3. 僕の奴隷は破天荒な猫耳少女:その1
「そんなことがあったんですか。タイチさん、それって典型的な奴隷詐欺ですよ」
屋敷の中、暴れ疲れたミーシャは玄関の近くで横になって眠っていた。
僕はそんな彼女の横で正座して、マリーとテレサと対峙していた。
「奴隷詐欺......ですか?」
「ええ。問題を起こした奴隷なんかを安く買い集めて、同情を誘って売りつけるんですよ」
「やっぱり、そういうあれだったんですか」
マリ―の説明を聞いて思い当たる節がたくさんあった。
奪うように僕の腰袋を取って急いで契約を始めるシルクハットの男。エトセトラ、エトセトラ。
僕は正座をしながらしょんぼりする。
「でも、助けようとする姿勢は素晴らしいと思いますけどね」
「ありがとう、ございます」
頭を下げながら、ちらりとテレサの様子を観察する。テレサは横になったミーシャを眺めていた。
最初はものすごく怒っていたテレサだったが、魔法を放った後は少し落ち着いてきたのか僕に対しての興味を失っていた。いや、無視してるのか。話をしている間も、テレサは全然顔を合わせようとしなかった。
それでもじっとテレサをみつめる。
すると、テレサの手がミーシャの耳にむかって伸び始めていた。
「あ!それはやめた方がいいですよ!」
僕はあわててテレサの手を取って、ミーシャの耳に触るのを止めさせる。
テレサはきっと僕を睨んだ。
「ちょっと、触らないでよ!私はまだ許したわけじゃないのよ!私が触りたいものに触って何が悪いのよ!」
テレサはミーシャの耳に触ろうする力を込めてくる。
僕は必死にそれを止める。
「だから、だめなんですってば」
「あー、もう。なんなのよ!大体なんで私のトロフィーが壊れることになったのよ!全く意味がわからないんだけど?」
「確かに、話に聞く限りだと礼儀正しそうな子でしたけどね」
「実はまだ話には続きがありまして......」
僕はその後にあった出来事を話し始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ミーシャと楽しく夕食を食べた翌朝、僕とミーシャは冒険者ギルドに向かって歩いていた。
ボッスンは今日は上空を飛行中だ。
「これから冒険者ギルドに行って依頼を受けようと思うんだけど、ミーシャちゃんは戦いとかできる?」
ぱっと見は十歳の少女でも、本当は十五歳で獣人だ。戦えるのなら一緒に戦ってもらいたい。カラスのボッスンと僕でもかなり安定してウサギを狩ることはできるようになっていたけど、より安全になるならその方がいい。
「できます。私はこう見えてもピューマの一族ですから。戦闘は得意なんですよ」
「そうなんだ。それはありがたい。何か使いなれた武器とかはある?」
「素手でも問題なく戦えます」
そう言って、ミーシャは爪をきらりと光らせた。
僕はその可愛らしい見た目に反したその凶悪な凶器に一瞬びくりとしてしまう。
「何か武器を使えるとしても素手の方がいいの?」
「何かしら頂けるのでしたら、短剣がいいです。あまり大きな武器だと動けなくなってしまうので」
「短剣か。素材をはぎ取る用の短剣ならあるんだけど」
僕は腰につけていた短剣をミーシャに見せる。
「それでも大丈夫ですよ」
「じゃあ、今日はこれを使ってもらえるかな?」
僕は腰に付けていた短剣をミーシャに渡した。
ミーシャはそれを受け取って、ローブの中にしまっていた。
「わかりました」
「またお金ができたらちゃんとした洋服と一緒に新しいの買ってあげるから」
「え!?いいですよ。そんな。私のためにわざわざ新しいものなんて買わなくて」
「いいから、いいから気にしないで」
僕は心の中でにんまり笑う。
これでまた僕の株があがったな。これは案外あっという間に好意をもたれちゃうかもな。
モテル男はつらいな~。あっはっは。
「............」
そんなやりとりをしながら歩いていると、街の中央にある噴水が見え始める。
もう少しで冒険者ギルドに到着する。
そんな時、上の方から聞きなれた声が聞こえてきた。
「あれ、お兄さん、今日は小さい子を連れてどうしたの?」
僕達は足を止めて、声のした方に顔を向けた。
今日もいつものように宿屋の看板を掃除しているようだ。日本だったら小さな子供が一人で高いところに登って危ないな思うところだけど、ここでは朝に看板を掃除しているメルはいつもの日常風景で誰も気にしないのである。
「メルちゃん、おはよう」
「おはようございます」
僕達はメルに挨拶をする。
メルはひょいっと二m位の高さから飛び降りた。
そして、なんてことなく着地する。
これは一見するととんでもないことなんだけど、メルはこう見えて魔術師だったおばあちゃんの孫で、魔法の才能が豊かで、着地する瞬間に風魔法でふんわりと着地しているのである。
実は着地する際に風魔法の影響でちょっぴりパンツが見えたりしてるのだけど、僕は何も見てないふりをしてあげている。
「普通に挨拶してるけど、いつもと違うよね?言いたいことわかるよね?」
メルが後ろに束ねた髪をひらひらと揺らしながら、問い詰めるようにぐいぐいと近づいてくる。
もちろん言いたいことはわかっている。
「ごめん、ごめん。この子は昨日から僕の奴隷になったミーシャちゃんだよ。そして、こちらは最初の頃にお世話になった子でメルちゃんだよ」
「よろしくお願いします」
僕はそう言って、二人にお互いの紹介をする。
ミーシャはぺこりとお辞儀をする。
「奴隷?貧乏暇なしのお兄さんが?一体何が起きたらお兄さんに奴隷なんて買う余裕ができるの?誘拐したんじゃないでしょうね?」
「誘拐なんてしないよ!説明は難しいんだけど、多分ちゃんと正規な方法で奴隷になってるよ」
「本当かしら?」
メルは僕に対して疑いの眼差しを向ける。
ああ、なんだかこの視線、すごい久しぶりな気がする。最近は結構仲良くなり始めていたから、そんな目をされるとちょっぴり心が痛い。
「ちょっと、あなた、失礼じゃないかしら?」
僕達のやりとりを眺めていたミーシャが声を上げる。
その声にはちょっぴり怒りの感情が込められているように感じられた。
「あ、ごめんなさい。別に私はミーシャちゃんに対しては何も変なことは思ってないよ。これからよろしくね」
メルも僕と同じように感じたのか、あわてて謝罪をする。
「私はあなたのご主人様に対する態度について、文句を言ってるんです」
メルは一瞬何を言われているのか全くわからないような表情を浮かべ、やっぱり考えてもよくわからなかったのか疑問符を顔いっぱいに浮かべながら質問をする。
「え?私がお兄さんに対しての態度?」
「そうです。あなた、ご主人様よりすごい年下にも関わらず随分生意気な態度をとっているじゃありませんか。そういうのは失礼ですよ」
「私とお兄さんは大体いつもこんな感じだから特別変なことはしてないんだけど」
ようやく言いたいことを理解できたのか、メルはちょっぴり怒って返答をする。
ちうなみに、この間、僕は状況に全くついていけずにポカーンとしていた。
「いつもこんな感じ?だったらなおさら失礼じゃないですか。そういうのは許せません」
「なんですって」
バチバチと火花を散らしながらにらみ合う少女二人。
僕は、あわてて、二人の間に割ってはいった。
「まぁ、まぁ。ちょっと二人とも落ち着いてよ。ミーシャちゃん、そんなに怒らなくていいから。メルちゃは確かに年下だけど、別に今の関係に満足してるから。全然気にしてないから」
「そうは言ってもご主人様を侮辱されることは我慢できません。謝るまで許しません」
「なんで私が謝らなくっちゃいけないのよ」
二人は依然バチバチとにらみ合いを続ける。
しかし、ふっとメルの方が視線をそらす。
「もう、知らない。勝手にすればいいよ」
そう言って、ガニ股でづかづかと宿の入り口まで移動してこちらを振り返った。そして、僕達にむかってアッカンベーをして、激しい音を立てながら扉を閉めて中へと消えて行ったのだった。
「私、ご主人様を馬鹿にされると黙ってられないんです」
だとしてもあの対応はないでしょ~。
僕は内心で盛大につっこみつつも、何も言えずにただただ黙っているしかできなかった。




