28. 異世界ライフが思っていたのとちょっと違う
「全く決まってないのね?」
テレサが再度確認してくる。
もちろん、次の宿などまったく決まっていない。
「全くあてもございません」
「そう」
「だったらテレサ、ちょうど良いんじゃない?」
「そうね。確かにタイチならお金もかからないしいいかもしれない」
急に二人でなにやらごにょごにょと話し始める。
先ほどまでは一緒に楽しんでいたのに急にのけものにされてしまった。
正直、こういう状況は苦手だ。
「あの~、急にどうしたの?」
僕の問いかけに二人が内緒話をやめてこちらに向き直る。
「ごめんなさい。ちょっとテレサと相談事を」
「相談事ですか?」
「はい。タイチさんはまだ宿が決まってないんですよね?」
「ええ、まあ」
「できれば安いところに泊りたいですよね?」
「そうですね。お金に余裕がほとんどないもので」
「そうですよね!良かったです」
マリ―がにっこりと笑う。
「あの~、ちょっと意味がわからないんですけども」
「あ、ごめんなさい。実はタイチさんにお願いごとがあるんです」
「お願いごと?」
「はい。もしよかったら私達が旅にでてる間、私たちの家で生活しませんか?」
「はい?」
「実は私達これからとある依頼で30日位この町を去るんですよ」
「えええ~!!!」
これから一緒に楽しい異世界ライフを送って行けると思ったのに。まさかいきなり離れ離れになるなんて......
「Bランクになるために必ずクリアしときたい依頼なのよ。それでね。長い間家を開けとくとほこりまみれになっちゃうし、色々盗まれないか心配だから、タイチに掃除と留守番を頼みたいのよ。掃除するだけでただで住めるならお得でしょ?」
「確かにそうだけど......その依頼僕もついていっちゃ駄目かな?」
「駄目に決まってるでしょ。足手まといよ」
「そうですよね~」
うーん、宿問題が解決するのは嬉しいけれど、正直二人と一緒に行動したかった。
でも、現実問題僕が二人と一緒に行動しても邪魔にしかならない。少なくとも、今はまだ。今回は良い話をもらえたと思って喜んでおくのがいいのかな。
「どうですか?タイチさん。引き受けてくれますか?」
「わかりました。二人が留守の間、僕が二人の家を守りましょう」
「ありがとうございます。これで安心して旅にでれます」
マリ―がぺこぺこと頭を下げる。
この場合、本当は感謝をするのは僕の方な気がするんだけど......
「じゃあ、ちょうどお酒も飲み終わったし、私たちの家に行きましょうか!」
そう言ってテレサがバッとイスから立ち上がる。
僕もあわてて、残っていたお酒を飲み込み立ちあがった。
そして、さっそく僕達はテレサとマリーが住んでる家までやってきたのだった。
怒涛の急展開である。
「で......でかい!」
僕の目の前には驚くべき光景が広がっていた。
ここに来る前は二人で住んでいるということで、こじんまりした小さな家を想像していたのだが、実際は豪邸も豪邸。地球にある僕の実家の四倍はあろうかというサイズであった。庭もサッカーができるのではないかという位に広い。
「すごいでしょ!ここにきて最初の依頼でこの町の領主の問題を解決して、お礼にもらったのよ」
「こんなに大きな家は申し訳ないって言ったんですけど、どうしてももらってくれということで......」
「すごいですね~」
こういうイベントって、僕みたいな異世界人用のイベントじゃないの?
僕は二人にちょっぴりと嫉妬する。
しかし、こんな大きな家じゃ掃除も大変そうだな。
「じゃあ、さっそくアナタの部屋を案内するわね」
テレサが屋敷の扉をばーんと開け放つ。
僕はおっかなびくっりしながら、家の中へと足を踏み入れた。
中も外に負けないほど豪華な造りをしていた。敷いてある絨毯も高級そうだ。
「お金になるものがいっぱいだから家を空ける時はいつもびくびくしてたのよね~」
「はぁ。そうですか」
確かにここに置いてある家具類を売ったら凄いお金になりそうである。
テレサの後を追いながら家の中をじろじろと眺めるが、どれも本当に高級そうなものばかりだ。
テレサがとある部屋の前で足を止める。
「この部屋を使ってくれる?」
そう言って、テレサが部屋のドアを開ける。そっと中を覗き込む。
思っていたよりも質素な造りをした部屋であった。中も6畳ほどの大きさしかない。ベッドとタンスと机が置かれたシンプルな部屋だ。しかも、その家具もそんなに高そうにはみえない。
「なんかこの部屋だけ浮いてるような」
僕が素朴な疑問を口にすると、テレサはにやりと笑う。
「元々は執事とか使用人の部屋だからね」
「使用人?」
「流石にあなたに大きな部屋は貸せないはね」
「ごめんなさい。私はかまわなかったんだけど、テレサがどうしても譲らなくて」
「最初に良い思いをしすぎるとよくないからこれ位でいいのよ」
「でも、わざわざ一番小さな部屋にしなくても」
「まぁ、僕は部屋を貸してもらえるだけでも嬉しいですから。気にしないでください」
「ほらね」
こうして僕はテレサとマリ―の豪邸の使用人室で厄介になることになったのであった。
テレサから細かいルールを教え込まれた。どこの部屋にははいっちゃいけないだとか、ここはしっかり掃除してほしいだとか、頭の出来が悪い僕ではそんなにいっぺんに覚えられない位だ。
「こんなところかしらね。わかったかしら?」
「えーっと、うーんと、大丈夫です」
僕は親指を立てる。
「本当にわかったのかしらね?」
「テレサは細かすぎよ。あんまり気にしすぎないでくださいね」
「はい」
「じゃあ、私たちはこれから出発するわね」
「え!?もう出発するんですか?」
「ええ。やると決めたら即行動よ!」
「では、タイチさん。よろしくお願いしますね」
「わ、わかりました」
テレサとマリーはそそくさと荷物を準備して、ぱぱーと出発していった。
僕はそんな二人の後ろ姿を眺めながら手を振った。
「いってらっしゃ~い」
僕はぽつんと一人、屋敷に取り残されたのだった。
僕は振り返って屋敷を眺める。
「この豪邸に一人で生活するのはちょっと寂しいかもなぁ」
僕がぼそりとそんなことを呟いた時、屋敷の庭に一匹のカラスが舞い降りた。
「あれ、お前は?」
左目に傷を負った見覚えのあるカラスが僕をじーっと見つめていた。
「ボスガラスじゃないか。どうしたんだ?」
「カ―」
今までに聞いた中で一番穏やかな鳴き声であった。
ボスガラスをよく見ると体には無数の傷跡がつけられていた。もしかしたら僕に負けたことで仲間達からリンチにあったのかもしれない。
僕はそんなカラスの姿に自分の姿を重ねてしまう。そして、気付いたらこんなことを言ってしまっていた。
「一緒に暮らすか?」
「カ―」
こくりとうなずくボスガラス。
どうやら一緒に暮らしたいようだ。
「よし、じゃあ今日から相棒だ!」
「カー!」
こうして、僕には相棒ができたのであった。
これからはカラスと二人で楽しく生活していくぞ!
――――――――うーん、でも、なんだか。
「異世界ライフが思っていたのとちょっと違うんだけど......」
僕の異世界ライフはまだまだ始まったばかりだ。
第一章~完~
読んで頂いてありがとうございます。
これにて第一章は終了です。
引き続き第二章も書いていきますのでよろしくお願いします。




