13. 真昼間の決闘:その2
決闘の舞台となる冒険ギルドの闘技場は考えていたよりもずっと立派な施設であった。見たことはないんだけどコロッセオの闘技場のような雰囲気を感じられる。もしくは東京ドーム下に広がるという地下闘技場のような感じだろうか。広さは市営の体育館ほどだが、観客席が周りを囲んで広がっており、その影響か結構広く感じられる。そして、その観客席の大部分を既に人が埋め尽くしていた。
闘技場の真ん中には冒険者Aとギルドマスターが立っている。
「オオオオオオオオオ!!!!」
僕が入ってきたことに気付いた観客達が興奮の声を上げる。
その声が地響きのようになり響く。
「何これ......」
僕は想像以上の光景を目の当たりし、思わず固めた決意が揺らいでしまう。まさか末端の冒険者同士の決闘でこれほど人が集まるとは思っていなかった。
「決闘は娯楽的な意味もありますからね。久々の決闘にみんな浮かれているんですよ」
「そうなんですか」
ぺルぺルが説明をしてくれる。
もしかしたら人が死ぬかもしれないというのにそれを娯楽にしてしまうなんて。確かに自分も観客側だったら楽しんだかもしれないけど、いざ当事者としてこの場所にくるとなんだかとても不謹慎に感じられる。僕の戦いなんてみたって楽しくないのに。
「あれがタイチの対戦相手?あれってシスコじゃない」
テレサが闘技場の真ん中に立つ冒険者Aをみてそう呟いた。
「知ってるんですか?」
「知ってるわよ。魔法の才能が全然ないのに毎回私の訓練教室に参加してるのよね。魔法の才能はなくても、剣の腕は立つんだぜ、なんて言ってたけどどうなのかしらね。これは楽しみだわ」
「そうなんですか」
試合前になんとも不安になる情報である。これはやっぱり作戦を実行するしかないかもしれないな。うまくいかなければ逆効果になる可能性も大いにある作戦だけれども。
僕は冒険者Aを見る。僕がやってきたのに気付いてからずっとこちらを睨んできているが、視線をなんとかあわせないように全身を観察する。装備はシンプルで、鉄でできたプレートを胸につけているだけだ。僕の革製の鎧よりも防御面積は小さいようにみられるが、その分身軽で動きやすそうな雰囲気はある。
「では、マリ―さんはいざという時の回復役として下で待機してください。テレサさんとミーシャさんは観客席で見守っていてくださいね」
「わかりました。タイチさん、頑張ってくださいね」
そう言って、マリ―は闘技場の隅に何人か集まっている人のところに走っていた。よく見ると騎士のクリスもいるようだ。
テレサとミーシャも観客席の中へと入って行く。
「いいわね。負けたら承知ないから」
「頑張ってください、ご主人様」
二人の声に、僕は手を挙げて応える。
「では、私も下で待機してますから、死なないように頑張ってください」
そう言って、ぺルぺルもマリ―の方へと走っていった。
僕は意を決して、闘技場の真ん中まで歩いていく。緊張を沈めるように、砂を踏みしめながら一歩一歩ゆっくりと歩く。観客達はそんな僕の様子をみてさらに大絶叫を上げる。その声の大きさで砂が振動しているようだ。
そして、冒険者Aとギルドマスターの元へとたどり着いた。
「ふん、女をひきつれて登場とは、良い身分だな、全く」
冒険者Aは僕が来るなりそう呟く。僕はそんな冒険者Aを無視して、向かい合った。無視されたことで怒りの表情を浮かべる冒険者A。
僕と冒険者Aが揃ったことで、ギルドマスターはホッホッホと笑って話始める。
「それでは、ここに決闘者が集まった。さっそくルール説明をさせてもらおう。相手を立ちあがらせなくするか、降参と言わせた方が勝者である。武器はこちらが用意した刃引きした剣を使用してももらう―――」
みたことのない男のギルド役員らしき人が剣を持ってくる。僕と冒険者Aがその剣を受けとる。木刀よりも重みがあり、危険性はとても高く感じられる。というか。
木刀じゃないの!?
「―――それ以外には魔法の使用のみを許可する。ル―ルは以上だ。正々堂々とした試合をするように。それでは、決闘を始める!」
そう宣言すると、ギルドマスターはスタッと残像が残るような速度で移動して、僕達から距離をとった。
冒険者Aはすっと剣を構えた。その姿勢は思っていたよりもずっと綺麗で美しく、テレサに言ったことはあながち根拠のないたわごとではないかもしれないなと思った。僕はその構えをみて、木刀でなかったことの動揺を必死におさえ、考えていた作戦を実行することを決意した。
「戦う前に一言言っておきたい」
僕も剣を構えながら、冒険者Aにそう言った。
「あ?なんだよ」
冒険者Aはいらいらした様子で応える。
「なんだ?その装備は。ボロボロのプレートだけか?そんなんで僕に勝てると思ってるのか?それに頭に巻いてるバンダナもボロボロで汚らしいんだよ。そんなものをつけてくるなよな。ばっちいな」
「――――!?」
僕の挑発を受け、ぴくりと反応する冒険者A。一瞬驚いたような顔をしてから、徐々にその顔には怒りの色が濃くなっていく。僕はさらに続けて挑発する。
「今から負けた時の言い訳を考えておくんだな。ま、それも死んだら言えな――」
「――――ふざけんじゃねええぞ!!!!」
冒険者Aが僕の声を遮るように絶叫した。
「この鎧も、バンダナも、みんな死んだ親父の形見なんだよ!それをお前みたいなへなちょこ野郎が馬鹿にしやがって、絶対ゆるさねー!!!!!」
冒険者Aは怒りの形相で剣を大きく振り上げた。
思っていた以上に相手を怒らせてしまったようだが、しかし、僕は作戦の成功ににやりと笑った。大きく剣を振り上げた冒険者Aの懐に僕は全力で突っ込む。
「遅い!!」
「―――なに!?」
僕が突然飛び込んできたことに驚きの表情を浮かべる冒険者A。
僕もその気持ちはよくわかるよ。そう心の中で呟いて、プレートが覆っていないお腹を狙って、思いっきり剣を振った。
「ぐあ!!!」
刃引きしてある剣のため、お腹を一刀両断で切り裂くということはない。しかし、それなりに重量のある剣がお腹に直撃したのである。ダメージは相当のものだろう。冒険者Aは苦悶の表情を浮かべて、地面に膝をついた。
僕はすぐに距離を取って剣を構えなおす。
闘技場はいきなりの出来事にシーンと静まり返った。そして、少しの間を開け、最前列で鑑賞していた冒険者Aの仲間と思われる人間だけが、「こんなの反則だ~」「ふざけるなよ!この卑怯者!」などといったヤジを飛ばし始める。
これが僕の考えた作戦。挑発して大振りを誘って一撃でしとめよう作戦だ。かっこ悪いかもしれないが、真っ向から戦った時、いくら特訓をしたとはいっても小さい頃からこの世界で生きてきた人間相手では分が悪い。確実に勝つためにはこうするしかなかったのだ。相手が冷静さを崩さずに向かってきた場合は容赦なくやられてしまうというデメリットもあるし、特訓したからこそ相手の隙をつけたわけだから、決して卑怯なだけの手ではない......と思う。
「どうだ?降参するか?」
僕は膝をつき苦しそうにしている冒険者Aに向かってそう言った。僕としてはできるならここで降参してもらえるとありがたい。これ以上追撃するのは気が引ける。
男は苦悶の表情を浮かべながら、しかし、ぎゅっと歯をかみしめて立ちあがった。
「そんなわけあるか!ここで仕留めきらなかったこと後悔させてやるぞ!」
立ちあがった冒険者Aに、闘技場は興奮の声を上げた。




