表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。  作者: 瀬名ゆり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/127

127 雅が思っているほど、オレの頭はよくないよ




「じゃあ、そういうことで。立花よろしくな」

「はあ……」



 なぜだろう。今日は早く帰ってお兄様と一緒に韓国ドラマの続きでも見ようと思っていたのに。


 気がつけば、木村先生に黄泉の課題の手伝いを押しつけられてしまった。



「今日はたまたま渋滞でドライバーさんの到着が遅れているから、まあいいけれど……」

「さっすが雅~! 持つべきものは友達だね~」

「もう1人のお友達はどうしたのかしら? こういうのは、わたくしより彼の方が適任じゃなくて?」

「あ~、梓のこと?」



 黄泉の話によると、本日白川くんは葵ちゃんとデートらしい。そんな2人を邪魔することなんて、私にはできない……!


 自称2人のキューピットである私が、やりましょうと決断するのは早かった。



「……そう。それなら、わたくしが教えるしかなさそうね」

「よろしくお願いします~、雅センセ」



 私に教える才能があるのか、定かではないけれど、私のわかる範囲で最善を尽くすしかないだろう。


 ひとまず、自力でプリントを解くように促す。不明点があれば、適宜質問するスタイルだ。




「早速1問目から質問いい?」



 嘘でしょ!? まだ1問目なのに!? こういうのって、普通詰まった時に声をかける形式じゃないの!?


 質問されるまで楽しい読書タイムだと思っていたけれど、どうやら違ったらしい。内心ため息をつきながら、私は手に持っていた小説を鞄に戻した。おそらく、ここからはもう必要ない。



「……ああ、てっきり理社の択一かと思っていたけれど。まさかの算数、ね」



 あれ、でも確かこの範囲って。



「今日習ったばかりの範囲じゃない。空間図形の面積や体積を求める公式さえ思い出せば──」

「雅が思っているほど、オレの頭はよくないよ」

「……つまり?」

「もっと分かる言葉で言って」



 思いもよらない発言に、私はポカンとしてしまった。


 ……というか、教えてもらう立場なのに、随分と偉そうだな。



「黄泉、面積と体積の違いって分かる?」

「雅はオレをバカだと思ってるの……?」

「誤解しないで。馬鹿にした訳じゃないわ。ただ、あなたの理解度を測りたかっただけよ」



 他意はなかったのだが、黄泉の顔はみるみるうちに不機嫌に染まっていく。私はそのことに気づかぬフリをして質問を続けた。



「……円柱と円錐の違いは?」

「…………」

「なるほど、そこからね」



 不明点の洗い出しができたことで、私はテキパキと説明を始める。正直、今日授業でやったことを覚えてないなんて……とは思いはしたけれど。西門家がそれを良しとするのならば、私からとやかく言う必要はないのだろう。



「……と、ここまでは理解したかしら?」

「うん……」

「じゃあ問1から問3まで解いてみて」

「は〜〜〜い」



 間延びした声にはやる気が感じられなかったけれど、とりあえず黄泉が解き終わるのを待つことにする。その間、私は大好きな韓国ドラマの原作小説を読むことにしよう。3問ならば、数ページは読み進めることができるはずだ。ニコニコと鞄から小説を取り出していると、黄泉から名前を呼ばれた。



「雅センセイ〜、早速問1が分からないで〜す」

「そこは今説明したばかりの公式を使えば解ける問題よ?」



 さすがにリタイアが早すぎる。数ページどころか、私は本を開いてすらいない。そんな瞬きの間に諦めるなんて。もしかして、計算するのが面倒だから、わざと解けないフリをしているとか? 訝しむ私に、黄泉は残念な子を見るような眼差しで諭すように言った。



「あのね、雅。頭のすご〜く良いキミには分からないかもしれないから教えてあげるけど、たった1度の説明で理解できる頭をしていたら、今ここで居残りなんてしてないんだよ」



 なんだか、分かるような分からないような言い回しだ。



「つまり?」

「分からなかったので、もう1度説明してください」

「もう、さっきは理解したって言っていたのに……」



 どこが分からないのか分からない、と言いかけて、その言葉をなんとかギリギリで飲み込んだ。


 そんなことを言ってしまえば、本当にすねられてしまいそうだ。もう1度説明するわね、と微笑むだけに留めておく。


 私は2度目の人生を歩んでいる。当然その分黄泉よりも勉強時間は確保してきた。それを人生1度目の人間にこんな問題も分からないのかと言うのはさすがに傲慢だろう。


 心を入れ替え、私はもう1度黄泉に説明する。今度は分からない人向けに、懇切丁寧に。



「どう? 今度は分かった?」

「……多分?」



 ここまでして、多分なのか。もしかして、私教える才能ないのかもしれない。そう思い、少し落ち込んだけれど、想定より黄泉の鉛筆が動いていたので安堵する。


 カツカツと鉛筆と紙が擦れる音が心地いい。今度こそ私は読書を進める。



「ねえ、雅センセ」

「なぁに?」



 視線を本から逸らさず、私は返事をする。ちょうどいいシーンで、目を離せない。



「追加で質問してもいい〜?」



 どうぞ、と私は読書をしながら続きを促す。


 黄泉は普段と同じ声色で、なんでもないことのように問いかけた。



「どうして──『あの日』のことを何も聞かないの?」




***




「『あの日』のこと? それは一体どの日のことを言っているのかしら?」

「とぼけないでよ。……あの日、オレがキミを傷つけた日のことに決まってるでしょ……!」

「違うわ。わたくしが貴方を傷つけてしまった日でしょう?」



 パタン、と本を閉じて彼に視線を向けると、今にも泣き出しそうな顔をして私を見つめていた。黄泉の瞳が揺れ、くしゃりと苦しげに顔を歪める。



「泣かないで、黄泉」

「……っ、泣いてないよ」

「でも、今にも泣きそうじゃない」

「だから泣いてないって……」



 黄泉の頬は乾いている。確かに、彼の言う通り涙は流れていないけれど、私には彼が泣いているように見えた。


 身を縮こまらせている彼は、出会った頃の赤也と重なった。父親に憎まれていると思い込んで、寂しげに笑っていた私の大事な弟に。


 だからだろうか。無意識に、黄泉の頭の上に手が伸びてしまったのは。気が付けば、私は黄泉の頭を撫でていた。



「…………何、してるの」

「お兄様がね、わたくしが落ち込んでいる時はすぐに気がついて、よく頭を撫でてくれるの。そうされると、わたくしは元気が出るから」

「オレを元気づけてるつもり!? 頭を撫でられたくらいで、オレが元気になるとでも思ってるの!?」

「あら、でも、大きな声を出す元気は出たみたいね? さっきのあなた、消え入りそうな声だったわよ? 黄泉らしくもない」

「……なにそれ」



 やっぱりキミは変だよと笑う瞳には、もう悲しみの色はない。もうすっかり涙は引っ込んだようだ。



「……オレ、雅に嫌われたんだって思ってた。だから何も聞いてこないんだって」

「嫌いになんてなる訳ないわ!」

「ホントに?」

「ええ、本当よ」



 私は安心させるように笑顔で頷いた。



「オレ無神経とか酷いこと言っちゃったし……」

「多分、あなたにそう言わせてしまうことを、先にわたくしがしたのよね? やっぱり、無神経って言われても仕方がないと思うわ」

「……ちがっ、そんな風に思ったことないよ! アレはただのオレの八つ当たりで……」



 ううん、と私は首を振った。黄泉は悪くない。やっぱり、悪いのは私だ。



「……謝るのが遅くなってしまったけれど、あの時はごめんなさい。あなたを傷つけるつもりなんてなかったの。それだけは信じて欲しいわ」

「なんで雅が謝るの? ……悪いのは勝手に傷ついて、勝手に怒って雅を置いてけぼりにしたオレで。……オレを信用して、顔合わせの相手に選んでくれた雅の信頼を、オレは裏切ったんだよ?」



 だからやっぱり謝るのは自分だ、と黄泉は俯いた。



「ごめん……雅、本当にごめんね」

「もう、そんなに謝らないで。過ぎたことよ。もう気にしてないわ」

「でも……」

「確かに黄泉がどこかへ行ってしまった時は慌てたけれど。あの時一条くんが黄泉の代わりに、アフタヌーンティーに一緒に行ってくれたから、結果的に何も問題なかったの!」

「あ、青葉が!?」

「そう、そうなのよ。あの一条くんが。……ふふっ、なんだかおかしいわよね」



 甘い物があまり得意ではないあの青葉が、甘い物に囲まれてスコーンを頬張る姿は、なんだかおかしくて。思い出すたびに、私はいつも笑いがこみ上げてくる。



「あっ! 両家にはわたくし達が一緒に過ごしたということになっているから、その点も心配無用よ?」

「……そっか、そっかそっか。実はずっと気になってたんだよね〜……青葉にはオレからもお礼言っておかないとだねぇ」

「ええ。だからね、黄泉はそんなに自分を責めないでって言いたかったの」

「……うん」



 確かに置いていかれた時はかなり焦ったけれど。青葉が助けてくれたおかげで、結果的に何の不利益も被っていないのだ。だから黄泉は気に病む必要はないと意識的に私は微笑む。



「……でもさ、どうして今まであの日のことはなかったかのように過ごしていたの? オレはてっきり、雅のことだから次に会った時にすぐにその話題に触れてくると思ってたからさ……」

「……すごい! わたくしのこと、良く分かるわね」

「そりゃ分かるよ!」



 だからさぁ、と黄泉は続ける。



「何も聞いてこないってことは、あの日の発言にかな〜り怒ってて、もうオレのことなんてどうでもよくなっちゃったのかなって」

「そんな風に思うはずないわ」

「……っ、でも、でもでも! ……そこまで踏み込むほど、興味なくなっちゃったのかなって……普通思うじゃん!」



 まさかそこまで深刻に捉えているとは思っていなかったけれど。そう言われてしまえば、そういう風に考えてもおかしくはない気がしてきた。そう思うと、黄泉には申し訳ないことをした。でも、仕方なかったのだ。



『ひとつ、お願いがあるんです』



 アフタヌーンティーで、彼が私に告げた言葉が頭に浮かんだ。



「──一条くんに頼まれたの」




たくさんのブクマありがとうございます!よろしければ評価や感想もお願いします!励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ