6. 真・ダンジョン攻略:その2
洞窟の中に足を踏み入れると、そこは今まで潜っていたダンジョンとは雰囲気が全く違っていた。洞窟の中はシーンと静まり返り、歩く音でさえ大きく感じる。また、外から見えたとおり、十メートル先は見えない位の仄かな明るさしかない。
「これが本当のダンジョンか......」
僕はそうぼそりと呟き、慎重に歩を進めた。
なんだか空気もぴりぴりしてる気がするな。これは気を抜けないぞ。
辺りを見回しながら、びちゃ、びちゃ、とゆっくりと進む。
びちゃ、びちゃ、びちゃ、びちゃ。
びちゃ、びちゃ、びちゃ、びちゃ。
洞窟の中には僕の歩く音だけが響く。
......まず、びちょびちょなのをどうにかしようかな。
僕はそっと立ち止まり、びちょ濡れになったローブを脱ぎ、ぎゅっと絞った。まるで雑巾を絞った時のように水がぼたぼたとたれる。何リットル位絞れただろうか。絞った後に再度着てみると随分軽くなったような気がした。
そして、体全体からドライヤーの風を噴出させながら歩き続ける。
しばらく進むと、先に入ったシスコの姿が目に入った。
「お、やっときたか。っていうか、なんだその格好!」
シスコはパンパンに膨らんだ僕の格好を見て、驚きの表情を浮かべている。
「ごめん。ごめん」
僕は小走りでシスコと合流する。
「いや、だから、なんなんだよ。その格好は」
「え、これ?洋服を乾かしてるんだよ」
「は?」
僕はシスコにドライヤーの説明をした。
「おお、すげ~。生活魔法を組み合わせればこんなこともできたんだな」
シスコも僕と同じようにパンパンになりながら洋服を乾かしている。
そして、しばらく経ち、洋服は完全に渇いたのだった。
「この魔法はすげー便利だな。渇いたらめっちゃ軽くなったわ」
そう言って、シスコはその場でジャンプをしている。
「でしょう?さて、それじゃあ、本格的にダンジョン攻略に移りましょうか」
「おう」
僕とシスコはダンジョンの中を進み始める。
道は一本道のようで、途中でうねうねと曲がったりはしているが、迷いなく進むことができている。宝箱なども見当たらないが、その代わりに魔物にもまだ出くわしていない。
「なんだか不気味なくらい静かだな」
「そうだね。戦闘がないのは嬉しいけど、逆に怖いね」
僕達は歩けども何も現れないことにびくびくとしながらも歩き続けるのだった。
「そういえば、ここに来るときに見えた女騎士の姿が見当たらないね」
「そうだな。あ、もしかしたら魔物が出ないのはその女騎士が倒して言ってくれてるのかもな」
「ああ、なるほど。そうかもね」
僕達はなおも歩き続ける。
「そう言えばさ、シスコはなんでお金なくなったの?」
魔物もでない時間が続き、緊張感が大分和らいできていた僕は、シスコにそんなことを尋ねたのだった。
「え!?それは、あれだよ」
「何?」
「訓練教室に通いすぎたせいだよ」
訓練教室はギルドが主催している教室で、魔術や剣術、サバイバル術など、数々の教室が開かれている。先生は先輩冒険者達で、大体一回にかかる費用は銅貨五枚だ。
そういえば、以前決闘した際、テレサの訓練教室に通っているなんて話を聞いたことがあったような気がするな。
「そうなんだ。テレサの訓練教室?」
「そ、そうだよ。テレサが戻ってきてから一日置きに開催されててな、全部に出てたらお金が無くなっちまったんだよ」
まぁ、銅貨五枚が連続でなくなれば確かに痛いよな。
「全部にでなければ良かったのに」
「はぁ?そんなわけいくかよ」
「そんなに魔法が使えるようになりたいの?」
「お、おう。俺は魔法剣士を目指してるからな」
ああ、そう言えば飲み会の時にそんなことを言っていたような
「偉いな。僕はそんな風にお金をつぎ込んで時間もつかって、なりたい夢なんて全然ないよ。もういい年なのにな~」
「だ、だろ?お前も俺を見習って、はやく夢をみつけろよ!」
「そうだね。頑張るよ」
シスコもろくでもない理由でお金がないのかと勝手に思っていたのだが、どうやら彼は自分の夢のためにお金を使っていたのだそうだ。なんだか、勝手に自分と同じで無駄遣いでもしたのだろうと思っていたのが申し訳ない。
そんなことを話していると、僕達の前に初めて分かれ道が見えてきた。
「分かれ道だな」
「そうだね」
僕達は分かれ道の手前で止まる。
「どっちに行く?」
僕は分かれ道の先を必死に目を凝らして見てみるも、どちらも全く先が見えない。
「うーん。どっちも先が見えないから適当に決めるしかない、かな?」
できるなら女騎士が行った方に行きたいけど、地面や壁などをじっくりと見てみても、どちらに行ったかはわからない。
「それしかないか。じゃあ、俺の剣が倒れた方に進むってことにするか?」
「ああ、もういいよ。それで」
「おう、じゃあ待ってろよ」
シスコがそう言って、剣を抜いたその時......
「きゃああああ!!!」
という女の悲鳴が右側の通路から響いていてきたのであった。
「この声は!?」
「ああ、きっと先の女騎士の声だ!」
僕達は悲鳴が聞こえてきた右側の通路に向かって走り始めた。
二十メートル位走っただろうか。
女騎士が倒れているのが目に入った。
「だ、大丈夫ですか!?」
僕達はそっと、女騎士の元へと駆け寄った。
女騎士はどうやら意識はあるようだが、右腕から大量の血を流しており、着ている鎧もかなり損傷していた。ていうか、不謹慎かもしれないけど、この人めっちゃ巨乳だ。損傷した鎧の合間から、やわらかそうな胸が垣間見えている。
「これはやばいな!」
「僕の薬草を使ってください」
そう言って、腰袋から薬草を取り出そうとした時......
「そ、それよりも、今はあいつをどうにかしないと!」
女騎士はそう言って、通路の先を指さした。
僕達は慌てて、前を振りかえる。
「な......なんだよ!?あれ!?」
「ウソだろ!ミノタウロスだ!」
そこには、牛の顔をした身長二m以上の大男の姿があった。手には大きな斧を持っており、ふしゅー、ふしゅー、と息を荒立てながらこちらにゆっくりと迫ってきていた。
迷宮といったらミノタウロス。
僕もダンジョンに入る前は、ミノタウロスいるのかなぁ、なんて考えてはいた。それでミノタウロスに襲われそうになっている所を女騎士が助けてくれて、ロマンスが始まるんだ、と。そんな淡い考えを抱いていた。
しかし、いざでくわしてみたら、やられていたのは女騎士の方で、助けるのは僕達だ。まぁ、それはいいにしても。実際に目の当たりにしたミノタウロスはあまりにも凶悪で、こんな怪物に人間が立ちうちできるとはとても思えない。持っている斧も、人間にはとても扱いきれないような大きな斧で、当たったら鎧ごと切断されそうな恐ろしさがある。
どうやったら倒せるのか、全く想像できない。
今回は頼れる仲間が一人もいない。マリ―も、テレサも、ミーシャも、ボッスンも、みんなモルカドの街に留守番だ。いるのは、僕と引き分けたEランク冒険者のシスコだけだ。
ああ、詰んだ。
ついに、僕の異世界ライフが終わりを告げるんだ。
僕はミノタウロスを見た瞬間、この世界にきてからもう何度目になるかわからない死の予感に包まれたのであった。




