12. ボス部屋:その3
「ギイイイイイアアアア!!!!」
マチルダであったはずのソレは、骨だらけの体でどのように発しているのかはわからないが、ものすごい叫び声をあげた。
「そんな......マチルダさんが......」
僕はそんな彼女のなれの果てを見て、恐怖よりも悲しみが湧きおこってきた。本当なら今すぐにでも剣を抜き、相対するソレと向き合わなければならないのだろうが、なぜだか全く動くことができなかった。
心の中でいくらソレと思うようにしても、どうしても彼女が重なってしまう。
「おい、なにやってるんだ!早く剣を抜け!」
シスコが隣で叫んでいるのが聞こえるが、どうしても体を動かすことができなかった。
そんな風に立ちつくしていると、ついに怪物は動きだした。
「ちぃ。いい加減にしろ!」
「うわ!?」
突然もの凄い衝撃が襲い、僕は弾き飛ばされた。
弾き飛ばされながら、自分が元いた場所に視線を向けると、そこには突撃してきた怪物が剣を思いっきり地面にたたき込んでいた。その横で、シスコが剣を構えて怪物と向き合っていた。
「おら!こいよ!」
シスコの声に怪物がシスコへと狙いを定める。
怪物の振る剣が空を裂く音が、部屋全体に響き渡る。シスコはそれをなんとか剣でいなしているようだ。しかし、シスコの表情は険しい。いつまでもちこたえられるかわからない。
く......このままじゃシスコがやられてしまう。
僕は剣を構えた。
しかし、あの怪物は姿は変わってもマチルダであることには変わらないのではないか。そういう思いが、どうしても行動を制限してしまう。
『どうしたのー。戦わないの?君の相棒がこのままじゃ死んじゃうんじゃない?』
気がつくと、少年が隣で僕のことを覗きこんでいる。
「うるさい。わかってる。わかってるけど......」
『女騎士には攻撃できない?あんな姿になっても?せっかく戦いやすいようにしてあげたってのに』
「なんだと!?」
『おいおい。そんなに睨まないでよ。僕の優しさだよ?同じ同郷として、そのまま相手させるのはかわいそうかなってさ』
「くそ!」
僕は少年に向かって剣を振る。僕が振った剣は、シスコの時と同様に少年の体を切り裂くが、剣に全く感触がない。
『だから僕に攻撃するのは無駄だって。これは仮の姿だからね。実体はあるけどホログラムみたいなものだよ』
切り裂いたはずの少年が、僕の後ろから語りかける。
ホログラムか。もしかしたら、あの部屋の中央に浮かぶ球体が本体なのかもしれないな。
僕は部屋の中央に浮かぶ不思議な球体を睨んだ。
『そうだよ。あれが僕の本体さ。あれに直接攻撃しても無駄だからね。第一、あの距離じゃ届きようがないだろ?君はおとなしく、あの女騎士と戦うしかないんだよ。ほら?いいの?君の相棒がやられそうだよ』
少年に言われ、シスコと怪物の方に目を向けると、怪物の攻撃でシスコの剣が弾かれる瞬間が目に入った。
「ちぃ!」
「ギヤアアアアア!」
剣を弾かれたシスコに向かって、怪物が剣を振り上げる。
くそ!悩んでる場合じゃない!
僕は二人の元へと駆けだした。
走りだした瞬間、間に合わないかもしれないという思いが胸をよぎる。怪物とシスコとの距離が三メートルほど。時間にして一秒もかからない距離だが、怪物は既に剣を振り上げている。そして、今にも剣を振りおろそうとしていた。
「待て!!!」
僕は怪物に向かって叫ぶ。
すると、怪物はわずかに体を硬直させた気がした。
これなら間に合うかもしれない!
「はああああ!!!」
僕は、振りおろそうとする剣に向かって、思いっきり剣を振った。
キイイン!!!!
甲高い音を上げ、怪物が振り下ろす剣の軌道をわずかにそらすことに成功する。ずらされた怪物の剣が、ダンジョンの床を地面にめり込む。
「遅いじゃねーか」
「ごめん。早く剣を拾って」
「おう」
僕はあらためて怪物と向き合う。骨だらけになったその外見にマチルダの面影はない。対峙するのも恐怖を感じる。
しかし、さきほど、僕が声をかけた時に一瞬だけど体を硬直させた気がする。もしかしたら、まだ彼女の意識があるのかもしれない。
そんなことを考えていると、怪物が何か声を発した。
「タノム......コロシテクレ......」
「―――!?」
殺してくれ?
「おい、これって」
剣を拾ってきたシスコが呟く。
「うん」
僕の瞳から涙があふれ出してきた。
死んだ後もこんな風に利用され続けるなんて。
僕はぎゅっと、剣を握る力を強めた。必ず倒してマチルダを救ってみせる。そして、あいつを倒す。僕は少年をきっと睨みつけた。
少年はそんな僕の様子を見て、さらににやにやと笑みを浮かべている。
「いこう!」
「おう!」
僕とシスコは怪物にむかって踏み出した。
怪物はそんな僕達をみても、何も対応を取らない。剣を振り上げることもしないし、盾も構えない。
僕達はそんな怪物に向かって一心不乱に剣を振った。
「うおおおおおお!!!」
「おりゃあああああ!!!」
剣の一振りで、怪物の骨を断つ。腕の骨を切り落とし、胸の骨を切り裂く。
『おいおい、どうしたんだよ。戦えよ!!!』
後ろから少年の怒声が響く。その声にわずかに怪物が反応しようとするも、ぎゅっと硬直したまま動き出すことはない。
おそらくマチルダも戦っているのだろう。だからこそ僕達はこの剣を止めるわけにはいかない。
そして、遂に、残すはその顔だけになった。
「はぁ。はぁ。はぁ」
僕達は残った顔に剣を向ける。
「アリガトウ......」
「―――!!」
顔だけになった骨が呟く。
そして、そのまま顔の部分にむかって剣を思いっきり叩きつけた。顔の骨は粉々に砕け散った。
「「......」」
僕達はその砕け散った骨の前でただただ無言で泣き続けた。
『ちぇー。なんだよ。つまんねーな。一方的な戦いになちゃったじゃねーか。もっと、拮抗した戦いになると思ったのになー残念だ』
そんな僕達の横で、少年はつまらなそーにそう呟いた。
「ふざけるな!人の命をおもちゃみたいに扱いやがって!」
僕は少年の襟首をつかみ、思いっきり殴りつけた。
少年は地面に倒れる。しかし、その表情には笑みが浮かんでいる。
『どうしたの?だから僕に攻撃したってむ―――』
僕はそんな少年の上にのっかり、思いっきり拳を叩きこんだ。手から血が出ても気にせずに殴り続けた。すると、フッと少年が消滅する。
『だからさ。全然きかないんだってば』
「くそやろうが!!!」
『――――!?』
新たに出現した少年に対し、シスコが思いっきり殴りつける。
少年は吹き飛ばされながらまたもフッと消滅した。
そして、今度は僕とシスコから離れた場所に出現する。
『ちょっと落ち着いてくれる?だから無駄だってば。痛くないから』
「うるさい!なぐらないと気が済まないんだ」
「ああ!それに、なんでこいつを倒したのにお前が生きてるんだよ」
『え!?なんで女騎士を倒したら僕まで死なないといけないの?よくわからないんだけどー』
「くそったれ。お前がボスを倒せば、お前を倒したことになるって言ったじゃねーか」
シスコが少年の胸倉をつかむ。
少年はそんな状況でもにやにや笑うのをやめない。
『おいおい。敵がいうことを真に受けたのか?馬鹿だな?僕が本当のことをいう保証はなにもないだろう?』
「くそっ!」
シスコがさらに少年を殴りつけようとする。
「待って!」
僕はシスコを止める。
「確かにそいつの言うとおりだよ。僕達が信じたのが馬鹿だったんだ。マチルダさんを解放できただけでもよしとしよう」
「なに言ってるんだよ。そんなんで許せるか!」
「僕だって許せない!だから、とっておきをおみまいしてやろうと思う。ちょっときて」
「なんだよ」
シスコは少年をおろして、僕の元まで駆け寄ってくる。
少年はそんな僕達の様子をにまにましながら見つめている。
僕は少年に聞こえないように、こっそりとシスコに作戦を告げる。
『どうしたのかなー。もうどうしようもないと思うけど?今ミノタウロスとゴブリン達がこっちにむかってるからね。今度こそお終いだよ』
少年は余裕たっぷりにそんなことを言っている。
「おい、それでなんとかなるのか?」
「駄目かもしれない。でも、これしか方法はないと思う」
「うーん、しょうがない。やってみるか」
僕達は最後の作戦にうって出ることにするのであった。




