表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/211

21・1攻めるレオン①

 ベルジュロン公爵邸から戻った私たちは、ムスタファの私室で夫人から聞いた話を確認することにした。もちろんのこと、ロッテンブルクさんの許可は得ている。


 とにかく予想外だったのがムスタファの母ファディーラ様と父フーラウムの結婚だ。現在の状況から、何かしらの理由で強制されたか、それに近いものだとと木崎もヨナスさんも私も考えていた。だけど実際はフーラウムがファディーラ様をどこからか連れてきて、自ら結婚を望んだようだ。


 ファーディラ様が夜しか姿を見せなかったというのは、魔族の習性によるものだろう。だとするならばフーラウムは何故妻がそんな状況なのか知っていた可能性がある。


 そんな話をしていたら――

「実は、人工的な明るさが好きじゃない」

 木崎のムスタファが言い、 ヨナスさんがうなずいた。

「夜は最低限の明かりでないと落ち着かない。お前が来るときは普段の倍の明かりを点けていた」

「え、何で?」

「分からんが、魔族の血だからなんだろうな、やっぱり」

「そうじゃなくて、何でわざわざ明るくしていたの? まさか気遣ってくれていたの?」

「……弱味を見せたくなかったんだよっ」


 初めてムスタファの私室を訪れたのは、再会してから一週間ぐらいの時だった。弱味を見せたくない、というのは分からないでもない。ヨナスさんが菩薩の笑みになっているのが引っ掛かるけど、ツッコまないでおこう。


「だけど夜目が利くわけでもないんだよね?」

 そう、とムスタファ。「単純に目が魔石の光に弱いんだと思っていた」

「私は魔族だからかと考えていましたが、生活に問題はなかったので黙っていました」とヨナスさん。


「もう気遣わなくていいよ。私は薄暗いのは慣れているから」

「それもどうなんだよ」

「しょうがない、そういう階層に生まれたんだから。ステップアップしがいがあるでしょう?」

「あなたなら、侍女としてでもすぐですよ。仕事が早くて丁寧ですからね」とヨナスさん。

 ありがとうございますと返す。


「とりあえず、明かりを減らそうか」

 そう言って立ち上がる。窓の外は薄暗く、部屋の中には魔石による燭台がいくつも灯されている。

「ふたつ、みっつでいいぞ」


 ヨナスさんも立ち上がり、消す場所を教えてくれる。

 魔石の明かりを消すのは簡単だけど、魔法が使えないムスタファには不可能だ。


 終えて元の席、ムスタファの向かいに座ると、表情がよく見えなくなっていた。なんだか居心地が悪いけど仕方ない。右手に座るヨナスさんの顔も同様だった。


「マリエット。ムスタファ様の隣に座ったらいい。見づらいのだろう?」ヨナスさんが言う。

「大丈夫です。話を戻しましょう。ファディーラ様の出自について知っていそうな人は、まず陛下」

「それから『当時の従者』と夫人は言っていたな。探せるかな」と木崎。

「どうでしょう。内密にとなると難しいでしょうね。でも探すなら、先代陛下の近侍もやってみます。何か知っている可能性もあります」


 どきりとする。先代陛下の従者。ちょっと会ってみたい。私は両親のことを何も知らないから。せめて陛下の人となりなんかを聞いてみたい。

「良い案ですね」

 控えめに推してみる。

「そうだな。その辺りの人事は侍従長なら把握しているのか?」

 木崎の質問にヨナスさんがうなずきかけたとき、扉をノックする音がした。


「近衛第三部隊のトイファーです」

 綾瀬だ。三人で顔を合わせる。

「お約束しましたか」とヨナスさん。

「いいや」と木崎。


 許可もなしに近衛兵が王族の部屋を訪れるなんて、普通ではあり得ない。マイペースの綾瀬といえどもルールはきちんと守っている。

 さっと立ち上がったヨナスさんが早足で部屋を横切り、扉を開ける。

「すみません」

 姿は見えないけれどレオンの声がする。

「約束もなしに来ました。殿下とお話はできますか?」

 振り返るヨナスさんにムスタファがうなずいて了承を伝える。

 どうぞとの声に続いて、レオンの綾瀬が入って来た。


「何の用だ、綾瀬」

 木崎が問う。

「私的な抗議です、先輩」

「抗議? 座るか?」

「ありがとうございます」

 そう言ったレオンは私の隣に座った。


 ヨナスさんがグラスに冷えたお茶を入れて出す。

 どうもと綾瀬。


「確認ですけど、先輩は宮本先輩とは何でもないのですよね」

「当たり前だろ」と即、肯定する木崎。

「それなら誤解を生む行動は控えて下さいよ」


 ああ。馬車の座席のことだろう。綾瀬はふてくされた顔でこちらを見ていたっけ。


「彼女があなたの髪係になって、あれこれ憶測が飛び交っているんですよ。そんな中で彼女の推薦人の元に出掛ければ、当然結婚の挨拶かって噂されるし、挙げ句に馬車は並んで座っているし、どう見ても『マリエットは俺の!』ってアピールしているようにしか見えません」

「……悪い」


 木崎が謝った!

 綾瀬もあんまり素直に謝罪されたので、驚いたようだ。


「馬車は車酔い防止のために、あの位置。前回、進行に背を向ける側に座って、そのアホは吐きそうになったんだよ。馬の揺れに慣れてねえの」

「……そうなんですか?」

 とレオンが私を見る。

「うん。今までの人生で馬車に乗る機会なんて、なかったからね」


「で」と木崎。「今日の訪問の目的は、俺の母親の話を聞くこと。城の人間はみんなパウリーネに忖度して、母親のことを教えてくれねえの。あの公爵夫人は社交界と縁を切っているから、話してくれるかもって考えて会ったんだ。宮本はただの仲介」


 レオンはまばたきを繰り返したあと、なるほどと呟いた。

「あなたのご母堂は生後すぐに亡くなられたのでしたっけ?」

「そう」

 そっか、と頭を掻くレオン。

「うちの両親は存じ上げているかもしれませんが、忖度することは間違いないです。すみません」

「構わん。皆そうだ」

「聞くだけ聞いてみます」

「些細なことでもいいから、聞けたことは何でも教えてくれ」

「了解です」うなずく綾瀬。「だけど、それはそれ」と続けた。




長いお休みをいただき、ありがとうございます。お礼がわりのおまけ小話です。



◇楽しい飲み会◇

マリエットのお話です。

(本編には全く関係がありません。日時も不詳です。パラレルワールドぐらいのお気持ちでお読み下さい)



「正月の夢を見た」

 木崎が言って、手にしたグラスをくるりと回す。赤い液体が揺れる。


 ムスタファ王子の私室。夜。特に理由もなく、私と綾瀬と集まって飲んでいた。相変わらず私のグラスは少なめにしか入っていないけど、おつまみは豪華だ。


「ショウガツとは何ですか?」と私のとなりに座ったヨナスさんが小声で聞いてきた。

「新年のこと。前世では特別な行事だったの」


「餅が食いてえ」と木崎。

「醤油濃いめ、野菜たっぷりの雑煮がいいです」と綾瀬。

「俺はからみ餅。熱燗」

「え。先輩って時々、年寄りくさいですよね。そこはビールでしょ」

「うちの正月は熱燗なんだよ」


 並んで座り先輩後輩でやいやい言い合っている。それを横目に、ヨナスさんに餅やら熱燗やらの説明をする。


「宮本先輩は? ビールですよね?」

「宮本は? あ、日本酒はダメだったか」


 綾瀬と木崎が同時に言う。


「私はビール」

 そう答えると綾瀬はよっしゃ!とガッツポーズを決めた。「意見が合いますね、僕たち」立ち上がって、私のとなりの狭い空間に無理やり座ってくる。


「綾瀬!」と木崎。

「何ですか」

「ハウス!」

「僕は犬じゃありませんー。ね、宮本先輩」

「狭いから戻って。綾瀬は図体が大きいのだから」

「嫌です。せっかくの飲みなのに、席が恣意的すぎる」

 綾瀬はちらりと木崎を見る。それから、

「ヨナスさん、殿下のお隣にどうぞ」とヨナスさんの追い出しにかかる。


 綾瀬はあれっぽっちのワインで酔っているのだろうか。面倒だから円卓の椅子を持ってきて、座ろう。

 立ち上がろうとしたら、綾瀬にすかさず腕を取られた。

「ダメ。あなたはここです」

「絡み酒は嫌いだよ」

「酔ってないですよ。好きな子のそばにいたい、当然の気持ちですよね?」

「楽しく飲めないなら、帰れ」と木崎。

「……先輩はズルいなあ」綾瀬はそう言って、木崎のとなりに戻った。「前世のあなたは、もっとはっきりモノを言ったのに」

「言っているが?」

「どこがですか」

「ムスタファ様は本気でそう思っていると思いますよ」ヨナスさんが言う。


「え?」と綾瀬。「マジで?」

「まじって何ですか?」とヨナスさん。

「『本当』という意味です」私が答える。

 うなずくヨナスさん。「ええ、マジです」

「やめてくれ、ヨナス! お前に俗語は似合わない」木崎が声を上げる。

「私もそう思う」

「マジは俗語なんですか?」とヨナスさんが照れ臭そうな顔をした。


 四人でわちゃわちゃと、取り留めのない話をして盛り上がる。

 と、突然、勝手に扉が開いた。驚いた私たちは硬直する。綾瀬だけは長椅子に立て掛けてある剣に手を伸ばす。


「やあやあ、楽しそうだな」

 胡散臭い顔と声で入って来たのはフェリクスだった。その後ろでツェルナーさんがコメツキバッタのように、ペコペコ頭を下げている。


「失礼だぞ」と木崎。

「いやあ、楽しそうな声が聞こえたものだから、つい。仲間に入れてほしいな」

 フェリクスは悪びれもせずに笑顔だ。

「お前の席はない」

「構わないよ、ここで」

 大股で長椅子にやって来たフェリクスはさささっと動き……待っての一言しか言う間もなく、彼は私がいた場所に座り、私はその膝の上に乗せられていた。


「そんな恐ろしい顔をするな」とフェリクス。「冗談だ」

 私の腰を押さえていた手が離れる。

 慌てて逃げ出し、木崎の後ろに隠れる。その腕を取られた。木崎に。

「綾瀬、詰めろ」

 はい、と従う綾瀬。

「お前はこっち」木崎に引っ張られて、そのとなりに座る。


 ヨナスさんが、

「グラスをもらって来ます。この状況ではメイドを呼べませんからね」

 と立ち上がる。ツェルナーさんが必死に謝りながら、二人して出ていった。


 まだまだこの会は終わらないらしい。

 ちらりと木崎のムスタファを見る。いつまで私の腕を握っているつもりだろう。




 ◇◇





 フェクスの言った「恐ろしい顔」は、自分に向けられた言葉だと思っているマリエットだけど、実際は……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おまけ小話が掘りごたつで脳内再生されてしまいましたw 木崎氏には気の毒ですがムスタファに餅はあまりにも似合いません……ニョッキあたりで我慢してください
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ