれば『創造神の助手』みたいな意味になるだろう」
「それって……ボクが神話の、創造神の使徒みたいなスキルを持っているって意味ですか?」
デイモスはシクロの言葉に、首を横に降る。
「いいや。『聖なる歌の者』なんてスキルを持った使徒の記録は残っていない。だからこそ――既存の使徒よりも、よほど凄い可能性すらある。つまり君は、歴史上最も創造神に近い力を得た使徒かもしれないんだよ」
その言葉に――シクロは唖然としながらも、どこか納得する部分があった。
確かに言われてみれば……というよりも最初から違和感を覚えてはいたのだが、どう考えてもシクロの力は『時計使い』の範疇に無い。
時計、と言い張っての様々な物質の創造。操作。収納。感知。明らかに、時計使いよりも創造神の使徒であった方が納得の出来る能力である。
時計というモチーフに寄っていればいるほど力が強くなる、という点については疑問が残るのだが。
「……ボクの能力から考えても、たしかに、納得できる部分はあります」
「ふむ、やはりそうなんだね」
シクロが考え込みながらもどうにか返答をすると、デイモスは非常に嬉しそうに頷きながら言った。
「となると、やはり君を私の陣営に組み込むのは非常に有意義だと言えるな」
「それは……どういう意味ですか?」
シクロが問うと、ニヤリと笑みを浮かべてデイモスは告げる。
「考えてもみたまえ。SSSランク冒険者。難攻不落のダンジョン踏破を成し遂げた大英雄。しかも――史上最高の力を授かった、創造神の使徒と来るんだ。君と言う存在を皇族に据えた建国は、さぞかしやりやすいに違いないだろうね」
言われてようやくシクロは気づき――僅かに顔を引きつらせる。
何やら、外堀を埋められつつあるような感覚に見舞われた為だ。
「あの、デイモスさん。ボクはまだ、そこまでは断言していないんですが」
「ああそうだね。しかし、君が皇族になってくれると、本当にありがたいんだがねえ?」
笑みを浮かべ、してやったりといった表情で告げるデイモス。
シクロが断るはずが無いと分かっているからこその――今までのシクロの無茶振りに対する、ちょっとした意趣返しのようなものであった。
「……はい。前向きに検討させていただきます」
こうしてシクロは、一度目よりもより『前向き』になった上で、同じ言葉を繰り返すしか無くなるのであった。
いつもお読み頂きありがとうございます!
さて、実は今回ちょっとした告知があります。
なんと……当作品『時計使い』が書籍化決定いたしました!!
詳細はまた話がまとまり次第お伝えします!
ぜひ続報をお楽しみにお待ち下さい!





