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53 what he hates

「……槍を持つ神(スヴィズニル)はそのヨルダール家の娘に自分と似た姿をご覧になった。

 美しい容姿(みめかたち)、聡明な分別、気高い振る舞い。槍を持つ神(スヴィズニル)はその娘を試す者にと選ばれた。

 その娘がそれにふさわしく、それを使いこなすことを望まれ、神の尊い力をお与えになった。

 槍を持ち力を溜める者(ゲイロルル)・ヨルダールの誕生だ。

 父である、時の当主トルムンド・ヨルダールの勇敢さを受け継いでいて、誰よりも折れぬ心を持っていた。

 弟であるソラリンは、トルムンドの後を継ぎ、ヨルダール家の当主となった。

 思慮深さで人々から敬愛されたソラリンは、常にこう答えたという。姉のように思慮深くありたいと思っている、けれど遠く及ばないと」

 

 

 中年の吟遊詩人(バード)は手を差し出した。

 その掌にアセウスが通貨を乗せる。

 何度目だよ、このやりとり。

 吟遊詩人(バード)のくたびれた顔ににんまりと微笑みが漏れる。



「思い出せるものはこれで全てだ。御力になれたかな」


「はい、いろいろと御存知なので助かりました。ありがとうございます!」


「私は定期的にコングスベル(ここ)に留まることにしている。近くへ来ることがあれば、また寄ってみるといい。新しい話を伝えられるやも知れぬ」

 

「はい!」

 

 

 アセウスと中年吟遊詩人(バード)が連絡先交換? を始めたようなので、俺はしれっとテントから抜け出した。

 解放感たまらんっ! 空気うまっ!

 ん~~~っっと深く伸びをしながら周囲を見回すと、静かな昼下がりの松林だった。

 人口が少ないのか? 少ないんだろうな。

 この世界は大概がこんな感じだ。

 気がつけば俺達だけ、貸し切り世界(ワールド)

 ()にはすごく居心地が良い。

 人っ子一人姿がないとかな、と確かめるように眺めていると、ふと違和感が生まれる。

 あれ、なんだろ、この感じ。

 前にも……



「おーいー、エルドフィンっ。お前、挨拶くらいちゃんとしろよー」



 とげとげしい声に振り向くと、アセウスが荷物袋を突き付けてきた。

 俺のだ。そういや、テントに入った時、(すみ)にまとめて置いたんだっけ。

 


「あ、すまん。忘れてた。いや、挨拶はしようとは思ったんだけどさ、お前達取り込んでたから」


「礼節を欠かさなかったのも、昔の(・・)お前?」



 うわっっ!

 今、結構キツいこと言ってきてねぇか? この相棒。

 そ、そりゃぁ、礼節を知らねぇ奴はクソだけどさっ、クソ……

 

 

「……いや。礼節は大事だと思ってるよ。……ちょっと、前より、うっかりが多いだけで」



 俺を見てるアセウスの顔が真顔でツラい。

 中年吟遊詩人(バード)に非はない。

 なのに、俺の態度は、総じて「失礼」な部類だった。

 アセウスが嫌うのも当然だ。でも、嫌わないで欲しいっ。

 


「い、言い訳になるけど、疲れてて余裕なかった。でもそんなの、相手には関係ないもんな。今後は気を付ける。もっと気を付けるよ、ほんと、悪かった。ご……」


「疲れてたんじゃーしょーがねーよなっ」



 パッと笑顔になって、アセウスが俺の言葉を遮った。

 お、怒ってないのか? それとも……

 


「責めるつもりで言ったんじゃねーよ。昨日寝れてねーんだろ? 目の下くま!! 出来てるぞ!」


 

 アセウスは俺の背を押し歩き出した。

 触れてる腕が温かい。

 ヤクモが俺達の前にぴょんと飛び出す。まだいたのか。

 時折振り向いて俺達を窺いつつ、歩いて行く。


 

「お腹が()きもすたねぇ~! 宿屋に戻って遅い昼食(ランチ)のしょ~」



 こいつ、いつまでつきまとう気だ?

 今の俺にヤクモ(おまえ)は要らねぇ、まじ無理、さっさと失せてくれ。

 それより、それよりだな。



「飯食ったら寝ろよ。後はもう、やることもねーし。……先に言ってくれれば良かったんだよ。一人目が早く終わったんだし、午前中は宿で休んでても良かったんだ、だろ?」



 アセウスが前を向いたまま言う。

 寝不足を気遣ってくれてるのか。

 俺、ダメダメだったのに。

 俺みたいなダメクソと一緒にいて、嫌だったろうに。

 優しい。



「……すまんかった」


「うん。こっち(・・・)は気を付けてくれよ。別にさ、エルドフィンが礼節に欠ける奴だっていいんだ、俺は。ダメなところがあるエルドフィンってのも、まぁ、面白いよ、逆に」



 視線を合わせないまま言う。

 嘘だ。優しさからの気休めなんだろ。

 本心では、何を考えてるんだろう、アセウス(こいつ)は。

 


「……面白くはねぇだろ。人としてダメなのは」


「そーゆーところは変わらないよなぁ。俺に対してと同じで変わらない。だからさ、俺以外にどーだろーと構わないんだよ。周りが引くぐらいエグ酷いエルドフィンでも、多分俺は平気。言っちゃうとさ。俺、自分本位(エゴセントリック)だから。でもっつーか、だからっつーか、俺が嫌なことは責めるし、エルドフィンを落ち込ませるとしても言うけど。……無理してんのに俺に隠そうとするな」


「……それは」

 

「俺に気を遣わせたくねーんだろーけど、止めて欲しい。嫌なんだよ」

 

 

 ヤバい……。

 寝不足だからかな。

 涙出そう。

 

 

「……悪かった」

 


 深呼吸してた。

 無理矢理自分を落ち着かせて、かろうじてその一言だけを絞り出していた。

 アセウス、今も、前、見てろよ。

 こっち見んなよ。

 俺、ぜってぇー変な表情(かお)してるから。

 隠そうとするなって言われても、無理だよ。

 隠すよ、これからも。そこは譲れねぇもん。

 無理しなきゃいいんだろ。

 無理しても、お前に隠しきったまま、やりきればいいんだろ。

 俺はタフガイになるよ。

 なるしかないんだ。

 お前に嫌がられたくないからさ。


 

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