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序 フロスト銀河史Ⅴ

戦艦比叡が見つかったとのことで久しぶりに戦記を読みなおす。ここにも雪風が居る!!!

比叡が沈んだ時に乗員の救助も行ったらしいです。

だが、クローヴィスの予想を裏切り、惑星連合(ユニオン)は容易には屈しなかった。連合中央議会ではルパート・カラザース、デュエルン・キンケイドと言った保守派が徹底抗戦を呼びかけ、国内の統制と結束を図った。星間同盟(アライアンス)の反対勢力への弾圧や占領地への圧政が明らかになるに連れてその動きはいっそう加速することとなる。


緒戦で大打撃を受けた惑星連合軍も漸く体制を立て直し、敵を宙域深くに引き込んでの持久戦に出る。地の利を活かして粘り強く抗戦を続ける連合軍に対して、立て続けの勝利で惑星連合の奥深く侵攻していた星間同盟軍はすでに攻撃終末点を超過。伸びきった補給線も限界を迎えようとしていた。


開戦から二年も経つと、戦争は果てしない消耗戦の様相を見せていた。中枢領域(コア・ワールド)を巡って激しい戦いが行われたが、国力で大きく上回る惑星連合の優位は次第に戦線を圧迫。星間同盟軍は必死の抗戦を続け、局所的に大きな勝利を収めさえしたが、圧倒的な物量を誇る惑星連合軍の前に次第に後退を余儀なくされた。

長引く戦いの中で両軍の質の差も縮まり、緒戦の様な大勝利は望むべくも無く、局所的な敗北はむしろ星間同盟に増えていた。

とはいえ星間同盟は未だ強固な結束と戦力を保っており、惑星連合政府も戦争の長期化を予見していた。


だが、ここで誰もが予見し無かった事態が発生する。


星間同盟の首魁、ジョセフ・クローヴィスの急死である。

宇宙暦754年6月17日、前線視察に赴いたクローヴィスは専用宇宙船の中で体調を崩し、治療の甲斐も無く病死したのである。公式の見解では視察で訪れた惑星の風土病が、慣れない宇宙旅行で悪化したためと発表されたが、その内容には不審な点が多く、他殺説や陰謀説が現代に至るまで議論の対象となっている。

彼の唐突な死は、そのカリスマと成功で成り立っていた星間同盟にとって致命的であった。配下の星系では混乱と動揺が波及、政府を疑問視する声が高まった。星間同盟の全体主義政策や抑圧、戦争による負担と言った負の側面が噴出したのである。

占領地でも反政府活動が活発化し、治安は著しく悪化した。にもかかわらずこれに対応すべき星間同盟政府は独裁制の弊害によって確固とした後継者が居らず、高官たちは権力を巡って内輪揉めをする有様だった。

現状では到底戦争継続は不可能だと悟ったミハイル・スミルノフら同盟穏健派は苦心して権力を掌握。軍部の反対を押し切って惑星連合との講話に乗り出した。戦争で疲弊したのは連合も同じであり、星間同盟の軍事力も保たれていたことから惑星連合政府はこれを受諾。

宇宙暦755年1月、激戦地ヴァルダミアで講和条約が成立。100億の死傷者を始めとした空前の(残念ながら絶後ではなかった)被害を人類に齎した3年に渡る大戦争に幕がおろされた。

しかし、双方にとって不本意な形で終結したこの戦争は、さらなる惨禍を前にした序章に過ぎなかったのである。


ヴァルダミア条約は優勢だった惑星連合の主張が強く反映されており、星間同盟にとっては様々な点で不利なものだった。形ばかりの自治権は認められたものの、軍備や政策には厳しい制限が設けられ、資源地帯の割譲(条約には〝返還〟と記された)は実質的な賠償となって星間同盟の経済に暗い影を落とした。

同盟市民の多くは自分達が負けたのは指導者の死という言わば不測の事故によるもので、戦争を継続すれば勝っていたという認識が誇りと共に息づいていた。死んだクローヴィスは神格化され、講和に走った現政府を臆病者、売国奴と糾弾する動きが強まった。こうした中で政界に登場したのは戦争の英雄であるアルベルト・ウィンザーであった、ヴァルダミア星系の戦いの後もその才能で多くの戦いを勝利に導いた彼は戦時中に元帥にまで昇進し、国民に絶大な人気を誇っていた。

瞬く間に勢力を広げた彼は議会でスミルノフら穏健派政権を糾弾、ヴァルダミア条約の破棄と惑星連合への強硬姿勢を訴えた。現政権に不満を持つ軍部も味方に着け、終戦から2年後に行われた選挙でスミルノフに大差をつけて圧勝し、星間同盟大統領となった彼は、クローヴィスの再来の如く独裁を進め、星間同盟のかつての政策を次々に復活させていった。

「ヴァルダミア条約は政府の混乱期に場当たり的に結ばれたもので、実効性も正当性も無い」と主張したウィンザーは条約破棄を一方的に通告、再軍備を開始した。また、こうした強行政策の裏では惑星連合への懐柔を行い、軍備増強の時間を稼いだ。惑星連合は彼の真意を理解してはいたものの、再びの戦争を恐れて譲歩せざるをえなかった。


こうして万全の態勢を整えたウィンザーは宇宙暦761年、惑星連合に宣戦布告。人類史上最大の戦役となる第二次星系間戦争の火蓋が切って落とされた。

戦いは両陣営の境界となる数百の星間ジャンプ回廊(レーン)とその周囲の星系からなる広大な戦線に広がった。惑星連合軍は以前と同じく物量を利用した消耗戦に持ち込んだが、新たな惑星の開拓や領内の再開発で国力を蓄えていた星間同盟は持久戦に耐え、戦争は長期化した。なまじ星間ジャンプ回廊(レーン)という限られた移動手段が相互の防衛を強固にする効果を齎し、双方の積極的な攻勢は掣肘されたが、それが行われる時は凄まじい激戦が生起した。一つの星系、一つの回廊をめぐる戦いが何年にもわたって続き、泥沼の戦争はいつ果てるともなく拡大した。戦局を左右する決戦が全く無かった訳ではないが、両国は余りにも巨大過ぎた。並大抵の勝利では戦局を決定付けることは出来なかったのである。


数十年と時が立ち、世代が移り変わってもなお戦争は続いた、ほとんど永遠に続くとさえ思われたそれはしかし、次第に一方の有利に傾いてゆく。惑星連合の重厚な基盤と勢力が、星間同盟のそれを圧倒し始めたのである。また長引く戦争の間に同盟内部には全体主義の弊害が目に見えて効果を与え始めていた。


宇宙暦910年、第一次星系間戦争以来の古戦場ヴァルダミアで両軍の最後の決戦が始まった。

星連合軍統合機動艦隊(ネビュラ・フリート)と星間同盟軍第一機動艦隊は前哨戦から掃討戦まで二週間に渡る激戦を繰り広げ、勝利の天秤は幾度となく傾いた。最後にそれをもぎ取ったのは惑星連合軍だった。

「第21次ヴァルダミア沖海戦」と呼ばれるこの戦いで致命的な敗北を喫した星間同盟は以後次々に戦線を崩壊させ、混乱した国内各地では反乱が頻発、星間同盟政府は宇宙暦911年4月、無条件降伏。140年という超長期間に渡った大戦争が集結した。


世紀を超えて行われた大戦争は、人類に文字通り天文学的な被害をあたえた。戦争中の累計死者は1000億に上り、総人口は最盛期の4割に落ち込んだ。多くの豊かな星系が灰燼に帰し、莫大資源と労力が無為に失われた、何より凄惨な戦争の常態化による人心の疲弊は消えない爪痕となって深く刻まれた。


だが、長い戦争の集結は人々に久方ぶりの希望を甦らせた、誰もがようやく訪れた平和に歓喜した、人々は意欲を持って復興に取り組み始めた。

破壊された惑星に再びテラフォーミングが施され、新たな開拓地に退役兵が押し寄せる。数世紀ぶりに出生率が上昇し、戦争を経験しない世代(ニュー・エイジ)が育ってゆく。


宇宙暦930年現在、人類の上に、かつての黄金時代を思い起こさせる繁栄が甦らんとしていた。




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