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溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


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4・2国王夫妻の散歩

 パウリーネの夫である国王フーラウムは愛妻家だ。ムスタファともバルナバスとも似ておらず、地味な栗毛に茶色の瞳で、シワも年相応に、髪もよく見れば白髪混じりだけど美中年でよくモテるようだ。けれど妻一筋。見ているこちらが砂を吐きそうなぐらいに甘々のデレデレ。


 公務の合間に少しでも空き時間があると、すぐに妻のもとに飛んでくる。侍女侍従の存在を気にせずイチャイチャするときもあれば、即時私たちを部屋から追い出してしまうときもある。とにかく妻が大好きで仕方ないらしい。


 今は、予定していた隣国の大使との会談が直前になって体調不良でキャンセルされてまとまった時間ができたからと、妻を庭園の散歩に誘いそぞろ歩き中だ。王は愛妻の腰を抱き、ぴったり密着している。すごく幸せそうだ。結婚して二十年近いはずだけど、新婚のように見える。


 ロッテンブルクさんと私は王妃の付き添いで、やや距離をとって同行している。王も同様で侍従やら近侍やらが付いていて、更に。えへへ。護衛の近衛もいるのだけど、それがカールハインツなのだ!

 なんという僥倖。


 でかした、フーラウム。と褒めてあげたい。


 といっても真面目でストイックな騎士はよそ見などまったくしないで国王を注視している。

 せっかく同じ空間にいるのに私を見てもらえない……なんてことは思わない。仕事に集中しているカールハインツの横顔の美しさと言ったら!

 鋭い眼光、途切れぬ集中力、寄せられた眉、すべてがかっこいい。肩の揺らし具合、鋭角的な足さばきも惚れぼれしてしまう。歩調に合わせて揺れるマントも、黒い制服も、腰に下がった大振りの剣も、カールハインツの素晴らしさを引き立てているし。


 なんでこんなに完璧なんだろう……。

 早くあの隣に立てる存在になりたい。

 だけど遠くから全身を拝むのも捨てがたい。


 悩ましい問題に現をぬかしていると、ちょいと脇腹をつつかれた。ロッテンブルクさんだ。見ると、険しい顔をしている。何かあったのだろうか。


「顔」と侍女頭は低い声で言った。「何をにやけているのですか」


 はっとする。どうやら私はまた煩悩が顔に表れていたらしい。

 すみませんと謝り、表情を引き締める。

 仕事中に何をたるんでいるのだという自戒とともに、己のアホさに腹が立つ。護衛しているのはカールハインツだけでなく、彼の隊員も数人いるのだ。その中には『守る会』のメンバーがいるかもしれない。


 そっと隊員に目を向けるが、私を見ている者はいないようだった。彼らは隊長に関する噂をどう思っているのだろう。間違いと分かっているから取り合っていないのか、それとも腹の中では怒っているのか。


 次に再び国王夫妻に目をやれば、のんきな話をしながらお互いの頬をつついたり、額にキスを落としたり落とされたりとしていた。


 バカップル、という言葉が浮かぶ。だって二人とも年は四十前後のはず。誰かに迷惑をかけているわけではないから、文句をつけるのはお門違いだけどさ。


 はっ。木崎だったら、前世喪女の僻みだなとディスってきそうだな。あいつには絶対話さないでおこう。


 というか木崎のムスタファは、これをどう思っているのだろう。彼が生まれてすぐに母親は亡くなり、父親は後妻をもらう。しかも呆れるほどの相思相愛。

 私だったら、もやもやするな。


 そもそもどういういきさつで、フーラウムは魔王の娘と結婚したのだろう。ゲーム設定だから深い理由はなし、とか?

 子供までなして、そんなことはあるだろうか。


 今まで考えたことがなかったけど、ちょっと気になるな。

 この前はムスタファに当たり前のように、魔王覚醒をしたくないなら母親のことには関わらないでムスタファ人生を楽しみなと言ってしまったけど、よかったのだろうか。


 木崎の記憶がよみがえったのはそう前じゃないみたいだ。ならば自分の母親が魔王の娘だと知ったのも最近のはず。

 そして人間の父親のほうは息子ほったらかしで後妻に夢中。


 ……普通だったら気になるよね。両親の結婚のこともそうだけど、母親の他に魔族はいるのかとか母親の故郷はどこだとか、ルーツ捜し的なこととか。


 その辺、木崎はどう思っているのだろう。


 イチャイチャしている国王夫妻には、バルナバスの他に三人娘がいる。上のふたりなんて父親にそっくりだ。


 ま。私が口を出すことじゃないし、木崎も私に立ち入ってもらいたくないだろう。


 と、パウリーネが城に向かって手を振った。視線の先には彼女の父親で宰相のベンノ・ベーデカー侯爵がいる。王妃はきっと母親似なのだろう。まだ宰相を近くで見たことはないけれど、それでも十分よく分かる。


 おまけに父親は年相応に老けている。王妃の秘伝の美容液は使っていないらしい。



「あっ!」

 宰相に気をとられて足元がおろそかになっていた。段差に蹴つまずき、転びかける。

 まずい、と思った瞬間、ふわりと体を抱き止められた。たくましい胸に腕。近衛兵だった。


「大丈夫ですか?」

 笑顔で尋ねられる。若い。ずば抜けた美男ではないけれど、そこそこのイケメンだ。

「大丈夫です。ありがとうございます」


 平気を装い礼を言うが、心臓は早鐘のように鳴っている。カールハインツ一筋ではあるけれど、喪女歴が長過ぎて異性に免疫がないのだ。こんなシチュエーション、美味しすぎる。


「見習いがご迷惑をおかけして」と謝るロッテンブルクさんの脇で、助けてくれた近衛をこっそり盗み見た。


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