17. 涙の裏切り
小走りで走っていた。本当に自分でもなんでこんなに焦っているのかわからない。それなのに、僕の足はどんどんと速く動いていく。
街の中央にある噴水周りを覗いてみてもミーシャの姿はみつからず、そのまま商店が立ち並ぶ商業地帯を探してみてもみつからない。
ちょっと外の空気を吸いにいくとしたらそんなに遠くには行かないはずだ。これだけ探してもみつからないということは何かしらの事件に巻き込まれたのかもしれない。僕の不安な気持ちがどんどんと大きくなっていく。
僕は最後の可能性として屋敷へと戻ることにした。ここにもいなかったらみんなに声をかけて探してもらうと思う。へんに騒ぎにするのは気が引けるが、万が一を防げるならその方がいいはずだ。この世界には危険がいっぱいで、街の中だって例外と言うわけではないのだから。
そして、屋敷までやってきた。
「ミーシャちゃん!!!」
そこには探し求めていた姿があった。背には大きな荷物を背負っている。
僕はあわてて、ミーシャの元までかけつけた。
「みつかっちゃいましたか......」
ミーシャは寂しそうにうつむいてそう言った。
「どうしたの!?なんでそんな大荷物を持ってるの!?」
僕は不審なミーシャの様子に動揺する。
出て行く気だろうか。僕の不安な気持ちの原因はこれだったのかもしれないと一人で納得する。
しかし、ここに来る時は荷物なんて全く持っていなかった。一体どうしたというのだろうか。
「しょうがないですね......」
「何がしょうないの!言ってくれなきゃわからないよ!」
ふふっと苦笑を浮かべるミーシャの肩をつかむ。
「こういうことです!!」
「――――!?」
僕が肩を掴むと同時にミーシャは体全体を思いっきり引いた。肩をつかんでいた僕は体制を崩される。ミーシャは体制を崩した僕に追い打ちをかけるようにかかと落としをする。僕は耐えきれずに地面にたたきつけられた。
ミーシャはそんな僕の上にどさりと座りこんだ。
「何をするんだ!く......動けない」
「私も本当はこんなことしたくないんです。ご主人様はへなちゃこですけど良い人ですし、マリーさんとテレサさんだって私の過去話を聞いて泣いてくれました。みんなみんな良い人達です」
「なんで急にそんな話をするんだよ!そんなのまるで――――」
まるでここから去って行ってしまうみたいじゃないか
僕は続きを話すことができなかった。
ミーシャに組み敷かれ、身動きもとれない状況で黙りこむ。
「そうです。これでお別れです。そして―――」
ミーシャは僕が考えていた通りのことを口にして......
「―――これでご主人様との偽物の関係はお終いです。そして、屋敷のお宝は全て頂いていきます」
僕が考えていた以上に最悪のことを口にした。
出ていこうとしていたのはなんなく想像していた。しかし、偽物の関係?お宝は頂いていく?あまりの衝撃的な出来事に僕は何も口にすることができなくなってしまった。
「何も話せないですか。そうですよね。それが当然だと思います。私も昨日の今日でこんなことになるとは思ってませんでした。あの二人がこんなに早く帰ってくるのが予想外でしたから」
組み敷かれているため、ミーシャの表情は見えない。一体彼女は今、どんな表情で言っているのだろうか。騙された僕たちを馬鹿にして笑っているだろうか。それとも無表情で話しているのだろうか。
「どうして......こんなことを」
「何も知らないのはかわいそうだから教えてあげます。私達は最初からお宝目当てであなたに近づいたのです。C級冒険者の二人が留守なのは知っていましたから。だから奴隷契約だって本当はかわされていません。私とアナタは赤の他人なんです」
「赤の他人......?」
「ええ。騙してすみませんね。私の本当のご主人様はあの奴隷商人です」
「そんな......じゃあ、全部嘘だったの?昨日の話も全部」
「全て嘘です。ただ、昨日の話はほとんど真実ですよ。違ったのは最後の部分だけです。三回目のご主人様に追い出された私は盗人に売られたのです。そして、ここにやってきました。これが真実です」
なんてことだ。こんなことって......
「そんな盗人の言うことに従わないで、僕達とこのまま一緒に暮らしていくことはできないかな?僕達楽しくやっていけると思うんだけど。駄目かな?」
僕は最後の望みをかけて質問をする。
「すみません。それはできません」
「そう......か」
「それでは私はこれで失礼させていただきます。ご主人様にはここでこのまま眠ってもらおうと思います」
そう言うと、ミーシャは何やらごそごそと動き始めた。何かしらの薬をつかってか、はたまた物理的にかはわからないが、僕のことを眠りに就かせるつもりらしい。
僕は意を決して行動する。
「ボッスン!!!」
「カ―!!」
「――――!?」
僕が叫ぶと、姿を消して周囲を飛んでいたボッスンがミーシャに向けて特大の風魔法を放った。ミーシャはボッスンの風魔法を受けて、僕の上から吹き飛ばされた。
ミーシャの拘束から解けた僕はすぐに立ち上がって、ミーシャと向き合った。
「このまま黙っていかせるなんて、そんなことはできない!」
僕はびしっと腕を広げてミーシャの前に立ちはだかる。
「ごめんなさい」
「――――!?」
ミーシャは僕が広げた腕をかいくぐり、もの凄いスピードで駆け抜ける。訓練の時同様、全く反応することもできずにすり抜けらてしまった。荷物を持っているのに訓練の時よりも速かったような気がする。とはいえ、僕だって特訓してきたわけだし、速いからといってそんなにあっさりと抜かれるなんてことはない。しかし、それでも抜けられてしまったのは、ミーシャの表情を見てしまったからだった。
ミーシャは顔を歪め、その瞳には大粒の涙を浮かべていたのだ。
「本当にごめんなさい!」
ミーシャはそう言って、ものすごいスピードで駆け抜けて行ってしまったのであった。
「......」
僕は取り残されたまま、最後のミーシャの表情について考える。
騙してしていたのは事実だろうが、でも、もしからしたら全てが嘘だったわけではないのかもしれない。本当はミーシャも僕達と一緒にいたいのではないだろうか。真面目なミーシャのことだから、主人である盗人に従っているだけで、本当はそんなことしたくないのかもしれない。だからあんな悲しそうな表情をしていたのかもしれない。
これはすべて僕の憶測にすぎないし、僕がミーシャの後を追いかけたからといって何かが解決するかはわからない。
しかし、それでも、僕はミーシャの後を追いかけて走り始めていた。
どこに行ったかはわからない。しかし、ここから出て行くつもりなら通る場所は一つしかない。僕は門をめがけて走り始めた。
全力で走る。
“グランマの家”が目に入った。入口にはマリ―の姿があった。
「あれ?タイチさんどうし―――」
「ごめん!後で説明するか!今はちょっと時間がないから!」
僕は慌ててそう告げて走り始めた。
ことは一刻を争う。もしもここでミーシャをみつけることができなかったら一生みつけることができなくなってしまうかもしれない。いまならまだ間に合う可能性がある。
そして、門までやってきた。
「お!どうした。そんなに焦っ―――」
「カストルさん、すみません、これくらいの身長で大きな荷物を持った獣人の女の子が出ていきませんでしたか?」
「お、おお。それだったら丁度今出て行ったとこだぞ。小走りであっちの方に走っていったぞ」
「ありがとうございます!」
僕はそれを聞いてすぐに走り始めた。
「おい!装備も持たずに危ないぞ!!!戻ってこい!!」
後ろでカストルが怒鳴っているのが聞こえたが、僕は止まることなく走り続けた。
そして、前方に二つの人影を発見する。
間に......あった。
「待って!!!」
僕はその人影に向かって声をあげて叫んだ。




