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災厄の記憶

ようやく投稿、これからは少し安定してできそう。

それは、とても美しい光景だった。


燃え盛る彗星が筋を引いて堕ちる、

目も綾な光の帯がリボンのように絡まり合って弾けた。赤く、青く飛び交う火花の群れ。見る間に咲いた炎の渦が虚空を彩ってゆく。


大気圏を突破した老朽輸送艦の船倉には規定を遥かに超える避難民達がすし詰めに詰め込まれていた、赤い省電力灯に照らされた室内は薄暗く、異様なまでに静まり返っている。

肩を寄せ合った人々のあちこちで啜り泣きと嗚咽が聞こえ、爆発音が響くたび、船が激しく揺れるたびに怯えきったコーラスは一層高まった。

そんな船倉の片隅で蹲り、少年は壁面液晶(ビュー・ウォール)いっぱいに広がる幻想的な光の乱舞を虚ろな眼差しで眺めていた。


青く美しい惑星の軌道上で、眩い閃光が瞬く。

雨の様に降り注ぐ彗星の群れは焼けただれた運動エネルギー弾の描く軌跡。飛び違う光の帯は荷電粒子砲が叩きつける重金属粒子の嵐だ。そして時折弾ける恒星のような輝きは、今まさに轟沈した航宙艦の断末魔の叫びだった。


忘我の淵にある意識にふと、いつか見た花火の光景がよぎる。毎年東京の海上都市(メガフロート)で行われる宇宙世紀記念祭の花火。家族と見に行ったそれは星屑を背景に華やかな炎の花を描き出し、例えようもなく綺麗だったことを憶えている。

だがそれすらも、この光景の前には色褪せる。

一つ一つの光が無数の悲劇を巻き起こしているとはとても思えない、さながらお伽話の幻想郷(ユートピア)


吸い込まれるような妖しいうつくしさに言い知れぬ悪寒が走り、逸らした視線の先。

少年が今日まで暮らしていた惑星は既に眼下に離れていたが、その大地で踊る無数の炎ははっきりと見て取れた。


ほんの数時間前まで少年は今の状況を予想もしていなかった。

もちろん、戦況が日に日に悪化していることは誰もが知っていた。星系が次々に敵手に落ち、惑星連合軍が敗北を続けていることも。

人々の間に不安が広がりはしたものの、誰もが今日まで当たり前に過ごしてきた自分たちの日常が、自分たちの世界がこれからも続いていくことを疑いはしなかった、

その箱庭が、呆気無く燃え尽きるまでは。


血相を変えた父に叩き起こされ、飛び出した街路は逃げ惑う人々で溢れかえっていた。遠くの夜空があかあかと燃え、避難警報が唸りをあげる。

荷造りをしようとする母を引きずるように、一家は取るものもとりあえず走りだした。

立体道路(レールライン)は渋滞でとうに使い物にならず、少年たちはその足で逃げるほかなかった。

途切れ途切れの広域放送が告げる避難船が待つ宇宙港へと逃げるうちに、少年はいつの間にか家族とはぐれていた。両親の姿も、しっかりと握っていたはずの妹の手も見当たらなかった。それでも人波に押され、宇宙港の端に残った最後の船に乗り込めたのは奇跡に近い。

限界を遥かに超えて避難民を詰め込み、それでも余る無数の人々を置き去りに輸送艦は発進した。


侵略者は既に指呼の内に迫っているらしく、大気圏を離脱するまでにも周囲の避難船が次々に撃ち落とされていった。

始めのうちは悲鳴と怒号が飛び交っていた船室は次第に静かになり、最後には誰もが声を殺して祈った。至近弾の震えが収まり、艦が交戦区域を離脱したあとも声を上げようとする者は居ない。生き残ったという実感などなかった、ただ暗闇に浮かぶ隣人の顔を見て、鏡写しのように放心した表情を見合わせるだけだった。

少年はもう一度、遠ざかる地表を見た、鬼火のように揺らめく無数の炎、そのどれか一つが少年の家族を焼き、故郷を奪い、彼の住む世界の全てを燃やし尽くしたのだ。


「カラ...ミティ...。」


誰かのつぶやきが木霊する、人類の仇敵たる悪魔の名を。


宇宙暦943年8月9日、

惑星連合首都「地球」(the earth)は第三種敵性星間文明、災厄(カラミティ)により失陥した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




薄ら、と意識が覚醒する。

殆ど無意識に動いた右手が枕元をまさぐり、律儀に機械音を鳴らす携帯端末(データパッド)の電源を切った。

体中に残る異様な震えと悪寒の残滓。

上体を起こす、霧がかかったような頭を振ると、ぼんやりとぼやけた視界が像を結び、薄暗い室内を映し出した。

あの時の船倉、ではない。

せいぜい20フィート四方の殺風景な部屋は無機質な灰色の硬化樹脂製隔壁で覆われ、まるで四方から押しつぶされるような錯覚をもたらす。壁際の固定式デスクに置かれた卓上ランプが室内を照らす唯一の光源だ。


「...........................夢か、」


戦艦〝エジンコート〟の士官私室。

この三ヶ月ですっかり見慣れたそれは、収まらない動悸を沈静化する効果があった。

あれから五年の月日が立っても、あの時の記憶が消えることはなかった。悪夢を見るたびに思い出させられる、自分の全てを喪った記憶。

我知らず総身に力が籠り、噛み締められた奥歯が軋んだ。

それは少年、ユウキ・タカノにとっての原風景だった。









ガンダムも実写化するらしいですねー

ヤマトみたいにコケないでくれればよいが......。

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