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溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


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33・2信用問題②

 カールハインツのハピエンでは彼が総隊長の犯罪を暴き、その地位を得る。犯罪の内容も暴く過程も不明。総隊長がどのような処分を受けたのかも分からない。


 立ったままそう説明すると、同じく立ったまま話を聞いていたムスタファは

「総隊長が犯罪か」と言ってから、参ったなと付け足した。「俺は何度か剣術の手ほどきを直接受けた。特段悪い印象はないが、かといって良い印象もない。剣は上手い」


 木崎の記憶がよみがえる前のムスタファは他人に無関心だったから、総隊長がどんな人物だかよく知らないらしい。前任者が病で急逝した後を継ぎ、まだ一年強というところ。恐らく隊員たちからは崇敬され、国王からの信頼も厚い。だけど『恐らく』でしかない。


「俺ルートだから総隊長は悪事をしていない可能性もあるな」とムスタファ。「慎重に探りを入れないとまずいが、やはり俺に人脈がないのがネックだな」

「カールハインツではダメなの?」

「信用してねえもん」


 信用していない。

 木崎はカールハインツを。

 さらりと告げられた言葉に軽いショックを受けて言葉を失っていると、


「俺にとってはあいつも総隊長も同じレベル。『よく知らない近衛』に過ぎないんだよ」とムスタファ。「尤も信用できる近衛なんて、ギリ綾瀬くらいだけど」

「綾瀬でギリギリなの?」

「綾瀬は信用しているが、レオン・トイファーとしては色々しがらみがあるだろう?

 この件はエルノーに相談する。宮本は関わるな。ややこしくなるから」


 ムスタファは涼しい顔をしているけど、私はもやもやする。カールハインツを信用してくれないから? 関わるなと言われたから?


 木崎はこちらの不満を見透かしたらしい。

「カールハインツが真面目な騎士だとは思っているぞ。ただしそれと信用は別問題だ。宮本は不満だろうが、俺はあいつには任せられない。手柄を取らせてもやれない。悪いな」

「別に手柄は。彼なら昇進の機会はいくらでもあるだろうし」


 そう声に出してもやもやの一端が分かった。

「木崎ってもしかして、カールハインツのことが嫌い?」

 再会した当初から彼は否定的だった。攻略を助けてくれはしたけど、肯定的な意見を聞いたことはない気がする。ルート選択が済んだ今は、協力どころか交際も賛成できないと明言されている。


 すっとムスタファの目が細くなる。

「……好きではねえな」

「そうなんだ」

「近衛としては立派だとは思う。――だが正直なところ、あいつのルートじゃなくなって良かったと思っている」


 そう言ったムスタファは翻って長椅子に座った。

「ほら、見習い。髪の続き」

 促されて、梳かすことを再開する。

 もやもやは余計にひどくなっている。


 私は木崎にもカールハインツを好きでいてもらいたいのか。

 彼とハピエンを迎えたら、祝福してほしいのか。



 胸の奥がちりりと痛む。



 ――前世の私は彼が大嫌いだったのに。おかしな話だ。



「もう一度言っておくが、余計なことはするなよ。犯罪が何か分からない以上、危険度はマックスだと考えておけ」ムスタファが正面を向いたま話を続ける。「お前は王子に繋がりがある。危険視されて消される可能性大だからな」

「そうか。逆に私が不審がられたら、ムスタファ王子も仲間だと疑われるのか」

「だな」


 先ほど言ったとおり、カールハインツに手柄をとらせたいとは思わない。優秀な近衛なのだから、ひとつ手柄の機会が減ったところで影響はないだろう。


「了解。静観している。でも状況は教えてほしいかな」

「当たり前」



 それからはとりとめのない会話になった。

 やがて髪の手入れが終わり寝室で片付けをしていると、昨日と同じように木崎がやって来た。が、今日は入り口付近でダンベルを手にしている。ちなみにこのダンベル、手作りのようだ。


「……そういえば、宮本」

「何?」

 櫛に絡まった髪を取り除きながら返事をする。

「結局、綾瀬にミサンガは渡したのか」


 ミサンガ。それはもう随分前のように感じる。四人で城下に行ったり、媚薬チョコに翻弄されたり、木崎と口論をしたり。


「あげてない。そもそも会ってないしね」

「……あの時も言いすぎた。悪かったな」

『悪かった』!? あの木崎がまた謝った。

 驚いて振り向くと、ムスタファはこちらに背を向けてまだダンベルをいじっていた。


「綾瀬にやりたいなら、やれば。ちゃんと『礼』だって釘をさせよ」

「いや、品がないから」

 櫛の手入れに戻る。

 完成したふたつはルーチェと私の分になり、木崎に文句をつけられたときに作製中だったものは腹が立ったのでほどいてしまった。


「ねえの?」とムスタファ。

「ないよ」

「あぁ。そう」


 櫛を湯を張った洗面器につけて揺する。元々それほど汚れてはいないから、軽く。


「……俺にひとつ作ってくれ」

 驚いて再び振り向く。が、やはりムスタファは向こうを見てダンベルの調整らしきことをしている。

「願掛けしたいことがあるんだよ」

「木崎が?」

「他人の願掛けなんかするかよ」


 そりゃそうだ。


「分かった。そうだ、木崎……というかムスタファ王子の誕生日はいつ?」

「来月」

「やっぱり。ゲーム期間中だと思ったんだ」

「盛大に祝えよ」

「溺愛ルートの予感しかしないけど。まあ、いいよ。おめでとうぐらいは言ってあげる」


 櫛を引き上げ、タオルで水分を丁寧に取る。


「で、願掛けって何なのか聞いてもいいのかな?」

 やっぱりファディーラ様関連だろうか。それとも魔力が備わるようにとか。でなければ、ゲームがハピエン以外で終わりますようにとか。



「宮本が俺に惚れるようにだよ」



 ……三度(みたび)振り返る。やはりムスタファは背を向けている。


「溺愛ルートっぽいセリフだろ?」

 普段のからかいを含んだ口調。

「やめてよ。ゲームに誤判定されちゃうじゃない」


 きっと。本当の願いを私に言いたくないのだろう。だからってわざわざ危ういことを言わなくても。






 いつもの軽口だとは分かっているのに、心臓が口から飛び出そうなぐらいにバクバクとしていた。


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